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行方不明

 猫が帰ってこない。
 去年の嵐の日にやってきた、双子のうち1匹が。
 母の話によると、生まれたばかりの子猫を咥えて、強風から逃げてきた母猫を、庭の物置に避難させたのだという。
 家猫にすることはできない、という理由から一時的に軒を貸していただけで、家の中にいれていたのは避妊手術の前後1カ月ていど。普段はぼろぼろの納屋と、物置を貸し与えていた。

 双子のうちおとなしい方の1匹は、もうすでに野良猫の作法を身につけていて、人間との適度な距離感や、よそからやってくる他の野良猫との付き合いかたを見につけていたが、やんちゃな方の一匹は、過度に人間に甘える一方で、体の大きなオス猫にあいさつ無しでパンチをくりだすことがあった。      
 運動神経がよく、庭の梅の木を伝って母屋の屋根に登ったりすることがあったが、朝食前に体中をなでまわしていると、いつもどこかしら怪我をしていることがあった(そもそも、母猫からして数年前にうちの庭に姿をみせるようになった頃は、体中傷だらけで、片目にも傷を負っていた)。

 いつか必ず痛い目をみるだろうことは予想できていたし、最悪の事態も覚悟していたが、前触れもなく唐突に訪れると心がいたい。
 姿を見なくなってまだ3日で、自宅周辺はあらかた探し回ったが、どこにもいない。
 そのうち帰ってくるだろうという楽観や、ついにこの日がきたかという落胆、いやでも野良猫だからなという諦めや、これから寒くなるよなという心配など様々な思いが交互に訪れて、情緒不安定。

 もともとわたしはこの問題には何の関係もなく、台風が過ぎて1カ月近く経ってから子猫のことを母から知らされた。正直、最初は内心あきれていた。
 それがいつの間にか責任を感じ、だんだんとのめりこんでいろいろな時間を削って、ひとりで勝手にバタバタしていたように思う。

 自分にできることは全部やったという自負はあるけれど、それでも力不足は否めない。
 本当はいろいろと愚痴もあるけれど、結論はわたしの力不足。

 とりあえず、書くことで少しは気持ちが落ち着いたような気がする。
  
 お金は必要最低限あればいい、などとセコイこと言ってないで、もっとお金を稼いで野良猫のために家一軒建てられるくらいの人間になろうと思った。
 もう、それは保護活動家なのでは、という気もするが、そういう方向性も考えている。

わたしの活動が、あなたの生活の一助になっているのなら、さいわいです。