コンビニから帰ってくると母がガンになっていた。

親が死ぬかもしれない。そりゃいつかは死ぬんだ。でも親が死ぬなんてこれまで1度も考えた事なかった。

2020年9月3日、夕方コンビニから帰ると母がいつもの定期検診からちょうど帰ってきていた。「おかえり」というといつも通り「ただいま」と返してきた。一緒に家に入り軽く世間話をしていると母は突然「なんかねぇガンだったわぁ」と言った。

意味がわからなかった。母親の言っている事が理解ができず「あー……そっかぁ」としか返せなかった気がする。

そこから母が色々説明していたようだが殆ど覚えていない。突然頭をバットで殴られたかのような衝撃で立っている事に必死だった。とりあえずガンはかなり進行していて、転移の可能性もあるから明後日また病院に行く事だけ理解して自分の部屋に逃げた。

部屋に逃げた僕はスマホで必死に調べた。ガンのステージの詳細、余命、生存率。

調べれば調べるほど吐きそうになった。もしもステージ4だった時は3年生存率15%と書いてあって涙が止まらなかった。

勝手に人の生存率を決めるな!とか、進行するまで見つけられないなんて何の為の定期検診なんだ!とか色んなものに腹が立って頭の中がぐちゃぐちゃになった。

何時間かした後、母に呼ばれて改めて話をした。母は俺がちゃんと聞けてなかった事に気付いてたらしい。改めて説明した後に親戚には言うな、私は平気だから気にするなとだけ言った。

夜遅く父が仕事から帰ってきて母と話していた。父は仕事から帰ると必ず母と一緒に録画したドラマを見ながらご飯を食べる。

だけどその日はご飯を食べずに散歩に出かけた。母が申し訳なさそうな顔をしていたのを今でも覚えている。

これまで親の老いを感じた事は何度もある。本を読む時に老眼鏡をかけるようになった事。犬の散歩の時間が短くなった事。家事をしている時休憩が増えてきた事。機械に弱くなってきた事。

その時々少し寂しさを感じる事はあれど5分後には忘れていた気がする。

でも今回はそうはいかない。仕事中に親の文句を言う後輩に腹が立ったり、親子の客を相手にしていると泣きそうになったりする。いつものように残業していると「家に帰らなきゃいけないのに」とイライラし、普段は気にならない細かいミスに異常に腹が立った。またトイレとかに行って1人になると泣きそうになるせいで1人になれない状態が長く続いた。

そうやって情緒不安定な状態から気持ちの整理ができて眠れるようになるまで1ヶ月かかった。

僕が気持ちの整理ができるまでの1ヶ月で母は転移が見つかり治療を始めていた。

このノートは続けるか分からない。でも気持ちの整理の為、気が向いたらまた書こうと思う。

ガンなんてドラマの世界だけの話じゃなくなってしまった。これからどうしていくか、誰に相談したらいいのか、今も分からない。

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