2023年 逆噴射小説大賞ライナーノーツ

チャオ、諸兄!
ご存じの方はご存じ、ご存じでない方はご存じない、でお馴染み、白蔵主天狗です。知っている方はお気軽にハクゾースチャンとお呼びください。知らない人でも「あのガバ天狗」って呼んでもらって大丈夫。
逆鱗みたいなものが存在していますが、基本的にはドMなので雑に言及されたり蹴飛ばされたりするのが大好きです。逆鱗といってもカジュアルなやつなので一度目は大丈夫です。二度同じのに触れたら殺す。

ともあれ、今回も2作つくりました。今年は、開催前に「いつも投稿してる人たち」のオフ会などもあり、よい刺激をいただいた回になった気がします。
逆噴射小説大賞に限らず、わたしが何かを書くときに考えていることは「わたしが好きか」「ほかの人に任せられないのか」です。

基本的にものぐさなので、ほかの人に任せて出来上がるものなら、その人に任せるのが一番いいんじゃない?というスタンスで生きてます。わたしが読みたくて、誰も代わりにやってくれなくて、わたしが一番うまくできるなら、仕方ないので書きます。

そんなわたしはだいぶ(病的に)忘れっぽく、今年に入ってからは公私ともに色々あってあんまり創作することに触れていませんでした。忘れてた、と言ってもいい。そんなこんなで勘を取り戻すために無心で書いたプラクティス。
一個目がこちら。

これについては、パルプの人の飲み会に出たとき、今では書籍化も決まってフィーバーしているライオンマスクさんから「あなたはなぜ、本気を出さないのか!」「もっとちゃんとやれるでしょ!」と煽られて少しやる気になったとこで書いてます。二次会(正確には飲み会第二回)の前の日に投下した。

ただ、これについてはちょっと可哀そうなプラクティスで、あらかじめ「こねて整形して大賞向けのものに仕上げよう」という意図がないまま書きました。まさに素振り。
最初に「人間の言語がそのまま通じる」「ちゃんと傷つく」が機械言語に実装されてた世代の電子霊を考えました。そこまで。その世代に対する除霊は「罵る」が基本で、ちゃんと電子霊がへこんだところに物理でメチャクチャにするのって残酷で面白くないかしら?というワンイシューです。

ワンイシューの面白いとこは、それだけで800字くらいなら書けちゃうことなんですよね。ただ、その先がない場合が多い。この作でいうと、電子霊の除霊手段がちょっと奇抜で面白いのはそれはそう。読み味も悪くないとは思う。
でも、だから何?って言われると弱い。
面白い世界だけど、何が起きるの?って言われたら答えがない。
主人公には過去に肉親やら「偽の息子」を失った過去があるらしい、というのを提示しても「だから何?」に答えられない。主人公の造形が割と浅いんですね。浅いというか、あんまりちゃんと練ってない。

ただそれなりに上手くは書けていて、だから、この作の続きを読みたい、という気持ちは物語そのものではなくて「作者」に対する期待なんよな、というのを再確認したのが成果でした。物語としては不憫。成仏してほしい。

ちなみに、こういったワンイシューのものを書くのが無駄ということはなく、どっかでこの除霊手段だけをコンバートして使えばいいと思うので、これはこれでいいと思います。

さて、本題。

今年の投稿作についてです。まず一つめ。


これは、素振りを一度終えてから考えて書いた作。とりあえず本気でやれって言われたのですが、本気というならレギュレーション不利を踏み越えて徹底的に蹂躙したいという欲が捨てきれず「ドラゴンカーセックス」で行こう、という衝動に素直に書き始めました。
ただドラゴンカーセックスって単語を直接書くのはいかにも「ドラゴンカーセックスって書けばおまえたちは喜ぶんだろ」みたいな感じで野暮なので、軽自動車・ドラゴン・発情、という三題が同居すれば、まあ分かる人は分かるやろ、くらいの設計です。
ちなみに最後までタイトルが決まらなくて、飲み会に向かう電車の中で「ダンジョンズアンドドラゴンズ」みたいなタイトルで何かいいのないかなあ、という中で思いつきました。D&DDっていうのは割とオシャレで気に入ってます。

中身については、ドラゴンが発情した、というところを書くのに大体分量の半分くらい。あとは登場人物のトンチキさをそれぞれ1/4ずつ書いて、主人公(語り手)にも一癖ありそうだぞ、というのを提示するような感じで行こう、というのがレシピです。最初からその設計で書いたので、削るのは微細な部分でした。

記憶に残っているのは初稿時に「あのドラゴン、オスか?メスか?」ってボスの台詞。別に「オスか?メスか?」って聞く意味ないじゃんね、と思って削ったとこです。結果、「あのドラゴン、メスか?」結果、テンポ良くなったので、これはいい仕事したなと思ってます(最初の台詞にセンスがないだけ)。
ミンミンは最初から空気を読まない子でした。

これを書くときにぼんやり考えていた構想は以下の通り。

主人公:名前なし、男女も決めてない。語り手であること以外は完全な虚無。
ボス:名前なし、面倒見のいい親分。たぶん度量は広い。男女も決めてない。追いつめられるたび、思い付きと部下を上手く使うことで乗り切るタイプ。
ミンミン:ボスの「補佐の逆」ばっかする。敵なの?技能的には一番頼りになるけど、絶対にボスと作者の思い通りに動いてくれない。

脳内どうなってんの

書きながら、段々とそれぞれの役割を決めました。土曜日、買い物に行ってるときとかに書いたはず。それから夜までに多分改稿、二回くらいじゃないかな。800字に削り終えたときの設定。

主人公:マチェットはコードネーム。おそらく技能は切り落とすとかそのあたりのもの。基本的にバカでやる気がないというより、「何をしたらいいのか」を掴むのがすごい苦手。軍属か何かだった期間がある。指示さえちゃんとしっかりしておけば本気のミンミンより有能。たぶんドラゴンの金玉を切り落とすとき、ボスの指示が下手だったせいで間違えて別のものとか切る。夜の方がしゃっきりする。多分亜人。後部座席で刀抱えてる。

ボス:技能的には本当にびっくりするくらいザコ。人柄でみんながついてくるタイプ。得意な戦法は泣き落としからの逆ギレ。部下が思い通りに動かないのが「常」なので他人のリカバリーが異常に得意。常時プランBからプランFくらいまで持ってるように見えるけど、基本的にはその場で考えてる。どんなにカスでも部下の悪口を決して言わない。「あいつだっていいとこあるんだよ!えーと!今ちょっと思い出せないけど、あるの!」とか言っちゃう。そのせいか、ガチ目で裏切ってた部下とかも土壇場で「やっぱ俺、元のボスの方にもう一回寝返ろっかな!」とかなる。

ミンミン:天才。どんな目に遭っても自分だけは死なない(たぶん)ので基本的には傍観者であることが多い。今回は楽しみにしてるソシャゲのイベント開始が17時だったので少し早く仕事を終えた。ボスがなんとかするだろという無茶ぶりがひどい。物語的にもこの先、「ボスの頼みなら仕方ないネ」っていって解決してくれたりはしない。徹頭徹尾モノにしかつられないタイプ。最後まで何もしない回とかもある。

まあ、このくらいの思い入れが出来れば、それなりに膨らみはできたでしょうよ、という感じ。キャラそれぞれの性別については実はやっぱり決めてなくて、連載始めるとしたら決めよっかな、という感じ。
お祭りなので0時ちょうどに投稿したけど、呻き声を聞くことが出来たのでよかった。これはこれでわたしの本気なのだ。

次。二作目。

これは割としっかりやりました。
パルプの飲み会で、漫画「あかね噺」をめちゃくちゃに推しまくっていたんですが、この物語の骨子に近い部分である「ひとの弱さ」についての部分。弱さというものが「忌避すべきもの」「克服すべきもの」としてではなく描かれる物語であること。これについては落語であるという題材が大きく背中を押したものもあると思うのだけど、これを「少年ジャンプ」でやるというのに、大きな時代の変化を感じたなあ、という話。

なのでドラゴンカーセックスを題材にして、単純な面白さで蹂躙するのはひとつやるとして、もうひとつ、別の「相性がよくない」のパターンでやろうと思ったんですね。
これは冒頭にも書いた「ほかの人がやらない」のこと。「弱さ」を書きたい。

話題は少しそれますが、去年やその前にも「母親」からの目線でパルプを書くというのをやってました。これもトレンドとして他人と被らない、ではなく、「ほかの人がやらない」を強く意識してました。あとは、子をもって思う、その小さな手の、異常なまでのイメージの牽引性。祈りのようなもの。食い合わせの悪そうなものをしっかり描くのはそれなりに地力がないと難しいと思いました。
まあ、その辺からスタートしたもので書くのは腕試しみたいなものなので「本気出せ」って言われるのもまあ、そうかなとも思う。本気ではあるのだけど、どこまで自分が出来るのか、というプラクティスじゃんと言われたらそれはそう。

ただまあ、これらに関してはわざわざ逆噴射小説大賞に向けるものかな、と言われたらその通りではあるので、今回はいっそ封印することにしました。

今回は「負け犬」「弱虫」「心が折れた」主人公が、英雄的に奮起する訳でもなく、かつての栄光を求めるのでもなく「負けたまま」「弱いまま」「心が折れたまま」事件にかかわっていく話を書こう、というのが骨子となってます。

これについては珍しく初稿が残っているのでアップしておきます。

 逃げちまえばいいじゃねえか。

 心の、奥から響くその声に従って、逃げた。心底ビビって、全滅するよりマシじゃねえかって、一人で、逃げ出した。おれは、おれがついてくるって信じている小隊のみんなを裏切って立ち止まった。難しいことは何もなかった。おれは止まり、みんなは進んでいく。やがてみんな、路地の奥に消えていった。
 追いかけてくるやつをどう躱そうか、考える必要もなかった。

 幽霊みたいに現れたそいつはおれの方を見もしなかった。…1名離脱。短く呟いたのは多分ジター通信だろう。女は目線どころか歩みを止めることもしなかった。いや不要だ、もう何もできないだろう。ガルム3、追跡を継続する。
 女は人差し指を唇に当てて通信を切った。切ったのだろう。おれももう、彼女の方を見なかった。おれは手にしていたクロークを落とした。繊細な機構は地面に落ちてイカれた筈だ。もうおれはそれを使わない。
カスめ、と吐き捨てた女の声が遠ざかってゆく。そうだ。おれは戦うこともなく負けたのだ。おれは、もう戦えない。おれの人生は決定した。

 三年逃げ続けて辿り着いたのは、麻薬畑くらいしか仕事のないクソみたいな国境近くの村だ。女の声を聞いて、おれはようやく自分が死ぬ時がきたことを知った。終わった。もう逃げられない。あの時の幽霊だ。

 女はおれを見下ろして呟いた。
「覚えているか、カバリ。彼らはお前と違って勇敢な戦士の最期を遂げた。お前が見捨てた路地裏の奥で、私が彼らをどうやって殺したか聞きたいか」
 おれは首を振る。
「俺たちは囮だ、彼らはそう言って笑ったぞ。お前のようなゴミを逃すために捨て駒になったのだと。そんなわけがあるか」
 女の爪先が腹に刺さり、おれは呻いた。
「だが事実、片付けに戻ってみるとお前はいなかった。見つけるのにかかった時間がわかるか。三年だ。三年」
 女は何度もおれを蹴りつける。
「癪だが、

ここまでで771文字

まあまあ、そりゃ面白いわよね。
ただ、何のフックもない。主人公の説明をしているだけ。さらに言うと、削れるものも少なくて、こっからどうしよっかなー、という感じ。事件も起きてないし、この「ガルム3」がなぜすぐ主人公を殺さないのかの説明を入れたうえで、気に食わないけど「逃げる才能」だけは利用しなければならない事態に陥っていることも書くの、あと29文字じゃだめだろ、というのがあって、三日くらいウンウン悩みました。

その間にちらほらと描写が綺麗とかそういった講評を受けた投稿作品があるのを横目で見て、おっし一人称止めんぞ!おれも地の文書くぞ!みたいな衝動が湧いて今の形式になってます。

ちなみに主人公の「逃げる才能」についてはこの時点ではあんまり固まってなくて、下記の感じでした。

・死ぬ運命が分かってしまうと、本人の意志に関係なく「助かる方」を選んでしまう能力
・この先死ぬ運命が待っていることが無条件に「分かる」能力
・別に能力でもなんでもなくて、経験から「今逃げれば少なくとも命だけは助かるな」が判断できる

どれもこれも「戦う」ためには一切役に立たないことを主にデザインされてる

ここから、だいぶ書き直して、さらにメチャクチャ削って今の形になったんですが、土曜日、日中はずっとどうすっかなーを考えていて、夜、子が寝静まった後いっきに3時間くらいずっと集中してやりました。頭つかったので少しやせたと思う。
ちなみに、確か削ったり直したりについては途中経過を覚えてないけど半分くらいには減らしたはず。

ともあれ、ライナーノーツっぽいオマケ情報については

タイトルは口にしたときに気持ちよさだけを追って決めた。
カバリは主人公。ジャンは死神の女の名前にするか、護衛する子供の名前にするか、いっそ両方ともジャンにしちゃおっか、みたいな感じでそんなに決めてない。
ジャン(女)は褐色戦士です。
皆気になる造語、インガオリ、この五文字でグーグル検索をすり抜けたのすごく気持ちよかったです。因果織でも因果折でもいいよね。イン・ガオリでもいい。この五文字は頑張ったわたしへのご褒美としてインターネットの神がくれたものだと思ってます。

ちなみに、インガオリは欠けてても機能自体には問題ないです。ジャン(女)は、カバリに仕事をさせるときに使わせる道具として、殺した小隊から回収したインガオリを持ってきました(ジャンの陣営のメンバーではそれらを有効に使うことが出来ないので回収して保管だけしている)が、カバリからすると戦友の形見なので、それを見てもまだ「逃げよう」としている自分がものすごくどうしようもなく「もう戦えない」を強く意識させてます。萌える。

小隊を見捨てて自分だけ逃げるシーンなんかは、ほぼ全部削りました。だんだん脳が気持ちよくなってきて、勝手に推敲についてのガイドラインみたいなものを作り始めたので、それについては別稿で紹介したいと思います。

まったねー。

つづく


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