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あなたの心音を、今でも憶えている

夏になると思い出す、ある初恋のこと。

遠く離れた距離と忙しい日々。
直接会えるのは半年に一度だった。

初めて恋人として会った冬の日。

「次は抱きしめてあげる」

世界の全てに怯えていた私に、あなたは約束してくれた。

それからちょうど半年後の夏、二度目の逢瀬。

電話では毎日話しているのに、いざ会うと緊張してか少しよそよそしい。
私も、意図的に距離を取ってしまっていた。

そして互いに触れられないまま、別れの時間が近づいた夕暮れ時。

あなたは私の手をぐっと引いて。
約束通り、ぎゅっと抱きしめてくれた。

日差しよりも熱い体温、汗で濡れた肌の感触。
その細腕に見合わない強い力。
うるさい蝉の声と、それ以上に大きなあなたの心音。

その鼓動は壁を破って私の心に流れ込み、
あなたの存在をこの身に感じさせてくれた。
私は初めて「生きていていい」と言ってもらえた気がしたんだ。

もう二度と会う事はないけれど。
あの夏の心音を、今でも鮮明に憶えている。

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