榛名山のはるなさん 第15話

15話 C32ローレル VS RX-7FD3S

「戦でござるううううぅぅぅっっっっ!!!!」
意気揚々とナイトウとタムラはC32ローレルに近づく。
その時、ちょうどエンジンルームを整備する事に集中していたはやまるが顔を上げる。

「あれぇ、どこかで聞いたことあると思えば君達は、、」

「おおっ!その声ははやまる殿!!まさかこのローレルははやまる殿の車でござったか!」

「違う違う、これはお客さんのやつだよ。点検がてら長距離走ったりしてるんだ。」

車から降りるはるなと涼音。
「はやまるさん、、この2人と知り合いだったの??」

「ああ、この2人のFDは僕ん所で買ってもらったやつなんだよ。まぁ、この2人は自分でかなり良いセッティング出せちゃうプライベーターだから、買ってからはとんと顔見なかったけど、、、。今日の感じ見ると以前と本人達は全然変わってないみたいだね、、、だけど、車は段違いだ。当時のFDとは比べ物にならないくらい研ぎ澄まされてるね、、、。」

「ふはははははは!!久方ぶりでござるなはやまる殿!!」
タムラが片手を思いっきりパーに広げ、顔を覆いながら変なポーズで話しかける。
漫画であれば、ズバアアアアアァァァンンンン!!!とか効果音が聞こえてきそうだ。

「あはは、、、た、タムラ君も元気そうだね、、。」

「ふふふ、、、元気でござrって、、涼音殿とはるな氏いいいいいいいい!!!!!!?」

「ぬほほほほほおおおおおぉぉーーっっ!!今や榛名山最速のツートップがなぜ!?まさか、、、妙義の最速を狙いに来たでござるな!?」

「アンタ話聞いてた??ローレルの点検がてらって説明したじゃん!!」

「ぬるふふふふ!なるほど!どんな状態でも構わんでござるよ!こんな好敵手2人と会える事なんて滅多にないでござる、、、さあ、バトルでござるよ!!」

はるなと涼音がその言葉にピクッと一瞬にして反応し、目つきが変わる。
「上等、、、遅かれ早かれやるつもりだったからね。」
「挑まれたバトル、、、買わなきゃサンライズじゃないでしょ!!」

「「その言葉待っていたでござるよ」」
ピンと細い糸のようなものが張り詰めたかのように場の雰囲気は一変する。

「車はギャランとNSXではないでござるが、、、正式な勝負と考えてよろしいでござるか?」

「自分の車じゃないからとか、下らない理由をつけて真剣勝負しない奴なんて走り屋じゃないよ。どんな車で、どんなコンディションであろうとも全力で戦うわ。」

「ふふふ、はるなちゃんのそういうとこ大好き。私も右に同じく、断る理由はないわ。」

「はやまるさん、ローレルで全力出しちゃうけど大丈夫?」

「はるな、、笑わせんな。僕は1回2回の全力バトルで音を上げるような車しか作れないチューナーかな?」

「ふふ、野暮な質問だったね。」

「了解でござる。それでは遠慮なく妙義ルールでやらせてもらうでござる。」

「オーケー。」
走り屋の世界では自分のエリア外で戦う時は必ず、相手エリアのルールに沿って戦うのがセオリーだ。場所によっては違うのだろうが、はるなや涼音は相手が100%の全力を出せる状態で叩き潰してこそ本当の勝利と考えている。

「まずは一緒に下のスタート地点まで行ってもらうでござる。勝負はヒルクライムとダウンヒル1本ずつ。両方ともそちらが勝てばそちらの勝利。両者とも1勝ずつ引き分けの場合、もう一本ずつ勝負。その際はダウンヒルをやったものはヒルクライム、ヒルクライムをやった者はダウンヒルと交代していただくでござる。」

「オーケー。」

「御意、それでは拙者達が先導するでござるから後ろを着いて来てほしいでござる。」

「分かったわ。」

タムラ、ナイトウはFDに乗り込む。セルを回すと独特のロータリーサウンドが一面に響き渡る。
はるなと涼音はそのサウンドを聞いただけで分かった。2人がどれほど膨大なお金と時間を費やしたのかを。一点の曇りもなく磨かれたボディ、ピカピカに磨かれたウィンドウ、見た目だけでなく乱れの一切ないアイドリング音、全くと言って良いほど黒煙のついていないマフラー。そして2人を圧倒させたのはFDの立ち姿だ。はるなと涼音はFDと自分達の車に重ねて見えてる部分があった。その理由は圧倒的に速く洗練された車だけが持つ風格だ。

はるなと涼音は車に乗る。
運転席は涼音、助手席にはるな。まるで最初から決めていたかように乗り込んだ。

タムラ、ナイトウ両者ともふざけてはいるが、低速で走っているFDを追いかけているだけで分かる。妙義山最速の称号は伊達じゃない。低速で走っているのに、FDが走るラインは攻めている時と同様のラインだ。涼音とはるなに教えているのだ。

FD3S型(通称FD) エンジンはマツダが世界に誇るエンジン、13BREW型 馬力280PS 最大トルク30kg.m そして2人が乗る、このFDは後期型。わずか1500台しか販売されなかった最終特別限定車「RX-7スピリットR」後部座席のない2シーター仕様。
2人の車のエンジンはほとんどいじられていない。足回りだけはこの妙義に合わせ交換し、セッティングしてある。モアパワーに次ぐモアパワーを求める者もいるが、それは3流だ。今の馬力を隅々まで使い熟し、そして受け止められるだけのボディ、足回りを丁寧に作る事が大切なのだ。そして肝心のドライバーが、車のポテンシャルを使い熟す以上の存在にならなければならない。パワーとは使いこなすドライバーがいてこそ成り立つもの。

「全く、たかだか群馬県内だけでもこんな化け物達がいるんだもん。これは全制覇するのも楽じゃないわね。」
涼音が頬にかかった髪を耳に掻き上げる。美形の涼音はそれだけでも絵になる動きだ。
「本当だね、、、。私、本当に車で走るっていう事に出会えて良かった。今この瞬間が本当に生きてるって気がするよ。」

「ふふ、みんな多分同じ気持ちだと思うよ。前を走っている2人も、、、。」

2台とも高ぶる感情を抑えながらギリギリの所で走っているようだった。ふと気を抜けば一気にアクセルを踏み込みそうなのを我慢しながら。2台はゆっくりと走り、妙義山のダウンヒルスタート地点に着く。

FDからタムラ、ナイトウが降りる。
「さあ、最初はヒルクライムからでござる。どちらから勝負するでござるか?どちらでも構わんでござるよ!」
ナイトウは意気揚々と2人に向かい合う。

「ヒルクライムは任せて、はるなちゃん。」

「ぐはあ!!涼音殿でござるか!!!ぬるふふふ同じ女子同志、全力を尽くし合おうぞ!!」

ローレルが先行、FDが後追いの姿勢で始まる。勝敗は頂上のゴールまでに車3台分以上離されていた方の負け。
両者の車のエキゾーストが響き渡る。

2台を取り巻く空間が凝縮され、時が加速する。
戦う者達は己が信じるものを両手に持ち、思いを託す。

涼音は深く、そしてゆっくりと深呼吸する。
「ローレル、今だけは私の本当のパートナーよ。お願い、力を貸してね。そしてはるなちゃん、隣で私の走りを見ててね。」

「オッケー。涼音さん、、、勝ってね。」

「サンライズの看板は伊達じゃないわよ。」

ドクン、、、

鼓動が高まり、瞬きするのを忘れるくらいに集中する。

Ready、、、、?

ギュアアアアアアアァァァァッッ!!!!
タイヤのスキール音と共に加速する。
2台は唸りを暗闇の中へと加速していく。

短い時の中で人は夢を見る。誰よりも早くその夢に辿り着きたい。
走り屋達は追いかけている。その夢が、一体何なのかは分からない。でも、信じている。暗闇の中で手を伸ばし続ければ、きっとそこにあると信じている。誰も見たことがない速さを求めるその先に何があるのか?

まだ誰も分からない、、、。

ローレル VS FD3Sのバトルの火蓋が切って落とされた。


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