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川端康成「古都」を読んで

図書館に寄った時、川端康成の「古都」を、文庫本で見つけました。
今年、所属する任意団体の旅行で、奈良と京都の旅行に行ってきました。
「古都」という言葉に惹かれ、短編集の「愛する人達」と一緒に、借りました。

作品の書かれた昭和30年代というと、日本が戦後の間もない時代です。
高度成長が始まる前の、昭和初期の社会、文化、風俗が色濃く残る頃です。
作者は、その時代を生き、小説に当時の人々の生活を描きました。

読後の感想を、以下にまとめました。



家の存在、人間模様

当時は、家の存在が大きかった。
生業を引き継ぐことが当たり前の時代で、家族はそれに拘束されてました。小説の中にも、老舗の呉服問屋、織物の織工、材木屋などが登場します。
しかし、そこには、安定した暮らしがあり、住んいる町との繋がりがあり、1年を通じて親しんだ行事があります。

小説の舞台のなる、京都は、名所、風物が豊か。京都御所、清水寺、南禅寺。烏丸通り、四条通り。葵祭、祇園祭、時代祭り。
小説に中には、登場人物が、そんな神社仏閣を訪れ、年中行事で出会ったりする。

私は、ネットで調べた観光地図をコピーして、京都全体を把握しました。
東山、祇園、嵯峨野、嵐山、北野。
小説の中で、登場人物が、どこの地区のどこを歩いているのか。
文中にある季節と自然の描写を頭に入れながら、想像しました。

家族、夫婦、男性と女性

家族、夫婦の日々の暮らしの様子が、丹念に描かれています。
夫婦、親子の生活の中で感じる温かみ、ありがたさ。
時には、分かり合えないこと、もどかしいこと、切ないこと。
作者の観察眼はすばらしく、人間描写では、主人公の細やかな動作がわかり、時には、息づかいを感じたような錯覚に陥ります。内に秘めた思いが伝わってきます。

「古都」では、主人公の特別な生い立ちが、大きな話の展開となっています。
周りの人間が、その事実を分かり合い、消化していきます。

短編集の中に、主人公の女性が、初恋の人が戦死した男性のことを忘れられず、心のわだかまりを感じ、結婚できずにいるというのがありました。
私には、その倫理観が懐かしく、尊いことに感じました。

日本の美

作者は、当時の社会や環境の中の人間を、平坦な文章で、淡々と描写しています。
私の父母が生きた時代のことなので、間接的ですが、よくわかるような気がします。
四季折々の自然の美しさが描かれ、そこで行われる京都の祭り等の営み、住む人々の伝統を重んじた暮らしぶり、人々の洗練された表現から出てくる精神性。
小説の中に出てくる「京都弁」という方言は、その「精神性」の表れではないでしょうか。
特に、作者は、そういった中に生きる女性に対し、日本の美を感じ、描こうとしていたと思います。

今は、核家族で家という観念も薄く、生きている場所や地域との結びつきも弱いです。交友関係は自由で、その気になればどこにでも住めます。
それに対し、昭和初期の人々の暮らしが、息苦しく、変化もなく、自由がないと言えばそれまでです。
しかし、一連の小説に触れると、当時の暮らしの中にある人間のあり方のほうが、自然で豊かに感じます。











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