「努力できるのも才能」という最後の言い訳

月の明るい夜、リョウとタクヤは麦畑の広がる小道を歩いていた。電車で30分の街にあるライブハウスでシンヤのライブを聴いてきた帰りだった。

「シンヤはギターが上手くていいよな」タクヤは言った。

「まぁ、努力してるからな。何年も、あんなにギターばっかやってたらそりゃ」

「ギターバカだよな」

「嫉妬してる?」

「何が?」

「いや、タクヤも音楽やりたいのかなと思って」

「全然。オレは聴く専門。そんな才能ないし」

「シンヤくらい練習したら、誰でもできるようになるかもよ」

「じゃあ、リョウがやれば?」

「オレはいい。オレはバスケだけって決めてる。いろいろできるほど器用なほうじゃないから。タクヤは音楽聴くの好きだから、自分でもやりたくならないのかなと思って」

「ギターはやってみたことあるけど、全然ダメだった。才能がなかった」

「どれくらい練習したの?」

「1週間くらい。Fのコードが押さえられなくてね。オレの指はギターに向いてないらしい」

リョウは笑いをこらえた。

「シンヤも、コードを押さえられるようになるまで半年くらいかかったって、前に言ってたよ」

「オレは半年やっても無理だろうなぁ。半年続けられるのも才能だよな。努力できるのも才能のうち」

努力しないのに偉そうに語るタクヤに対して、リョウは苛立ってきた。「最後の言い訳だな」という言葉が口から出かかったが、引っ込めた。

「努力なら誰だってできると思うけどな。オレだって、シンヤほどじゃないけど、バスケは努力してるし」

リョウは高校のバスケ部でキャプテンを務めている。チームはそれほど強くないが、リョウのシュート力は他校からも注目されている。

二人はしばらく黙ったまま、夜道を歩いた。カエルの鳴き声がけたたましくなり、沈黙の気まずさを心なしか打ち消した。タクヤは怒っているのかふて腐れているのか、リョウにはよくわからなかった。

そのまま話をしないまま、二人が別れる突き当たりに辿り着いた。

「じゃあな」リョウが声を掛けたが、タクヤは何も言わず左に曲がり、手をちょっと挙げて暗闇に消えていった。

その夜、リョウは夕食をたべた気がしなかった。お腹を空かせていたはずだったのに、いつものようにご飯をおかわりしなかった。

食べ終わるとすぐに自分の部屋に入った。漫画を開いてみたが、内容が頭に入ってこなかった。そばに置いたケータイが気になり、ときどきチェックした。

誰からのメッセージもないまま、いつの間にか12時前になっていた。布団に入り、ケータイの電源を切ろうとしたとき、タクヤからメッセージが届いた。

「オレも努力してみるか」

リョウは起き上がって、電気を付けた。返事を打っていると、寝る前なのにお腹が空いてきた。


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