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情報過多描写

新しく開かれた「〜〜ヤサイ(前半は忘れてしまった)」という名前の店で、「いつもこれ買っちゃうんですー」と私に言いながら、知人が甘いパンを買った。そういえば店先には開店初日の祝花が置いてあったような。店の中にはほうれん草とか葉物が少しだけ並んでた気がするけれど、野菜はほとんど見当たらなくて、日付の刻印された小さくておしゃれなスティックパンや、味の表記されていない数種類のシンプルなドーナツが並んでいた。パンと野菜は自由に選び取れるように配置されていて、ドーナツだけがショーケースの中に入れられていた。緑色より茶色の多い店内、名前にはヤサイが採用されてるけど、これはたぶんパン屋さんって言っていいと思った。

お店は、ちょっと信じられないくらいの高台に構えられていて、その一帯はちいさなショッピングモールみたいだった。空気も薄いだろうと思うくらいの山の上。私たちはちょうど開店時間についたのか、最初はお客さんもまばらだったけど、売り場をぐるりとまわっているうちに、店の中は一瞬にして人だらけになった。その間、パン屋から見下ろした景色の中の、真っ赤で巨大な鳥居と、遠くまで見える濃くて青い海と、鳥居にうっすら懸かった透明な雲が綺麗で、だれかに見せてあげたくて写真を撮った。5枚くらい撮ってみたけどやっぱり、どれもまわりにいる人の頭が入ってしまって、良い写真にはならなかった。私は一見同じ見た目をしているドーナツを3種類ほど買おうと思ってレジ待ちの列に並んでいたのだけれど、私の番になってもレジの人はずっと、パンをなぜか茶色の包装紙でくるみ続けていて全くこちらを見てくれず、店員さんから「お待ちください」とか、私から「注文いいですか」とか、特に声もかけられずにぼんやり立っていた。あのパンはどこへ行くものだったんだろうな。
そこへ、どこからともなくスマートな男性店員さんが現れたのだけれど、「お待ちの方こちらどうぞ~」と(おそらく私に)言いながらも、ひとりで社交ダンスでも踊るようにひらひらと、レジ待ちの列の後方の、遠く見えない場所へ行ってしまった。誰もそちらへは行こうとせず、数人がちらっとそちらへ目をやっただけで、私も同じようにしてふしぎな気持ちで立ち続けていた。まさかその後ろ側にもレジがあったんだろうか。かなり離れていたし、商品の棚と人の波で隠れていて目視はできなかった。そんなとき、私の後ろに立っていた中学生くらいの男兄弟が列の中でふざけて遊び始め、私に思い切りぶつかってきたので、小さく注意をしたらその人たちに笑われてしまい、気分がわるくなったので列を抜けた。直前だったのに惜しかったけど。
そうしている内にいつの間にか見えなくなっていた同行者を探してショッピングモールを進んだら、小さくて急な階段をのぼった先の店の前で、彼女がひとりうずくまって私を待っていた。その姿にちょっと驚きながら、多分ものすごく長い時間待たせてしまった(そしてその割に収穫はなかった)ことを、3度ほど謝った。知人の服装はさっきとは違う、ほんのり黄色い膝丈スカートに変わっていて、着替えたのかな、とひっそり思った。さっきどんな服装だったかは思い出せなかった。

知人が「立ち寄りたい場所がある」と言ったので、その近くにあるファミリーレストランみたいな趣の店へ入った。ここは彼女の行きつけのマジックバーらしい。座るなり、目の前の長テーブルで、マジシャン3人が同時に、別々のマジックを猛スピードで披露してくれた。明るい雰囲気の店内はいろんなものがよく見えたのに、意味も種も、なにもわからなかった。あきらかに人員配置が過剰だったけれど、お客を戸惑わせるという意味では大成功のパフォーマンスだったと思う。店内の一部は斜めに傾いていて、私たちが座ったソファの傾斜も大きかった。他のテーブルにも、別のお客さんと、やはり多めのスタッフがいて、私は革のソファの上ですこし前に傾きながら、目の前のマジックよりも、そういうお店の空間に目を奪われていた。その間に目の前にいた3人のマジシャンは何も言わずどこかへ消えていて、隣に座っていた彼女も、なぜか誰にともなくマジックを披露?し始めた。私はなんとなく手持無沙汰で、備え付けられながらもゆっくりとずり落ちていっているソファの、店の壁との接着面を見つめているうちに、布団の中で目が覚めた。
いろんなことをはっきり覚えている、情報過多の珍しい夢だった。

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