見出し画像

D2Cスタートアップの大手企業との戦い方

スタートアップをやっているとたまに話題になる「もし大手企業が参入したらどうするの?」という問いに対して、D2Cと呼ばれるスタートアップに限定して、しかも網羅的に考えられているわけではないのでメモ的に現時点での考えをまとめてみようと思う。(D2Cの定義は特に意味がないので、D2Cと自ら言っているスタートアップ、くらいの感じ。)
ワーストケース対策という思考訓練なので、少々悲観的な立場で考えている。

あと、いままでnoteを何回か書いているけれど、毎回調査をしているわけではなく、同じような企業を違う角度から見て考えているだけなのであんまり目新しさはないかもしれない。

---

既存大手企業とどう戦うか?

基本的な考え方としては、

同じ土俵で戦ったらダメ。基本負ける。

という考え。

webサービスの場合、特にC向けなどはUXや運用が非常に重要で、webサービス運用経験のない大手企業が取り組むのは困難だったりするが、D2Cは基本モノである"プロダクト"を販売するため、スタートアップには作れるが大手には作れない"プロダクト"、というのは少ない気がする。もちろん特許なんかをとった技術よりのスタートアップもあるので一概には言えないが。

もちろん、

・大企業にとっては小さすぎる市場なのでそもそも参入してこない
・大企業が既存リアルチャネルに乗らないこと(直販)はやりにくい
・組織的問題でスピードが遅い/取り組むことが難しい
・大企業内のいち新規事業に掛けられる資本は限られる
・自分(スタートアップ)の方がセンスが良い、、

といった点が参入障壁になるという考え方(希望)もあるが、100%参入がないとも言えない。

米国などと異なり、大企業によるスタートアップのブランド買いM&Aなども盛んではない日本では、大手の参入可能性は考えてくべきテーマ。


先行者優位はあるのか?

スタートアップは誰もやっていないことをやることが多いため、始めるのが早い。そのため、先行者優位がある、という考え方もある。

先行者優位については2つの考え方があると思う。

1つ目は、ネットワーク効果。C2Cなど使う人が増えるほどそのサービスの価値が上がるものは、先行者優位が働きやすい。D2Cのような物理的なプロダクトの場合、なかなかこのネットワーク効果は生まれにくい。もちろん、コミュニティなどによってプロダクト自体の価値が上がるような設計ができていれば、ネットワーク効果を聞かせることができるかもしれない。ただ、C2Cなどと比較するとそう簡単ではない。逆に、尖らせたブランディングを行っている場合、多くの人が利用し始めると、初期ユーザーは価値が下がったように感じる可能性もある。

2つ目は、自社ブランドのカテゴリ化。まだ市場としてできていない分野にスタートアップとして最初に参入し、そのカテゴリ=自社ブランド、という認知を取ってしまう。そうすると、あとで参入があってもカテゴリ自体の規模が拡大し、トップシェアである自社の規模が最も拡大する。これを行う場合、小さすぎると言われているような市場に自分の感覚を信じて参入しデジタルマーケ中心にじわじわと規模を拡大していき、目立つ頃にはある程度の規模に達しているという状態になるか、ブランド立ち上げ当初からマスマーケに近い事を行うなど、ある程度の資本力や持久力が必要になる。中途半端な規模で中途半端なマーケをすると後発企業にシェアを奪われてしまう。

ネットワーク効果に期待するのではなく、ある程度時間がかかること前提に、じわじわと規模を拡大していき、あるタイミングでマーケ投資を増やして、参入を呼び込み、一気に市場を拡大するというのは一つの方向。初期は周りから上手くいかないと言われる、時間がかかる、有効なマーケチャネルがなかなか見つからない、など難易度が高そうなので、胆力が求められる。(国内でもD2Cなんて言葉が生まれる前から取り組んでいたスタートアップが今年〜来年くらいに開花してくるタイミングかも。)

熱量や気合で勝つ!

もちろん、スタートアップの熱量と大企業内のいち新規事業では熱量や気合が異なるかもしれない。熱量や気合で勝てるかもしれないし、勝てないかもしれない。ひとつ確実なのは、熱量や気合はあったほうが良いということ。それ以外はわからない。


戦って勝つんじゃなくて"戦わない"という選択

海外のユニコーン入りしたD2Cスタートアップのファウンダーのインタビュー記事なんかを見ているとDisruptという単語をよく見るので、D2C=既存業界のDisrupt、競合は既存大手企業というイメージがあるが、これを鵜呑みにして、競合と戦う、と考えるとなかなか辛い戦いが待っている気がする。(米国のようにシード段階から数億、時には数10億を調達して、ガチで戦うという方法ももちろんあるが、日本だとなかなか難しい。)

冒頭で

同じ土俵で戦ったらダメ。基本負ける。

と書いたが、これは戦うことが前提で、別の見方をすると戦わなければ負けることはない。
個人的には、いかに戦わないか、が重要なんじゃないかと考えている。既存のパイを取りあうゼロサムゲームをするのではなく、市場を創っていくプラスサムのゲームをする。

そのためにも、いくつかの"戦わない方"(戦い方、とかくと戦ってるふうなのであえて、戦わない方、と書いた)があると考えている。

1.(すでにある)ファンやコミュニティを活用する

化粧品D2CのGlossierなんかが良い例だが、そもそもD2Cスタートアップとしてスタートしたのではない。ファウンダーのEmily WeissはInto The Glossという美容やコスメに関するブログや自身のSNSで多くの読者やファンを抱えていた。この読者やファンから商品開発に関する要望等をを受けて始まったのがGlossierで、当初はすでにいたファンに受け入れられ、プロダクトを通してそのファンのベースが広がっていった。
すでにコミュニティ化しており、コミュニティも含めた価値であるため、簡単には他ブランドにスイッチしない。ここに、既存の化粧品ブランドが同じようなデザインやコンセプトで参入しても、Glossierのファンには見向きもされないだろう。
Jessica AlbaのThe Honest Companyも初期は彼女の知名度を活用した。日本でも女性ファンの多い有名人や芸能人が既にいるファンに向けてコスメやアパレルをD2C的に販売するという流れは今後加速するだろう。大手アパレルのいちブランドをプロデュースするのとは、ファンの熱量も違うしブランドとしても体験を設計しやすい。
すでにいるファンに向けて商品を開発・提供しているので、どこかからユーザーを奪ってくるという発想ではない。
D2C的にLPやパッケージのデザインを洗練させただけだと、大手企業というよりは、既にファンのいるようなプレーヤーが始めたブランドに淘汰されてしまうだろう。

もちろん、既にプロダクトを持っているD2Cブランドがコミュニティを活用する、という方法もあるが、コミュニティをマーケやブランディングのためのツールと考えるのではなく、ユーザーやファンにとっての価値を第一においた運営が必要になってくるだろう。つまり、企業のためのコミュニティではなく、ユーザーのためのコミュニティでなくてはならない。

2.プロダクトをサービス化して違う土俵に立つ

D2Cは基本的には物理的なプロダクトを提供する。また、多くの場合、自社で生産するのではなくOEMが多かったりするため、プロダクトそのもので差別化するのは難しいことも多い。ただ、プロダクトをサービス化することで、全く別のものに昇華させることができる。
歯ブラシスタートアップのQuipが一つの例。もともとはデザインがクールな電動歯ブラシで、替えのブラシがサブスクリプションで送られてくるというサービスだったが(サブスクもサービス化の一つの方向性)、さらに提携している歯科で定期的にクリーニングを受けられるような仕組みも作っている。
また、インスタ向きのサプリRituralとは異なり、パーソナライズというサービスを売りにしているcare/ofなんかも一つの事例といえる。パーソナライズもマーケ的な意味合いで使われることもあるが、care/ofはユーザーが住んでいる州の日照時間から、オススメのサプリをレコメンドする等、きめ細やかなパーソナライズを行っている。
Pelotonなんかは、もはやプロダクトを提供しているD2Cというくくりでは収まりきらないが、サービス、というか体験を提供している。もちろん、一般のエアロバイクとは競合すらしない。競合するとすれば、ブティック型の小規模ジムスタジオなんかだ。
Peltonについては→(https://note.mu/haztr/n/n6acb4d800751

3.既存企業のトレードオフを発生させる

戦わない方、と言いつつ、若干戦うのがこのトレードオフを発生させる方法。つまり、大手既存企業が同じことをやってきた場合、その大手既存企業のメイン事業や収益の軸となることが傷つくような方法を取るというやり方。これは業界等によって大きく異なるが最も有効的と考えている。
既にご存知の例が多いが、Dollar Shave Clubのように不当に高く販売されていたカミソリを安価に提供(最大手のジレットが参入すると自社の収益性が大きく毀損される)したり、Everlaneのようにコストを全部公開してしまったり(大手企業が同じことをやると、どんなけぼったくっとんねん、となる)というような方法。
また、特に米国などでは環境保護の意識が高いため、環境フレンドリーなプロダクトのみを扱うという方法もある。大手企業が環境フレンドリーではない商品も扱っていた場合、自社商品を否定してしまう可能性がある。
もっとも有効であるが、業界に深く入り込んでトレードオフ発生の方法を学習する必要がある。特に高価格のものを低価格で提供できる仕組みを築くことができると強い。

(番外編1) スタートアップならではのブランディング?

Dallor Shave Clubの動画のように、ファウンダー自らがユーモラスに前面に出るという方法もある。
これについては少し懐疑的で、このスタートアップっぽいブランディングだけで戦いを回避するのは難しい気もする。Dallor Shave Clubはスタートアップならではのブランディングでグロースしたものの、既存企業に対してトレードオフを発生させ、またプロダクトのサービス化に成功している。WarbyParkerが初期にやっていたゲリラ的なPRも、今考えると大手企業でもできてしまう。(むしろ大企業が得意な領域)
米国のD2Cスタートアップはみんなファウンダーが前面に出ている感があるが、そもそもD2Cに限らない印象があるので、それが強みの源泉なのかどうかはわからない。もちろん創業ストーリーは重要だけど。
先行事例として米国のD2Cブランドのブランディング施策は参考になるものの、それが日本でも受け入れられるのか、大手企業でもできてしまうことはないか、というのは考えておく必要がありそう。

(番外編) とにかくニッチを攻める

大手が全く気にしないようなニッチな市場を攻めるという方法もある。もしかすると将来的に大きな市場になる可能性もある。ファウンダーが信じている市場であれば可能性はある。最初のほうに書いた自社ブランドのカテゴリ化の考え方。
プロダクトを知り合いなんかにピッチしてみて、ボロクソに言われたらチャンスかもしれない。自分も今のサービスを始めた当初は、うまくいかない理由をご丁寧に手紙でもらったこともある。
ただ、ピーター・ティールが言っているような、パロアルトにあるイギリス料理店(他にはないユニークな市場だが、あまりに小さすぎる)にならないようにしなくてはいけないが。。

---

もちろん、D2Cスタートアップが取り組んでいる領域に大手企業が参入してこない可能性もあるし、外からはわからない事情で参入が遅れる場合もあると思うが、今のうちから対策を考えておくのは将来的に役に立つ気がしている。

0.自社ブランドのカテゴリ化
1.(すでにある)ファンやコミュニティを活用する
2.プロダクトをサービス化して違う土俵に立つ
3.既存企業のトレードオフを発生させる

ただ、本当に自社にとっての有効な”戦わない方”(もしくは戦い方)は、そんな事をウンウン考えずに必死に事業をやっている中で勝手に身についているものなのかも知れない。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?