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ゴールまで長いダービー、ゴール板が遠い菊花賞。3000m戦の存在証明

ちょっとだけトレーニングしたい人向けのジムに入会した。築地市場を去って6年、肉体労働を辞めた反動かもしれないが、一切、体を動かさなくなってしまった。おまけにこの春から家から一歩も出ない生活を手に入れた。世の中、制限がなくなり、日常が戻ってきたというのに、隔離生活がはじまった。なんなら、去年の方がウロウロしていたぐらい。みんなが外に出るようになると、家に閉じこもる。実にひねくれ者である。

そうなれば、体は急速に衰える。ここらでなにか運動を生活に入れないと、歩けなくのではないか。そんな危機感がよぎる。中年ともなると、将来は老後を意味する。散歩ぐらいはなんてことない老人でいたい。また、走る究極たるサラブレッドに関わるのであれば、少しは体を動かさないとその気持ちなど分かりようがない。無理に体を動かす感覚ぐらいは知っておこう。サラブレッドの足元にも及ばないが、ささやかな中年の抵抗だ。

とはいえ、トレーニングジムなぞただの一度も足を運んだこともない。無人のジムに置かれた器具。どれをどうすればいいのかさっぱり理解できない。器具の使い方すら知らないが、それでもトレーニングできる。コンビニ感覚とはいうが、まさにその通りで、15分もいれば、利用者の顔ぶれはガラリと変わる。さっさと体を動かし、さっさと帰る。なるほど、これなら肩身は狭くならない。まずは長続きすることを祈る。

菊花賞に珍しく春の実績上位馬たちがそろった。天皇賞(秋)のメンバーがメンバーだけに、こちらの方が可能性はあるということか。近年、菊花賞は距離適性を問わないと言われて久しい。真のステイヤーでなくても、淀の3000mならどうにかなる。2周目下り坂を利用すれば、スタミナを問うことはない。

はたして、それは本当なのだろうか。ステイヤーではない中距離馬でもクリアできるものだろうか。京都で菊花賞が行われるのは2020年、コントレイルが勝った年以来となる。あの菊花賞、ダービーを完勝したコントレイルはアリストテレスとクビ差だった。京都の最後の直線で繰り広げられた競り合いは、コントレイルのスタミナが極限だったことを意味する。ダービーの直線は長く、菊花賞のゴール板は遠い。この感覚こそ、菊花賞が3000mたるゆえんだ。最後の200mが遠い。これが菊花賞だ。やはりスタミナがなければ、踏ん張り切れまい。

トップナイフはホープフルSから2000m重賞で2着ばかり。このちょっと足りず、最後に差されてしまう雰囲気はステイヤー資質の裏返しではなかろうか。クラシックは競馬の形が変わってしまったが、スタミナを問われた皐月賞では4コーナー16番手から伸びて7着。厳しい馬場で他馬はバテてしまったが、トップナイフは止まらなかった。札幌記念も洋芝の道悪という苦しい競馬になったが、2着。久しぶりの積極策は菊花賞へ弾みとなる。引いた枠は1枠1番。今度は先行してくれるだろう。横山典弘騎手は今秋、手綱が冴えている。モリアーナの紫苑S、秋華賞は典弘騎手にしかできない競馬だ。リーディング上位のような安定感こそないが、バイオリズムが上昇したときにはまとめて活躍し、インパクトを与える。その残像があるからこそ、みんな、典弘騎手に託したくなる。

こういう馬に来てほしい。願望を込めてサヴォーナも評価する。神戸新聞杯は6着に敗れた青葉賞のような高速馬場だったが、先行してスタミナを引き出す競馬で2着に粘った。前を行くファントムシーフをとらえたのは、地力強化の証だ。

京都新聞杯が春に移ってはじめて、京都新聞杯と神戸新聞杯を勝ったサトノグランツは父サトノダイヤモンドが不気味。春は少し緩くて勝ち切れなかったが、秋は神戸新聞杯、菊花賞、有馬記念と一気に駆け抜けた。明らかにこの時期、急成長をとげており、産駒も例外ではないだろう。タケホープ以来の二冠を史上初のダービーからの直行で達成しようとするタスティエーラの意欲や、インパクトが大きかった皐月賞馬ソールオリエンスには敬意を示しつつ、トップナイフとサヴォーナによる体力の削り合いを期待する。菊花賞は芝3000m。決して中距離適性では乗り越えられない。

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