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【有馬記念予想】歪んだ夢をみる。3倍以上の1番人気は主役じゃない。

「最近の有馬記念には夢がない」

男は予告なしにやってきたクリスマス寒波によって底冷えするアパートの一室でそうぼやく。煌びやかな街並み、年の瀬へ向かう高揚感、そして次から次へとやってくるギャンブルの大一番を前に、男は不満を募らせる。人の幸せに背を向けて生きると決めてから、長い時を過ごした。裏路地の隅にある古びたアパートを根城するにする男にとって、ギャンブルは荒れてこそなのだ。

だが、最近の有馬記念は1番人気が強く、主役が栄光をつかみ、幸福感が競馬場を支配する。令和の競馬場はそのぐらいがちょうどいいのかもしれない。昭和、平成の前半に渦巻いた人の業はもはや競馬場には存在しない。崩れ落ち、その場から動けなく廃人の姿はもうない。ギャンブルは身を滅ぼすなんてひと昔前のこと。いまは適切な距離感をとってギャンブルを楽しむ。これが流行りというものだ。

男は金曜発売からずっと、単勝オッズを確認していた。男が勝負すると決める根拠がそこにあるからだ。有馬記念の1番人気が3倍以上だった年は、1986年以降、8度ある。その1番人気の成績は【0-3-2-3】で未勝利だ。主役が3倍以上なら、最近よくある幸せな結末は訪れない。これこそが男の出番だ。直近では、2015年8番人気ゴールドアクターが勝利。1番人気ゴールドシップは4.1倍で8着に敗れた。14年は4番人気ジェンティルドンナが勝ち、1番人気ゴールドシップは3着。3.5倍だった。そもそも1番人気の単勝が3倍以上とは、単に出走馬でいちばん売れただけに、主役とは言いがたい。

1番人気ジャスティンパレスは前日夜の段階で4倍以上。当日、よほど大量投票がないと、3倍を割ることはない。男は自分の出番を確信した。

男の心配はほかにあった。それがタイトルホルダーだ。ペースを落とさず、スタミナ勝負に持ち込み、後続の末脚を削りにかかる。理想のレースはこれだと考える。しかし、昨年の宝塚記念を勝ってから、タイトルホルダーはそんなレースを期待されながらも、実際に実行に移していない。生産者はそんなぬるいレースを気に入らないらしいが、その声は果たして届くのだろうか。生産者の声が強いのは、半分、オーナーブリーダーのクラブ馬主ぐらいなもの。タイトルホルダーはそうではない。日経賞は2年連続スローペース。引退レースで自らの心臓を極限まで追い込むレースをさせるのか。なにより、男は昨年後半から期待した流れを演出しないタイトルホルダーに疲れてきた。

スタミナ勝負にならない有馬記念は、ステイヤー資質は問われない。中山芝2500mは前半の流れによって適性が変わる。緩く流れるか、タイトルホルダーが後ろを残り600mまで引きつけるなら、中距離馬で問題ない。さらに末脚に長けた馬が上がり勝負を制するにちがいない。

買うべき馬が8枠へ行き、頭を抱えた男は、中山大障害を見終えても結論を出せずにいる。決め手を重視するなら牝馬だろう。牡馬の買いたい馬は人気がありすぎため、男の流儀に反する。ソールオリエンスやタスティエーラに未練がある。中山の決め手比べならソールオリエンスでいい。そこをもう一つひねる。この秋、レースで決め手上位を発揮してきた馬がいる。それがライラックだ。府中牝馬Sは3位の33.0。これは得意とはいえない東京だからこそ、3位が精いっぱいだった。エリザベス女王杯は1位タイの34.2で4着。下り坂がある京都のスローペースでは、先行勢のアドバンテージが大きすぎた。これが中山ならどうだろうか。残り600m勝負であっても、最後は急坂が末脚を削ぐ。坂を上がった残り100m足らずでライラックに出番が回ってくる。

ドジャーブルーの4枠。ドジャース馬券が騒がれているが、それなら裏目は青帽子。4枠から枠連総流しでもしてやろうか。

男の口元がいやらしく歪んだ。


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