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ロシアのデュオ、IC3PEAK(The New York Timesより和訳)

※いちおう投げ銭できるようになっていますが、無料で最後まで読めます

 昨日書いた和訳記事(ウクライナのフィメールラッパー、alyona alyona)と同じThe New York Timesの記事より、IC3PEAKの紹介部分の和訳になります。

 IC3PEAKはalyona alyonaよりはおそらく日本でも知られていますが、まだまだ知らない人が多いかと思います。僕は去年ツイッター経由で知りました。しばしばインスタ等で当局とバトっているという話をみかけていて、その事情なども知りたいと思っていたところに、彼らのインスタでこの記事が紹介されていたのでちょうど良かったです。

 この記事ではエレクトロ・デュオとしてCrystal Castles, Grimesなどのファンに勧められていますが、近年は音楽的にヒップホップ・トラップに接近しており、ヒップホップのイベントでもしばしば流れますし、ジャンルの境界なくカッコイイ!と受け入れられる魅力があります。
 知ってる人も知らない人も楽しめる魅力があると思うので、ぜひご一読ください。
 

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IC3PEAK - Crystal Castles, Grimesのファンの方へ

 ポーランドのポズナンにある薄汚れたクラブのステージ。Nastya Kreslina(Анастасия Креслина)は葬送用の磁器人形かのような衣装を纏っている。
 Kreslina、モスクワのエレクトロデュオ・IC3PEAKの23歳のボーカリストは、黒いリップを塗り、その長い三つ編みは頭の冠から正面に降りている。

 Kreslinaの後ろで、彼女とIC3PEAKを組むNikolay Kostylev(Николай Костылев)はシンセサイザーの上にかがんでいて、彼の顔は白く塗られている。
 歪んだベースとキンキン鳴るのシンセサイザーの上で、Kreslinaの冷たく高い声はささやきから叫びに変わった。

 デュオが「Смерти Больше Нет(Death No More)」という曲を奏で始めたとき、観衆は声を上げた。

「Я заливаю глаза керосином(私は灯油で両目を満たしている)」
とKreslinaは歌う。

「Пусть всё горит,
На меня смотрит вся Россия, пусть всё горит(全部燃えればいい。ロシア中が私を見てる。全部燃えればいい。)」

 「Смерти Больше Нет」は、これまでで最も人気のあるIC3PEAKの曲で、最も政治的に挑発的な曲の1つだ。この曲のMVでIC3PEAKは、政府の建物の前での焼身自殺からレーニンの墓の前で生肉を食らう饗宴まで、様々なモスクワのランドマークの前での反政府行為に興じる。あるシーンでは、KreslinaとKostylyovは、大麻入りのジョイントであるように見えるものを回す。

 このMVは単純に「皮肉ったおふざけ」を意図していただけ、とKreslinaは最近のインタビューで言っていた。しかし、それが問題を引き起こす。

 昨年の秋以来、ロシア当局はIC3PEAKのライブパフォーマンスを阻止するために多大な労力を注いでいる、とKreslinaは語る。
 ロシア連邦保安庁(F.S.B.)のエージェントが、彼女とKostylyovにPermの街(モスクワから約900マイル東)を去るように命令し、彼らの車を牽引していったと彼女は言う。
 IC3PEAKは現在、たびたびシークレットでライブを実行している。

「それは、深い眠りから目覚めたばかりの旧世代のようなもの。彼らは私たちのユースカルチャーを恐れ、古いソビエトのやり方でそれを支配しようとしている」

 ポズナンのような海外の公演は通常よりスムーズにいくのだが、Kreslina曰く、ロシア当局とのいたちごっこのようにはアドレナリンが出てこない。
 それは刺激的で、「時には楽しくもある」 - そしてユニットへの関心を築いてきた、と彼女は付け加えた。

 しかし、二人が本当に恐れる検閲はインターネットのものだ、とKostylyovは言った。彼とKreslinaは自らのミュージックビデオをすべて作っている。その中では、ジェンダーが流動的で、豪華な衣装を身につけた、おどろおどろしくも幻想的な世界が描かれている。
 ロシアの音楽グループにとって、強いビジュアルのアイデンティティは注目を集めるために非常に重要である。動画がブロックされていると、アイデンティティの構築ができなくなってしまう。

 ロシア当局は「中国のグレート・ファイアウォールのようなものを構築して、ホームページや動画を規制しようとしている」ように見える、とKostylyovは言った。

 海外でファン層を築くことは2人のユニットに自国での弾圧を回避する道を与えるかもしれないが、KreslinaとKostylyovは彼らが最も繋がりたいのはロシアの若者だと言う。
 ふたりは英語で歌うことから離れ、直近の2枚のアルバムをロシア語でレコーディングした。
「あなたたちは、自宅で、あらゆるアンダーグラウンドミュージックシーンでのこの言語上の変化を見ることができる」とKostylovは言った。

 IC3PEAKは、ロシアの観客に焦点を当てたのは、皮肉なことに、米国で公演をしたから、だと言う。
「誰もがアイデンティティに強く注目し、私たちがロシア人であることにこだわっていた」
とKostylyovは言った。
 「他人の目を通して自分を見るようなものだった。」

彼は付け加えた。ふたりが「自らのルーツは人々にとって興味深いものなのだ」と気づいたときに「あらゆる日常的なポスト・ソビエトのコンプレックスからくる恥ずかしさ」がなくなった、と。


 IC3PEAKの最新アルバム、「СКАЗКА(Fairytale)」はロシアの民間伝承に強く影響されている。

「私たちには素晴らしいロシアの言葉がある。それは"Тоска(toska)"。」
とKreslinaはニューアルバムについて語った。

「それは他の言語に翻訳できない。本当に深い悲しみのようでありながら、とても美しい。あなたたちはそれを味わってくれるはず。」
(ロシア生まれの小説家、Владимир Набоко[Vladimir Nabokov/ウラディーミル・ナボコフ]は、"英語にはТоскаの深さと複雑さを表現する単語はない"、とかつて言った。)

「"melancholy"のようなものでしょうかね?」

「違う!」ふたりは一斉に嘲笑った。


「 "Тоска"は、」Kreslina曰く、「IC3PEAKの"世界の見方"なの」


Written by CARMEN GRAY

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 alyona alyonaは国内の言語対立の中でウクライナ語を選択します。
 それに対して、IC3PEAKは米国公演を経て自らのアイデンティティを認識し、政府当局の弾圧を受けつつ、ロシアの民間伝承や文学などの影響を受けながらロシア語を自覚的に用いて音楽を作っています。記事を読んで、言語とアイデンティティ、ナショナリズムの間には一様でない関係があるということを改めて深く認識させられました。

 「『 "Тоска"は、』Kreslina曰く、『IC3PEAKの"世界の見方"なの』」って最後の部分、なんかすげーエモくて訳しながらぐっときちゃいましたね。。日本でいう「もののあはれ」とかそういう言葉なんでしょうかね、Тоска。

 とにかく最高にカッコイイユニットなんで是非チェックしてください!!

 手前味噌ですが、こないだ自分で作ったmixにも入れてるのでぜひ!!

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