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すぐ捨てられる案内状と決断力

私は商品開発を仕事にしている。

そのために新しい情報を取ろうと
展示会を視察することが時々ある。

特にここ2年ほどは新商品のトレンドが
明らかに環境対応やSDGsなどの
ワードに偏るようになってきた。

これも時代の流れであろう。
取り残さるわけにはいかないので
それに関する展示会で面白い技術を持った
企業とコンタクトし、
色んな可能性を今模索している。

ここまでは何ら問題ない。

だが、このような展示会に一度でも参加すると
あるものが悩みの種になっていた。

それは展示会の案内状が届くことである。

「それの何が悩みなの?」と思われるかもしれないが、
正直案内状を送ってもらっても
その紙が発行された時点で展示会の情報は知っており
ほぼノールックでゴミ箱に投入することになる。
それが私はとても嫌なのだ。

宛先は会社の住所、部署と私の名前が
書かれているが、
カラーで印刷されたあの案内状を
廃棄するのはこれを作るのに携わった人への
冒涜のような気がしてしまうのである。

しかも最近私が参加していたのは
環境対応などに関する展示会ばかり。

にもかかわらず大量の紙が宛先人に読まれずに
ゴミ箱に投入され、
その製造、印刷、運搬に大量のCO2を出して
いること自体が大きな矛盾のような気もする。

そんな苦々しい気持ちで私は日々送られてくる
展示会の案内をゴミ箱に投入していた。

ところがである。

先日仕事をしていると部下がポストから
私宛の封書を手渡してくれたときに
「最近展示会の案内来なくなりましたね」と
言ったのである。

そう言われてみればここ数か月の間は
受け取っていない気がする。

あれだけ毎日苦々しい気持ちで受け取っていた
展示会の案内は知らぬ間に
送られなくなっていたのである。

恐らく送る側もデジタル化の流れに乗ったのと、
紙で送るコストと、その紙をきっかけに来場する人の
割合からコストパフォーマンスが悪いと
判断したのであろう。

いずれにしてもこの判断はとても
素晴らしいものだと私は思った。

それと同時に、あることを感じた。

誰かの判断は間違いなく色んな人に
影響するということである。

何を言っているのかと思うかもしれないが、
この展示会の案内を送らないという決断は
色んな人の働きかけが行われて、
送る側の責任者の人が判断した結果
生まれたものである。

ここまで影響の大きなものでないにせよ、
私達は日常の生活の中で色んなもの事を
色んな要素により決断している。

そして、それらの決断は必ず自分以外の
誰かに影響を与えているのである。

例えば私が電車でいつもと違う席に
座ろうと決意したとする。

いつも私が立つ駅を知っていて
私の前をロックオンしてくる
おじさんを避けることが目的で
その決断を下したとしても、
その決断は間違いなく他の人にも
影響を与えることになるのだ。

ロックオンおじさんたちに影響があるのは
間違いないが、
それにより他の乗客もいつもと動きが
少し異なってくるであろう。

中にはそれが故に不快に感じる人も
いるかもしれない。

もちろん、だからといって私がその責任を
負う必要などない。

だが、自分の決断が多くの人に
影響を与えるということは
常に意識しておくべきだと私は思うのだ。

誰しもがいつも真剣に悩んで自分の決断を
下しているわけではないだろうが、
時に「テキトウ」に決断することもあるだろう。

実際、私も色んなところで自分の決断を
「テキトウやなぁ」と思うことがある。

だが、そのテキトウな決断にしても
間違いなく色んな人に影響を与えてるのだ。

何度も言うがそれによって生じる影響に
全て私達が責任を負う必要はないのだが、
周りに影響を与えると思うことで
少なくとも「テキトウ」に判断を下す頻度は
明らかに下げられるのである。

こう言うと、
「全て真剣に決断してたらエネルギーが
いくらあっても足りないよ」
と思われるかもしれない。

それは間違いない。

人は決断するたびにエネルギーを消費し、
脳を疲弊させるので、
「テキトウ」に選ぶよりもずっとしんどいであろう。

だが、この判断する力は筋肉のようなもので
鍛えられていくものでもある。

日々テキトウな判断をし続けたり、
誰かの判断に従うだけでは
判断する力は間違いなく衰えてしまう。

よく日本人は優柔不断などと言われることがあるが、
これはまさに出る杭になるのが嫌であるがゆえに
自分で判断することをしない結果だと
私は思っている。

確かに自分で考え、判断することは
しんどいことだが、
逆にそれをしない限り自分の人生の道は
進めない気がするのだ。

誰かが勝手に運んでくれる人生は楽でいいが
行きつくところを選択できない。

それならば多少しんどくても自分の行きたいところに
行くほうが人生は明らかに楽しくなるだろう。

展示会の案内を送らないという
主催企業の担当者の大きな決断に
何だか色んなことを考えさせられた一日であった。

ちなみに家に帰ると某家電量販店から
セールのチラシがダイレクトメールで届いていた。

展示会の案内と同じようにノールックで
それをゴミ箱に入れながら、
私が苦々しい顔をしたのはいうまでもない。



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