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眠れないほど面白い発泡体の話

昨日ようこさんが書かれたこの記事を読んだ。

パンを握りつぶしたら小さくなるという話から
色んな空気を含んだものをつぶしてみると
結局残るのは小さなものであることを
書かれた内容である。

あまり褒められた話ではないが、
中学生ぐらいの頃、ヤマザキのチーズ蒸しパンに
とてもハマった頃がある。

そして、その頃よくやっていた食べ方が
それをギュッとつぶして小さくして
食べるというものであった。

蒸しパンのフワフワ感をあえてつぶして
ギュッと固まったチーズ蒸しパンが
私は好きだったのだ。

この記事を読んでそんな懐かしい思い出が
頭に浮かんでいたのだが、
それと同時にふとあることが頭に浮かんだ。

”もしかして発泡体について記事にしてみたら
面白いのではないだろうか”

冒頭に紹介したようこさんの記事の中でも
世の中には空気を含んだフワフワのものが
沢山あることが書かれている。

しかし、それらのフワフワについて
多くの人はあまり考えることがないだろう。

実は私たちの身の回りにも多くのフワフワが
存在しており、
その作り方や特徴により、とても面白い世界が
そこには広がっている。

あまりマニアックなことをご紹介するつもりもないので
まずは入門編として基本的な事だけではあるが
眠れないほど面白い発泡体の世界を
今日はご紹介しようと思う。

そもそも発泡体とは何か?

この記事を始めるにあたり、まず発泡体とは
一体何なのかを考えてみよう。

字のごとく泡が中にあるものであることは
間違いないのだが、
発泡体を考えるときにはある言葉との
定義の違いを明確にしておかなくてはならない。

それは”多孔質”である。

多孔質もまさに発泡体と似た言葉で
構造の中にたくさんの孔(あな)を持っている
ものである。

例えば、炭は多孔質の代表例として
良く知られているが、
炭の中に穴が開いているのは
発泡しているからではない。

炭を焼くことにより水分が抜け、
木が持っていた細胞壁が炭化することで
結果として微細な穴がたくさん開いたのである。

私たちの体にある骨もまさに
多孔質の一例であるが、
これも炭と同じく、泡が中に入っているわけではない。

また、ようこさんの記事の中で最後に
おにぎりについても書かれていたが、
おにぎりはこの分類でいうと多孔質になる。

なぜなら、お米とお米の間にある隙間は
発泡によってつくられたものではないからである。

では食器洗いに使用するスポンジは何かというと
発泡体であり、紛れもなく多孔質でもある。

つまり、多孔質という大きい分類の中の一つに
発泡体があるのだ。

多孔質全体の話になると、
分厚い本1冊ぐらいの内容になってしまうので
今回の記事でご紹介するのは
大きな多孔質というカテゴリの中でも
発泡体のごくごく一部についてである。

身近な発泡体

発泡体の定義は分かったが、
身近な発泡体とは一体どのようなものが
あるのだろうか。

まず、ようこさんが記事の中で
書かれていたパンは間違いなく
発泡体の一つであろう。

他には食器洗いに使うスポンジ
ファンデーションを塗るパフ
発泡スチロールの食品トレー
プールで使うビート板

例を挙げればキリがないほど
私たちの日常には発泡体が溢れている。

しかし、これらの発泡体は
どれも同じような作り方をされているのだろうか。

いうまでもなく答えは否である。

一言に発泡体と言っても作り方は
千差万別なのである。

そこで、次の章では発泡体の作り方のあれこれを
ご紹介しようと思う。

発泡体の作り方

①化学発泡

先ほど例に出したパンであるが
似たようなものだとパンケーキがあり
こちらも同じようにフワフワしている。

これらは一見すると同じ発泡方法が
取られているように見える。

しかし、この両者では発泡のさせ方が全く異なるのだ。

まず、パンはイーストという酵母の力を使って
発泡させている。

パンを作ったことのある方なら生地を発酵させる工程が
あることをご存知であろうが、
この発酵こそがまさにイーストに代謝物として
二酸化炭素を出させて生地を膨らませている
工程なのである。
意外なことにパンは焼く前に既に膨らんでいるということになる。

それとは異なり、パンケーキには
このような発酵という工程がない。

パンケーキの場合にはパンのような生地ではなく
ドロドロのペースト状の原材料が使われるが、
これは事前にイーストに発泡させる必要がないからである。

どういうことかというと、
せっかくイーストが発酵して二酸化炭素を出しても
生地がドロドロなら、
そのガスは簡単に抜けてしまう。

パンの様にもちもちとした生地だからこそ
焼く前にイーストが出した二酸化炭素が
綺麗な泡として生地の中に残るのだ。

では、パンケーキはどのように発泡させるかというと
ベーキングパウダーの力を借りるのである。

ベーキングパウダーの主成分は重曹(炭酸水素ナトリウム)。
炭酸水素ナトリウムは熱をかけることにより分解し、
二酸化炭素を発生させる。
(中学生の理科で習ったはずである)

この力を利用して、生地をオーブンに入れたときの熱で
二酸化炭素を出させて膨らませるのである。

焼いて固めるプロセスに合わせて発泡させるので
最初はドロドロの原材料でも中に泡を
保持させることができるのだ。

だが、生地が固まり始める温度と
炭酸水素ナトリウムが分解し始める温度を
上手く合わせてやらないと
せっかく発生した泡が思うように生地の中に
残らないこともしばしばある。

家でパンケーキを焼いたとき
日によって膨らみ方が異なるのは
まさにこれが理由である。

フライパンの温度や生地自体の温度
そして、生地の粘度など色んな要素がブレると
同じような条件で加熱したはずでも
生地が固まり始める温度と泡が発生する温度が
ズレてしまうのである。

カップケーキを焼くと生地が膨らんで
最後に表面部分が割れてしまうが
これも表面部分は早々に熱がかかって
生地が発泡して固まるのに対し、
中の方は熱の伝わり方が遅れてくるため
後で発泡するので先に固まった表面部分が
割れてしまうことで発生するのだ。

このように何かしらの条件下で発泡する材料を使って
作られる発泡体が世の中には沢山存在している。

先ほど例に出した食器用スポンジや
ビート板なども熱をかけると発泡する素材を
プラスチック素地に練り込んで
それをに熱をかけることで製造している。

これらも熱のかけ方がとても大事なのは
いうまでもない。

これらの様に発泡する材料を練り込んで
作る発泡方法を化学発泡という。

少し余談にはなるが、子供の頃によく食べた
お米のポン菓子も一種の化学発泡と言える。

この場合は、お米が持つ水分を加熱して
加熱窯の中の圧力を一気に解放することで
瞬間的にそれを気化させて発泡させている。

なので、この場合には水が発泡剤ということになる。

②物理発泡

先ほどパンとパンケーキを例として出したが、
ようこさんが記事の中に書かれていた
シフォンケーキやケーキのスポンジも似たような発泡体である。

だが、シフォンケーキやケーキのスポンジは
実はパンやパンケーキとは異なる発泡方法で
製造されているのである。

パンやパンケーキが発泡する剤を使用した
化学発泡ならば、
シフォンケーキやケーキのスポンジは
物理発泡という方式で作られるものになる。

物理発泡とは一体なにかというと、
その名前の通り、物理的に空気を混ぜ込んで
泡を作るというものである。

シフォンケーキを作るときには必ず卵が使われる。
そして、その卵を泡立てながら生地に混ぜ込んで
それを型に入れて焼いていく。

これは生地自体に空気を混ぜ込むことで
中に空気の泡を沢山入れて、
その状態で熱をかけて固めているのである。

こんなやり方をするのはシフォンケーキや
お菓子だけだと思われる方も多いが、
実はプラスチックやゴムなどもこの方法で
物理的に泡立てて加工されているものが
沢山存在している。

カーペットの裏にスポンジ状のゴムが
つけられたマットが販売されているが、
それはゴムのペースト(ラテックス)を機械で
発泡させたものを加熱することで製造されている。

③可溶物を使用した発泡

化学発泡や物理発泡とは異なる方法で
発泡体を得る方法として、
可溶物を使用した発泡がある。

これはどういうことかというと、
混ぜ込んだ時には固体として存在したものを
練り込んで成形し、
その後でその物質を溶かすことで除去して
孔を作るというものである。

例えばゴムを練るときに塩の粒を
大量に練り込んで成形・加工し、
それを水洗いすることで中の塩だけを
除去する方法で作るゴムスポンジなどがある。

実はこの方法はいまだにゴム印や
インクを含侵させる必要のあるゴムロールなどで
使われている方法なのである。

化学的、物理的な発泡方法はどうしても
気体の状態で泡をコントロールしなくては
ならないので、
温度のかけ方や攪拌の仕方などが非常にシビアに
なってしまう。

しかし、この方法であれば練り込むときには
固体の状態なので
それほどシビアなコントロールは求められないのが
特徴と言える。

カテゴリーとしては微妙だが、
高野豆腐などはこの方法に似た作り方をされる。

高野豆腐はご存じのようにスポンジ状であるが
これは堅く作られた豆腐を一度凍らせて
中に含まれる水分を固体状にすることで隙間を作り、
それを乾燥させることで作られたものである。

元々から練り込んだものではないので
化学発泡に似てはいるが、
固体となったものを除去することで隙間を作る意味では
このカテゴリーでご紹介しても問題ないだろう。

独立発泡と連続発泡


ここまで主な発泡体の作り方について
ご紹介してきたが、
最後に独立発泡と連続発泡についても
簡単に触れておかねばならないだろう。

なぜなら、この定義を知らないと
発泡体について混乱を生じることがあるからである。

あなたは子供にこんなことを聞かれたら
なんと答えるだろうか?

「食器のスポンジは水を吸うのに
なぜビート板は水を吸わないの?」

どちらも同じように樹脂を発泡させたもの。

にもかかわらず、スポンジは水を吸うのに
ビート板は水を吸わない。

どちらも穴の中に水が入りそうなのに
なぜビート板は水を吸わないのか。

その理由は、ビート板の泡が独立発泡だからである。


独立発泡とは何かというと、
モノの中に入った泡がくっつくことなく
泡単体として存在しているものである。

それに対して連続発泡とは泡と泡とがつながり
水の通り道があるような発泡体のことを指す。

食器用スポンジは水が通るのは
泡と泡とがつながった連続発泡だからであり、
ビート板は泡と泡とがつながっていない
独立発泡なので、水を通すことがないのだ。

クッション材として発泡体を選ぶときも
用途的に水や液体を通す方が良いのか
それとも通してはダメなのかで
独立発泡か連続発泡を選ぶ必要がある。

また、一般的に独立発泡で成形されたものは
泡同士がつながっていないので、
つぶされても反発しやすい。

なので、足元やおしりに敷くようなクッションの場合
独立発泡のモノを使う方が
長期の使用でもヘタりが起きにくいのである。

発泡体は面白い

今回はようこさんの記事をきっかけに
発泡体の話を記事にしてみたが、
「へぇ、発泡体って色んなものがあるんだ」と
少しでも思っていただけたならば、とても嬉しい。

世の中にはたくさんの発泡体が使われ
中には私達が口にする者も沢山あるが、
ぜひそれらを口にする際には
その発泡体がどのような作り方で
作られたものなのかをほんの少し意識してみて欲しい。

そうすることでただ単に食べるよりも
面白さが増すであろう。

2000文字ぐらいで収まるかと思って
書き始めたこの記事であったが、
実際書いてみると約5000文字になっていた。

これでも書こうと思っていた内容を
大幅に削ったぐらいなので、
詳細な内容はKindleで書いてみてもいいのかもしれない。

とはいえ、発泡体の話をKindleで読みたいという
ニーズは極めて少なそうな気もする。

今回の記事を読んで少しでも面白そうと
思う方がいれば、ぜひ教えて頂きたい。

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