現代貨幣理論(Modern Monetary Theory; MMT)の非公認「101」その1?の補足2

今回の記事は,この記事(現代貨幣理論(Modern Monetary Theory; MMT)の非公認「101」その1?)に寄せられていた次の質問に対する,ちょっとした返答を記すものである。(こちらの記事とは,直接には関連しないと思われる)

ここで一つ疑問があります。
その政府(又は中央銀行)は、なぜわざわざ自らお金を発行し、そしてそれを税として回収するのでしょうか?
お金を発行する「真の目的」は何だと思いますか?

(そもそもお金って必要なのか?も含めて、、、

「ちょっとした返答」と上では述べているが,特に後者の質問(お金の必要性に関する質問)については,そう簡単には答えられない。したがって,主に前者の質問,すなわち

その政府(又は中央銀行)は、なぜわざわざ自らお金を発行し、そしてそれを税として回収するのでしょうか?
お金を発行する「真の目的」は何だと思いますか?

という質問に集中して,これに対する「ちょっとした返答」を書いてみることにする。

1 通貨は公的独占である

通貨(currency)は,ちょっと考えてみると(ひょっとしたら考えるまでもないかもしれないが)勝手に作り出すことはできない。勝手に作り出すことができるのであれば,それは重大な法律違反となる。なぜならば,通貨とは公的組織である政府(とその機関:具体的には中央銀行)が独占的に発行するものだからである。いや,正確にいえば「通貨は公的独占である」という状態を正統なものとするために,通貨の偽造を禁止するという法律が作られたというべきかもしれない。

ちょっとした思考実験を走らせましょうか。

あるところにおいて,「ヘッドホン」と名のつく国家が生まれたとして,ヘッドホン政府(とヘッドホン中央銀行)は,その国家に住む人々の様々な利害と,国家と国家との争い・協力に関する様々な利害とを調整しようとするものとする。そして,その利害を調整する一つの方法として,ヘッドホン政府は通貨を発行することを決定した。その名を「ボーダフォン」とする(というよりも,政府(それもどこかしらの国の植民地政府とはなっていないような,それなりの独立国家における主権政府)は自らの発行する通貨の名前を自由に設定することができる,というのが現代貨幣理論(MMT)における「お金論(money story)」を理解する上で,大切なポイントの一つなのだ)。

さて,ヘッドホン政府に勤める人を一定数集めることが,ヘッドホンという名前の国家にとって必要なこととなってくる。どんなことを政府がやり,どんなことを政府がやらないか(ちょっと言ってしまえば,通貨を使っていたり道路を使っていたりなどする時点で,政府が関係しない事柄など存在しないのであるが,ここでは,ある事柄に関する政府の関与度の濃淡という意味で理解してほしい)ということについての議論は,ここではしないけれども,少なくともヘッドホン政府に勤める人の数が正の数でなければ,政府として機能することはない,ということは前提としてよいだろう(だからと言って,政府に勤める人間の数が多ければ多いほど望ましい,などとこの言葉のみから言いたいわけではないことに,注意されたい)。

2 「租税が失業を生む」?

ヘッドホン政府は「ボーダフォン」という名の通貨を発行することに決めた。そして,その通貨をヘッドホン国家に住む人々に受け取らせることを目的に,「その通貨による納税しか認めない」という法律を定め,それの実行力を,この法律に違反するものにそれなりの罰則を実施するという形で維持しようと決意した。とすると,ヘッドホン国家に住む人々からすれば,困った事態に陥る。

今まで「ボーダフォン」なんて通貨を使ったことないのに,どうしてそんな通貨を受け取らないと罰則を受けなきゃならんのか...けしからんぞヘッドホン政府!

...となる人も一定数いるだろうが,そこはまあ,ヘッドホン政府に勤める人々を中心になんとか宥めたとしましょう。だが,宥めるだけでは物事は何も解決しない。租税の体系を政府が作っているだけでは,人々は「ボーダフォン」という通貨を手に入れることが必要となる状態という意味での失業に追い込まれたままになってしまうのである。政府が「ボーダフォン」という通貨を発行しなければ,ヘッドホン国家に住む人々は税金を支払うことができなくなってしまう。そういう意味で,「スペンディング・ファースト(支出が先)」となるのだ,という話は,この記事の冒頭に掲げてある記事にて既に説明しているから,ここでは説明を繰り返さないこととする。

さて,「ボーダフォン」という通貨を導入するにあたって混乱をさけきれないヘッドホン政府は,こんなことを提案し始めました。

わかったわかった。一定の労働と一定の実物資源を政府のサービス(ちなみに,サービスという言葉は元々は本業という意味であり,今での英語圏では本業の意味で使われているように思われるが,日本人が「サービス」と聞いて想像するような,必要ではないおもてなし,みたいな意味でサービスという言葉を理解されると困る。したがって,ここでのサービスは本業という意味で捉えてもらいたい)のために使ってくれるのならば,それに報いる形で,少なくともあなたがたが税金を支払えるだけの通貨を,そして何かに備えるために貯蓄がゼロだと困るかもしれないし,働いたら休むということもまた重要だから,ちょっとばかし多く「ボーダフォン」という通貨を差し上げますから,どうかこれで,「ボーダフォン」という通貨に対して敵対心をむき出しにしないでいただきたい!

3 政府は一定量の労働と実物資源とをゲットした!

さて,どうにかこうにか「ボーダフォン」という通貨をヘッドホン国家に住む人々に受け取らせることに成功したヘッドホン政府は,通貨を発行する代わりに,何を手に入れたことになるのだろうか。

通貨の代わりに,人々から生まれる一定量の労働と,自然を変形させることで人々が使用することのできるようになった実物資源とを,政府は手に入れた!

ということになるのである。政府が通貨を発行し,その通貨による納税のみを認めるという法律を,その実行力を担保できるような形で施行することによって,政府は簡単にいえば,労働と実物資源,の一部を手に入れることができるのである。ここで即座に再注意を行うべきことは,どれくらいの量の労働並びに実物資源を政府のサービスに使うかどうか,みたいな話はこれだけの話から決定することはできない,ということである。

そもそもの話をしてしまうと,政府が通貨を発行したり法律を施行し,その実行力を維持しようとする行為それ自体が,政府のサービスの一つであるから,純粋に政府のサービスをゼロにするということは,少なくとも政府が通貨を発行するということを完全にストップすることを必要とするものである。

政府が通貨を発行し,その通貨による納税だけを認めるような法律を作っている以上,政府は,その通貨を得るために働くことを強要されている人々(現代貨幣理論(MMT)の世界で述べると「失業」状態に追い込まれている人々)に対する責任を果たさなければならない。すなわち,政府はゼロ「失業」(ゼロ「失業」のことを「完全雇用」と言い換えてもまあよいのですが,「完全雇用」という経済学用語を用いると,途端に話が錯綜してしまいやすくなるから,「完全雇用」という用語を用いることは,ここでは避けておきたい)を人々に保証する責任があるのである。通貨を発行し,租税の体系を作り出すことだけやっておきながら,「失業」に対する責任を負わないような政府は,もはや政府の体裁を成していないのだから,人々は政府に対する抗議をおこなってよいのである




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