見出し画像

【南無高、娑婆威罵留:白鴉】

       
 ネオサイタマ、ミリオン・ナムコ・ハイスクール。ここは地域唯一の教育機関であるにも関わらず、その出で立ちは神聖な学び舎とは程遠い。校門のカンバンには赤いスプレーで『南無高』と上書きされ、校舎のいたるところに『夜露死苦』『魅裏怨』『回転寿司』などの落書きがされている。そして校庭では。
         
「ザッケンナコラー!」
「スッゾ!」
「トカチツクスゾッコラー!」
           
 飛び交う恐るべきヤクザスラングは、校庭を二分する生徒の群れから断続的に放たれる。一方は『ヤング・ランペイジ・ドラゴン』『若い暴れ竜』と描かれた青緑の竜紋旗を掲げ持つスカジャン集団。そしてもう一方は、白い学ランで固めた堅牢な城塞めいた集団である。
             
 彼女達はツッパリと呼ばれる、学園においてそのテッペン『伝説の番長』の座を巡り争い合うヤンクである。両陣営のトップが睨み合い、まさに一触即発のアトモスフィアが漂う。
            
「美技那亜須素徒雷苦オラー!」
「覇眠愚牢怒スッゾコラー!」
        
           
 ……その様を2階、生徒会室の窓から見下ろす影あり。生徒は眼鏡の向こうの目を細めた。
            
「……見てる? ええ、そう。これ以上『虎』と『竜』に好きにやらせるのはよくない。もちろん、私達の秩序のためにね」それから二言三言告げ、鬼眼はケータイを仕舞った。
          
「あとは頼んだわよ。ブラックマリア=サン」
          
 生徒が背を向ける白板には……おお、ゴウランガ。奇怪な図形、各陣営トップの顔写真など、複雑に絡み合った相関図の一端が映る。
         
            
 正門前では、抗争を尻目に呑気にアンパンを齧る白学ラン生徒が2人。「でねー。シズカ=サンがまたツキ・ウドンをねー」「シズカのウドン好きはホント苦麗示威ですよね」ヤンクはパン屑を撒いて路上の鳩にやっていたが、突然周囲の街路樹から飛び立った鴉の群れに驚き、鳩は飛び去った。そこに、長髪の少女が立っていた。
              
「ここが南無高……」少女は地図を見、ガンを飛ばすヤンクには目もくれず、敷地内へ足を踏み入れようとした。「シカトッコラー! てめーどこ中だコラー!」「ミライ、ここは灰巣苦得流です」白学ランが立ち塞がる。「ここは白虎のシマッコラー! 誠意見せッコラー!」「イヤーッ!」「ンアーッ!?」飛び掛かった白学ランが宙を舞う!
              
 少女の手には1本のシナイ・ブレード。目にも留まらぬ一撃で白学ランを葬ったのだ。尻餅をつき唖然とする片割れに少女が問う。「ここが南無高……ミリオン・ナムコ・ハイスクールでいいんですよね」「あ、え、威愚座苦鳥居です……」少女は歩き出し、ふと立ち止まった。
              
「そうだ。これを忘れてた」
               
 少女は鞄から黒い長ランを取り出して羽織った。金字の『愛銃道』『殺伐騎士』の刺繍が輝き、背には白い鴉の紋を負う。「あなたの名前は……」白学ランが問う。「私はシホ・キタザワ。転校生よ」シホは校門を潜る。遠くから抗争の諍いが聴こえた。
                      
「ナカヨシ……ブラックマリア。必ず見つけ出す」
              
                     

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?