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イスラエルのヘルステック最前線 - ピッチイベント開催報告

米国発のヘルステックコミュニティHealthtech Women Japanでは、毎月のスピーカーイベントを通して、「グローバル」「女性の活躍」「イノベーション」をキーワードに、様々なバックグラウンドの女性が集まり、交流し、知識を深める場所を提供しています。

SUMMARY

10/10(水)に開催された 第11回目となるイベントでは、イスラエル最大規模のヘルステックスタートアップコミュニティ-「mHealth Israel」と連携し、インターナショナルカンファレンスを開催致しました。

本イベントの共催団体「mHealth Israel」は5年前に設立され、現在では約5,000名のメンバーが参加するHealthTechスタートアップコミュニティーです。今回のイベントでは、中でも女性の活躍を支援する「mHealth Israel Women」が女性ヘルステック起業家6名を選抜し、日本へ派遣してくださいました。mHealth Womenはヘルスケア、IT領域で女性がキャリアの成功に必要な経験などを共有することができる最新のセミナーイベントを通じ、ネットワーキングそしてコラボレーションの機会を創出しています。

イスラエルのHealthtechの変遷と最新トレンド

冒頭では、mHealth Israel Women代表のオラニット氏より、 イスラエルにおけるヘルステック市場の概況、およびその中での女性の活躍状況についてお話しいただきました。

イスラエルでは、ライフサイエンス企業数は堅実に増加を続けており、2017年時点では1,500社 に上ります。また、その中に占めるR&D領域の割合は50%近くとR&Dに力を入れていることもイスラエルの特徴です。

近年は Googleによるイスラエルのスタートアップ、Wazeの買収など、大企業による巨額の買収も多数生じており、イスラエルの スタートアップがグローバル社会に与える影響はかなり大きくなってきています。

オラニット氏は、イスラエルがスタートアップ大国と呼ばれるようになった理由について下記のような背景があると語りました。

1. 障害をアドバンテージに変える力がある
イスラエルは他の国同様、数多くの課題を抱えています。例えば、乾燥の激しい国土をもつイスラエルでは、慢性的な水不足が深刻な課題です。しかし、この水不足を解決したいという思いがモチベーションとなり、 水管理、脱塩や点滴灌漑などの分野で最先端の技術が生まれてきています。また、セキュリティー強化の必要性に答えて整備された軍は、最先端技術創出の場ともなっており、兵役中に仲間を見つけ、退軍後起業するといったケースも頻繁にみられます。このように、弱点を克服するのみならず、強みに変えてしまうイスラエルの力が、イノベーションを後押ししていると言います。

2. 強固なスタートアップエコシステム
イスラエルでは、政府、公共機関、大学、民間企業、VC、そしてスタートアップなど多様なアクターにより密なネットワークを構築されています。これらの国内組織に加え、270以上の海外企業がイスラエルにR&Dを設置しており、国を跨いだ強固なスタートアップ・エコシステムが形成されています。

3. 政府によるバックアップ
イスラエル経済省の中にはIsrael Innovation Authorityが設置されており、産学連携や民間・公共セクターの接続を目的として様々なプログラムが企画されています。例えば、Tenders Challenge Pilotsというプログラムでは、保健省が掲げる6つの健康課題に対して、スタートアップの革新的なソリューションを募集し、優れたスタートアップに対しては、PoCの費用を政府が負担しています。このプログラムに見られるような、スタートアップの技術を公共セクターへも導入していこうとする政府の積極的な姿勢もスタートアップの活躍を後押ししています。

4. イスラエルならではの国民性                    オラニット氏がイスラエルの国民性を表現する言葉として 紹介したのは、”Chutzpah”(ずうずうしさ)と”Yallah”(Let’s go , Let’s make it happen) です。日常の些細なことに疑問を持ち、納得するまで質問責めにするずうずうしさと、思いついたらとりあえず走り出して、じっくり考えるのはその後、といったイスラエルの人々のエネルギーに満ちな国民性こそ、イノベーションの原点だとオラニット氏は語ってくださいました。

このような要因に後押しされ、進化を続けるイスラエルのヘルステック業界でも、女性の活躍の場はまだまだ限定されているそうです。mHealth Womenは女性のスキルを高め、ヘルステクノロジー分野における 活躍の機会を広げることを目的に、メンターとのディナーや海外遠征、ミートアップを通じたネットワークの構築等を実施しています。

イスラエルHealthtechスタートアップとの連携

そんなイスラエルのスタートアップも進出を狙うのが、世界最大のヘルステック市場、アメリカです。今回は、Managing Directorのリサ氏より、アメリカを代表するヘルスケアプロバイダー、Henry Ford Health System が進めるスタートアップとの連携の仕組みについてご紹介いただきました。

Henry Ford Health Systemは1915年に設立され、複数の病院や医療センター、医師会を運営する伝統あるNPO法人です。Henry Fordは最先端テクノロジーの導入によりアメリカが抱える数々の医療課題を解決すべく、 Innovations Programを実施しています。

本プログラムの内容は主に3つ、医療人材に対するイノベーション教育、国内研究成果の商業化、そして海外企業とのパートナーシップ締結です。特にスタートアップとのパートナーシップにおいては、 業務に対する助言や計画策定の支援、アメリカ市場参入に際しての決済モデルの構築サポート、および臨床データの提供によりアメリカ市場への進出をサポートしています 。市場に対して自社の技術をいかにフィットさせ、マネタイズするかは多くの海外スタートアップが直面する課題であり、アメリカ市場に熟知したHenry Fordによるサポートは非常に有用であると考えられます。

現在、Henry Fordのプログラムに参加しているイスラエルのスタートアップとしては、Healthymize(音声管理アプリ、COPD患者等の緊急状態を探知)やMontfort(神経障害に苦しむ患者の健康状態向上)が挙げられます。

イスラエルスタートアップによるピッチ

ここからは、いよいよ本イベントの目玉、イスラエルのヘルスケアスタートアップ5社によるピッチが行われました。それぞれのピッチの後には、500 Startups Japan マネージングパートナーの澤山陽平氏、500starups Japan Senior Associate 兼 Healthtech Women Japan Head of Researchの吉澤美弥子から、質疑応答と総評を行いました。

1. IMNA Health

IMNA Healthは、日々の診療行為におけるデータや医師の記録をオンラインで一括管理することに加え、患者の自宅での症状等をフィードバックして統合することで、業務効率をアップするアプリを開発しています。

<質疑応答・コメント>
澤山氏: このサービスによる効率化で、最大の利益享受者となるのはだれでしょうか?
IMNA:コミュニケーションコストの低下により、医師・患者双方がメリットを受けることはもちろん、ここで蓄積されたデータを提供することにより、製薬会社や大学等の研究機関にもメリットを与えることができるようになります。
吉澤:先月、アメリカでも近いサービスが資金調達を達成しており、そのスタートアップは診療中の医師・患者間の会話をAppleWatchで取得し、自然言語処理をして業務効率向上に繋げるアプリを開発してました。
澤山氏:確かに、業務効率向上を目指すスタートアップは数多くあるが、IMNA Healthの特徴はより大きなビジョンを持ってい点。医師・患者間のコミュニケーションの効率化に止まらず、他アクターの巻き込みやブロックチェイン等最新技術の導入を通じて、その先のより包括的なゴールを目指していることがうかがえます。

NeuroCan

NeuroCanは、小脳に関する障害を含む神経疾患のオンライン診療アプリを開発するヘルスケアスタートアップです。神経疾患は慢性的であるものが多いため、かかりつけ医とオンラインでも継続的に治療を続けることで症状の改善をサポートします。

<質疑応答・コメント>
澤山氏:日本やアメリカでオンライン診療といえば、皮膚科等画像を使ったものがほとんどだが、NeuroCanの場合は、独自の技術を用いて新たな領域に進出していることが面白いと思いました。
澤山氏:独自技術を用いた独自のデバイスを開発しているのでしょうか。
NeuroCan:デバイスではなく、アプリとして開発しています。
初めから神経科にかかる人がいないのと同じように、まえもって神経疾患用のデバイスを買ってくれる人はほとんどいません。そのため、誰もがもっているスマホ上のアプリとして売り出す方が普及しやすいのです。

DreaMED

DreaMEDは、糖尿病患者のデータをより有効に活用するためのシステムを開発しているスタートアップ。データ収集のためのテクノロジーは多数出てきているのに関わらず、それらの情報が十分に活用されていないという課題に対し、AIを使ってインスリン摂取のタイミングや量についてのアドバイスを提供しています。現在このアドバイスの精度は専門医と遜色ないほどまでに向上しているそうです。

<質疑応答・コメント>
澤山氏:現在のフェーズとしてはどの段階にあるのでしょうか?
DreaMED:つい先月、FDAを取得しました。11月中旬にスロベニア・ドイツ・アメリカでローンチ予定です。

WellBeat

WellBeatは、慢性疾患患者の50%が治療・療養計画を守れないという課題に対し、AIを活用したソリューションを提供するスタートアップ。具体的には、 AIを用いて患者間の相違を特定し、個々の患者に合った治療計画を抽出して医療従事者に提供します。

<質疑応答・コメント>
澤山氏:治療計画策定のベースとなる患者のデータはきちんと取得できるのでしょうか。
WellBeat:最初はSNSなど情報を取得しやすいところから初め、医師や看護師との1on1、アプリへの患者自身の書き込み等を統合することで情報を補完してきます。

PlasFree

PlasFreeは、大量出血時に行われる輸血が、血漿の凝固作用が弱いために効果が低い、という課題に対し、独自技術を用いた凝固作用強化フィルタを開発しています。現在動物に対する治験を完了し、出血量の50%低減に成功しました。このフィルタを用いれば血液凝固剤を使用しなくて済むだけでなく、2年間の長期保存が可能となります。今後は、病院や血液バンクへ販売していく予定です。

<質疑応答・コメント>
参加者:このサービスは軍隊等でも活用できるのではないでしょうか。
PlasFree:本スタートアップのフィルタは、まさに外傷による大量出血が頻繁に生じる軍隊のニーズに応えて開発されました。イスラエル軍へも今後導入していく予定です。

DEBRIEFING

本イベントでは、6名の女性起業家に加え、イスラエル大使館経済部ノア大使やmHealth Israel代表レヴィ氏をお迎えし、イスラエルのヘルステック スタートアップエコシステムについて、大いに知見を深めることができました。

質問好きで行動派のイスラエルと、控えめで慎重派の日本。本イベントが、互いの良さ知り、 ネットワークを築く機会となっていたら、更には今後、国を超えたビジネスが生まれるきっかけとなっていたら、これほど嬉しいことはありません。

今回はmHealth Israelを初め、会場提供をいただいたLink-J様をはじめとする数多くのパートナー企業のみなさま、ボランティア、そして何より参加者の皆様のおかげで、今までで最大規模かつ最もインターナショナルなイベントを、大盛況のうちに終えることができました。心より感謝申し上げます。そして、Healthtech Women Japanは、これからも、国内に止まらず多様な企業・団体との連携を通じて活動の幅を広げていけたらと考えております。変わらぬご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

Writer
Healthtech Women Japan Research Assistant
西尾萌波

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