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イスラエルが国家をあげて注力するデジタルヘルス戦略の最先端レポート

SUMMARY

2019年3月25日から5日間イスラエルでMEDinISRAELが開催され、実際に参加してきたインサイトと、直の感想を共有したいと思います。

MEDinISRAELは2年に一度のイスラエルのデジタルヘルス業界の主力イベント。
イスラエルが国家プロジェクトとして取り組んでいるデジタルヘルスケアにおけるイノベーション促進のため、イスラエルの経済産業省や輸出協会、外務省、保健医療省、イスラエル対外貿易管理局などが主催しています。

今年で5回目となったこのイベント。イベント内では、欧米からアジアまで世界から集まったデジタルヘルスリーダーによる12の基調講演と、イスラエルのイノベーターを含む約60の出展企業が独自のデジタルヘルスサービスを披露しました。

今年の傾向としては、遠隔医療、在宅医療、インターネット医療オブジェクトに焦点を当てた医療関連のトピックから、仮想不動産および不動産用途における患者、サイバーセキュリティまで幅広いトピックをカバーしていました。

デジタルヘルス市場について

2016年から2021年まで、ヘルスケアIoT市場は225億ドルから720億ドルまで、年率26%で成長すると予測しています。(フロスト&サリバン)

そうした中、イスラエルのデジタルヘルス産業において積極的にテクノロジーを活用し、より良いヘルスケアサービスをユーザーに提供しようとしているアクティブ企業の数は近年大幅に増加し、2018年半ばには450 社を超えています。

またイスラエルは世界で2番目に大きい医療データベースを保有。この医療データを活用して、患者治療の分析と最適化に新たな機会を生み出し始めており、実際人口の98%が完全健康保険に加入し、数年前からEMRシステムを使用しています。

イスラエルにおける国家戦略としてのデジタルヘルス

イスラエル保険省局長のMoshe Bar Siman Tov氏による「国家戦略としてのデジタルヘルス」の基調講演では、データを簡単に共有できるようにするための中東各国の国民健康情報交換プラットフォームについて話しました。

イスラエルには、4つのヘルスケア管理組織(HMO)があります。 この4つのHMOとその関連病院は、独立して運営されていますが、過去20年間、同じ電子医療記録プラットフォームを使用しており、必要に応じて各診療所で利用可能な患者記録にアクセスできます。

そして病床に関しては、半分は政府が所有し、約3分の1をClalitが所有しています。つまり病床の80%が2つの組織によって所有されています。 相互運用可能な医療プラットフォームの起源はClalitから生まれた、とTov氏は言います。「現在、イスラエルのすべての病院とHMOがこのプラットフォームに接続されています」

Tov氏の講演の他には、英国のアクセンチュアのヘルスビジネスを統括しているNiamh McKenna氏による「健康を守るための技術動向」や米国ノースウェルヘルス副社長兼CTOのPurna Prasad氏による「医療のデジタル化が患者、医療提供者、そして支払人に与える影響」など、世界の動向から最新の技術まで幅広い発表に。どの講演も多くの方が耳を傾けていました。

最新のデジタルヘルスサービスを紹介

また会場内ではピッチイベントも随時開催。展示会場と同じ場所であったため、音が混じらないようにヘッドホンを使い、講演を聞くスタイル。どのブースも世界各国から集まった医療従事者や投資者を始めとする参加者で賑わっていました。


VR Health

MEDinISRAELのイノベーション賞をとった『VR Health』。
VR HealthはVRヘルスはXR技術を使用した医療用および治療用アプリケーション。この製品は、運動認知、身体的、心理的、姿勢能力、そして痛みの評価と治療に焦点を当てた、世界で最初の認定バーチャルリアリティ医療企業であり、FDA(米国食品医薬品局)の認可も受けています。

単にVRによる治療を提供するだけでなく、AIとクラウドコンピューティングのアルゴリズムを用い、さらに進んだデータ分析を行うVR Health。例えば患者がVRによる治療を受けている際に、トラッキングツールを用いたデータ分析を行うことで、医師が個々の患者に適したヘルスケアを提供できるようにしているのです。また没入型経験および有意義な分析によるリハビリテーションを強化するための画期的な技術を活用し、その企業の特性および市場ニーズに合わせて幅広いVR、ARソリューションを提供できます。

遊び感覚で楽しみながらできるこのサービス。医療機関Cedars-Sinai Medical Centerで医療サービス研究部門のディレクターを務める医学博士シュピーゲル氏によると、医療でのVR技術活用の目的は「患者のために新たな種類の治療環境を作リ出すこと」にあるという。今後もVR×医療によるサービスから目が離せません。


YO

またYOはFDA、ならびにEUおよびイスラエルの認証を取得した、この領域で最初の在宅精子検査です。

日本でもリクルートライフスタイルが男性不妊専門医の協力のもと臨床試験を実施し、自宅で手軽に精子の状態をセルフチェックできるサービス”Seem”を開発し、2016年度グッドデザイン賞の特別賞であるグッドデザイン特別賞を受賞し、注目をあびました。

説明をしてくれたエンジニアマネージャーのLior Shrikiさんは「日本にも似たようなサービスがあることは知っている。ただ僕らのサービスのほうがより解像度高く、細胞を見ることができる」とYOへの自信を語ってくれました。実際Cleveland clinic foundationによるまもなく発表された研究では、YOが97%以上正確であることが示されました。


HeraBEAT

HeraBEATは、スマートフォンベースの家庭用胎児心拍数モニタリング。いつでもどこでも、赤ちゃんの心拍を聞き、追跡し、共有することで夫婦の不安を少しでも取り除くことを目的としたサービスです。

あらゆるバックグラウンドノイズを除去する独自のアルゴリズムを使用しているので赤ちゃんの心拍のクリアなサウンドに接続することを可能にしています。実際、CEマーキングの認証を受けており、医療専門家によって広く支持されています。

子育てに関する負担をITで解消するBabyTech。HeraBEATのようなサービスは日本ではまだあまり普及していないですが、今後妊婦期の過ごし方や心のあり方に影響を与えそうです。

終わりに

少子高齢化が進む日本にとっても、今後こうしたデジタルヘルスがより必要不可欠になるのは確実です。またプロダクトを生む側としても使う側としても先進的なイスラエルは今後もロールモデルとして他の国に対しても大きなインパクトを与える存在であり、ますます動向から目が離せないでしょう。今後も現地からの最新ヘルステックを伝えていけたらと思います。


ライター

Healthtech Women Japan Research Assistant
青山奈津美ー慶應義塾大学3年(休学中)
イスラエルでアラビア語留学とコンサルティング会社でインターン中。

参考文献

Israeli health official: We are a market economy but socialist when it comes to health

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