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イスラエルのヘルステック市場に関する基礎知識

米国発のヘルステックコミュニティHealthtech Women Japanでは、毎月のスピーカーイベントを通じ、「グローバル」「女性の活躍」「イノベーション」をキーワードに、様々なバックグラウンドの女性が集まり、交流し、知識を深める場所を提供しています。10月10日(水)の第11回目イベントでは、イスラエル最大規模のHealthTechスタートアップコミュニティ「mHealth Israel」と連携し、インターナショナルカンファレンスを開催いたします。

今回の記事では、この一大イベントに向けた前知識として、イスラエルのヘルステック市場に関する基礎知識をご紹介いたします!

スタートアップ大国、イスラエル 

日本人が「イスラエル」と聞くと、銃弾飛び交う危険な国をイメージしがちですが、実状はかなり異なります。もちろんガザ地区など一部地域の治安は未だ不安定である一方、一人当たりGDPは2017年時点で日本を抜き世界22位と高く、 国民は教育への投資にも非常に熱心で、優秀な人材を数多く輩出しています。

イスラエルと日本の国民一人当たりGDPの比較(出典:IMF)

中でも近年注目を集めているのが、そのスタートアップ市場の急成長ぶり。GDPに占めるベンチャー投資額の割合は0.4%弱でアメリカを抜き、ダントツの世界一位。日本ではベンチャー投資というとリスクマネーというイメージが強いですが、イスラエルではベンチャーが新しい科学を担い、社会の中で 一定の役割を果たすという仕組みがすでに出来あがっていると言えます。

その成長の要因は数多く挙げられますが、代表的なものとして今回は以下の3つをご紹介します。

1. “イノベーション”とシナジーの強いユダヤ教
イスラエルでは人口の75%以上がユダヤ教徒であり、ユダヤ教がイスラエル文化の基礎となっていると言えます。そのユダヤ教の教えの特徴として「全てを疑え」というものがあり、これが答えを探すのではなく常に最適化を目指す姿勢、ひいてはイノベーティブな発想につながりやすいのではないかと考えられています。

2. 政府主導のエコシステム構築
イスラエルでは、1992年に政府が立ち上げた官民出資のベンチャーキャピタルをきっかけに、スタートアップエコシステムの形成が進められてきました。その後もイスラエル政府は、海外投資家への課税をゼロにするなど、 海外企業の誘致に積極的に取り組んでいます。また、民間VCへのサポートも実施しており、現在イスラエルには70以上ものVCが存在しています。

3. 海外大企業による積極的な買収
イスラエルはGDPに占めるR&Dへの投資額が 4.25%と高く、従来よりR&Dに力を入れていました。近年は、海外大企業がイスラエルのスタートアップに投資して新しいテクノロジーの開発を支援した後、買収してその技術をグローバルに展開する、という新しい形のR&Dが盛んになっています。イスラエル企業側もこのような買収を次のステージに進む、という肯定的なイメージで捉えており、イスラエルは世界のR&Dとなりつつあると言えるでしょう。

イスラエルのヘルステックトレンド 

そんなアツいイスラエルのスタートアップ市場において、ライフサイエンスは全体のエグジット額の16%(年間約1000億円)を占めており、そのプレゼンスは大きいと言えます。ライフサイエンスといっても内容は多岐に渡りますが、全分野を合わせれば国内だけで毎年新たに60-70社の新たなスタートアップが誕生しており、 計約1,400社のスタートアップがしのぎを削っています。

イスラエルで従来より盛んなのは、最先端医療デバイスの開発であり、スタートアップ1,400社中約600社が医療デバイスを開発しています。近年はAIを活用した最新デバイスの開発も盛んになっており、今後は予防医療やパーソナライズ医療も益々進展していくと予想されます。


イスラエルのライフサイエンス市場のサブセクター内訳(出典:IATI, IVC-ZAG High-Tech Capital Raising Survey)

注目のスタートアップ紹介

今回は、中でも目からウロコの最先端医療デバイスを開発するイスラエル発スタートアップを3社ご紹介します。

1. tytocare
tytocareは、誰でも自宅から診察を受けることが可能な遠隔医療用小型デバイス、プラットフォームを開発しています。画像認識技術を用いたガイダンスにより、診断の仕方を知らない人でも簡単に体温や喉、耳、心拍や肺などの状態を検査することができ、取得されたすべてのデータをプラットフォーム上に安全に保存することで、医師はそれらの情報に基づいて診断を下すことができます。2017年にはFDA認証を受け、アメリカにも進出しています。

2. Livia
Liviaは、薬を使わずに生理痛を和らげるウェアラブルデバイスを開発しています。2本の電極を 痛みのある部位に吸盤で貼り付け、メインデバイスのスイッチを入れると、穏やかな電気パルスが感覚神経を刺激し、生理痛の強い痛みを消すという仕組みになっており、現在はAmazonを通じて、日本でも購入が可能となっています。

3. BrainQ
BrainQは、脳卒中の後遺症や脊髄の損傷などで障害を抱える人びとに、個人化された電磁療法を提供するAIスタートアップです。 世界最大のデータベースBrain Computer Interface、EEGデータベース(脳波図/脳電図データベース)を学習したAIが、 患者の脳波を分析し、最適な治療計画を作りだします。神経科学の精神医学への応用は非常にニーズが大きい一方で、学問的・技術的困難の多い分野です。世界最大のデータベースを所有し、AIや神経科学の研究者・技術者が顔を揃えるBrainQは、総計880万ドルの資金調達に成功し、今後本分野の世界的リーダーへと成長する可能性を秘めたスタートアップと言えるでしょう。

10月には、イスラエルの起業家がいよいよ来日!

10月10日(水)には、イスラエルから7名程度女性起業家が来日し、ピッチを行います。ここでは紹介しきれなかった、最先端の医療デバイスやAIを用いたソフトウェアについて、開発者自身から話を聞ける非常に貴重な機会です。
お申し込みの際には、こちらから、チケットのご購入をお願いいたします。たくさんの方のご参加をお待ちしております!

ライター紹介 - 西尾萌波

東京大学教養学部2年(医学部内定)。2018年夏には2ヶ月間に渡り、コンサル企業のインド支社にて、インド市場に関するリサーチを経験。Healthtech Women Japanでは、リサーチアシスタントとしてヘルステック業界のリサーチに取り組んでいる。興味領域は、途上国におけるメンタルヘルスであり、これまでにはインドにおいてフィールドワークを実施した他、モンゴル、パプア・ニューギニアなど複数の開発途上国を視察。

参考文献:
IMF DataMapper
https://www.imf.org/external/datamapper/NGDPDPC@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD/JPN
Israel’s Life Science Industry IATI Report 2018
http://www.iati.co.il/files/files/IATI%20Israeli%20Life%20Sciences%20Industry%20final.pdf
nocamels ISRAELI INNOVATION NEWS
http://nocamels.com/2018/03/israels-burgeoning-digital-health-ecosystem/
Tech Crunch
https://jp.techcrunch.com/2018/05/17/2018-05-15-brainq-raises-5-3m-to-treat-neurological-disorders-with-the-help-of-ai/
ハイテク先進国から日本復活のカギを探る(NIKKEI CNBC)
https://channel.nikkei.co.jp/m/watch/vod/?topfol=12&topfile=1901&ref=cnbc
記事作成協力:
株式会社 JIW Sync 代表取締役 赤野健悟





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