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イチからわかる!メンタルヘルスKEYWORDS No.1「社会的入院」

こんばんは。いつにもましてメンヘラ気味のさとうです。

前回の週刊メンヘラNEWSの公開後、各方面よりフィードバックをいただけました。ありがとうございます!!

貴重なご意見を踏まえ、今回からは「週刊メンヘラNEWS」に加え、「イチからわかる!メンタルヘルスKEYWORDS」というマガジンを不定期で更新していきたいと思います。

さて今回は、精神科病院における「社会的入院」(認知症を除く)についての記事です!

つい先日、Eテレで特集されたことでちょっと話題になりましたね。

 

社会的入院とは?

社会的入院とは、症状が治まり入院治療が必要ないにも関わらず、病棟での生活を余儀なくされている状態のことを指します。

古いデータにはなりますが、2004年時点では受け入れ条件が整えば退院可能な患者が約70,000人いるとされています。

たいてい、入院が必要となるような症状が治まるようになるまでかかる時間は3ヵ月程度と言われています。入院後に症状が落ち着いたら、できるだけ早く退院して地域生活に戻り、通院やリハビリをすることが一般的であるとされています。

にもかかわらず、日本の精神科病院では長期にわたり入院するひとがめずらしくありません。もちろん、全ての長期入院患者が社会的入院患者というわけではありませんが、なかには20年以上も入院している方もめずらしくなく、全国に約2万8千人もいらっしゃいます。

ただ精神障害にかかってしまったという理由だけで、家族や社会から隔絶された病棟で、管理された生活を長年送っている人たちが日本には大勢いるのです。

精神科病院は生活の場、ましてや姥捨て山ではなく、治療の場です。人権の観点から考えても、入院治療で急性期の症状が治まったあとは地域での生活を取り戻すべきなのです。


そもそも、精神科への入院って?

抑うつ気分や妄想、幻覚などの精神的な症状により静養が必要であったり、自分や他人を傷つけてしまう可能性があったりするような場合に入院が必要とされます。

自分から入院する方は57%程度で、あとは家族の意思や行政の命令により、自らの意思に反して入院されます。


社会的入院患者とは誰なのか

意外に思われる方も多いかと思いますが、現在の入院後一年時点の退院率は87%程度です。早期退院支援が整いつつあるため、最近入院されるかたが社会的入院に陥ることは少ないのです。

では、なぜ社会的入院が取り沙汰されるのでしょうか?

問題となっているのは早期退院支援が整う前に入院された方々で、統合失調症患者が多いとされています。

入院患者の高齢化が進むなか、早急に手を打たなければ社会的入院患者は寿命により精神科病棟で一生を終えることになってしまうのです。


どうして退院できないの?

症状が治まっているのに退院できない理由は様々です。

家族が退院して家に戻ってくることを拒否したり、地域にグループホームなどの受け皿がなかったり、退院後の一人暮らしを支える支援が足りなかったり…あるいは、長年にわたる入院生活で、患者さんが退院する意欲を失ってしまうこともあります。

また、少し陰謀論じみた話にはなりますが、日本の精神科病院のほとんどが、総収益の8割を入院診療が占めていることも地域移行を阻む要因の一つであるとも言えます。「精神医療は牧畜業だ」とまでは言いませんが…

こうした複雑な事情が絡み合って現状があるわけですが、もう少しだけ理解を深めるために、日本の精神医療の歴史を軽く振り返ってみようと思います。


日本の精神医療の歴史をザッとふりかえってみると…

昔、精神障害があるひとは、自宅の一室などに設置された牢屋のような場所に家族によって監禁されていました(「私宅監置」)。下図は日本精神神経学会からお借りいたしました。

1950年になってようやく私宅監置は禁止されたのですが、それと同時に、それまで自宅に監禁されていた患者を治療するための場所が必要になりました。

国は公営の精神科病院を増やそうとしましたが、財政難により失敗。

そのため民間の手で病院を建てやすいように、病院をひらくための基準を大きく緩めたり、長期低利融資をしたり、患者を強制的に入院させる場合にかかる費用の国庫負担を8割に引き上げたりしました。

「精神病院は儲かる」という評判から、精神医学を全く学んでいない医師もこぞって参入したため、民間の精神科病院が激増しました。精神科の病床数の多さは現在でも世界でダントツ一位となっています。病床数の多さは、日本の精神医療の地域移行(脱施設化)が遅れていることを意味します。

ちょうどその頃、当時のアメリカ大使が精神科の治療歴がある少年に刺される事件が起こり、メディアをはじめとした「精神病患者を「野放し」にするな」というキャンペーンのもと精神障害者の隔離収容政策が進められます。

このとき欧米での潮流は脱施設化であったにも関わらず、その流れに真っ向から逆行するかたちになりました。


運命の分かれ道——クラーク博士の予言

1968年、WHOから派遣された英国のクラーク博士が日本の精神医療の実態を調査し、日本の閉鎖的収容主義的な精神医療のあり方を批判した「クラーク勧告」を政府に提出しました。

クラーク勧告には以下のような記述があります。

「…ここ15年間新しく作られた多くの日本の精神病院は分裂病患者に利用され満床になっている。…5年以上在院している患者数は増加し、しかも、これらの患者の大多数は25才から35才の若い人々であった。ふつうに寿命を全うすとなれば、この患者はあと30年間も病院に在院する可能性がある。

「…1980年代から1990年代において日本の精神病院でも老人患者の数は非常に増加するだろう。このことは遠い先の問題のようにみえるだろうが、何らかの対策がすぐに行われなければ、大変なことになるだろう。

(出典:デービッド H. クラーク/著「日本における地域精神衛生─WHO への報告」『精神衛生資料』第16号第3巻 pp165-191, 1969国立精神衛生研究所/刊)

クラーク博士は「過剰収容による利益追求が大きな人権侵害につながるおそれがある」と指摘し、地域福祉の拡大やリハビリテーションの充実などのいくつかの改善案を提示しました。

しかし、国はこれを「英国は何分にも斜陽国でありまして,日本がこの勧告書から学ぶものは全くありません」として完全に無視をします。こうして、クラーク博士の懸念は現実のものとなりました。

もし、勧告を受けた時点で政策を転換し、地域の受け皿作りの整備を進めていたら、現在病院にいる社会的入院患者は精神科病院ではなく地域で、当たり前の人生を歩んでいたことでしょう。

日本が精神障害患者の隔離収容政策をやめるきっかけとなったのは、1984年に起こった宇都宮病院事件です。看護職員が患者をリンチして殺したこの事件が国内外で広く報道されたことで、国際機関で日本の精神保健の遅れが批判されたりとかなり大きな問題となりました。ここまできてようやく、地域移行への舵を切ることになったのです。


いま、どんな解決策が打たれているのか

現在長期入院患者対策としては、医療機関や地域の事業者などの連携、医療機能分化による人材・財源の配分を効率化治療抵抗性統合失調症治療薬普及、多職種チームによる退院支援強化などが行われています。

今年度からは第5期障害福祉計画第7次医療計画第4次障害者基本計画がはじまり、診療報酬改定もあるので今年は色々と境目の年だったりするみたいです。

*参考資料*
第5期障害福祉計画
第7次医療計画について
平成30年度診療報酬改定の概要
これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会参考資料
これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書(概要)


さいごに

ここまで長々とお付き合いいただき本当にありがとうございましたm(_ _)m

冒頭で紹介したEテレの特集ですが、視聴者の反応などをツイッターでみていて思ったことがあるので、本当はこの記事に盛り込むつもりだったのですが…

さすがにちょっと字数的にも重さ的にもアレなので、また別途に書くことにします。


それにしても、先々週に出した週刊メンヘラNEWSでは、社会的入院について「いつか余裕がある時にでも記事にしたい」なんてフラグを立ててしまい…

周囲からも「絶対書く気ないでしょ」なんて言われたりもしましたが(笑)、無事こうして文章にできて良かったです。

とはいえ、資料集めなどで思ったより時間がかかってしまい、公開が遅れてしまいました…反省してます。。

至らぬ点も多々あるかと思いますので、何かありましたらフィードバックいただけたらとても嬉しいです!よろしくおねがいします_|‾|○




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