カッコイイだけでは意味がない JリーグSNSクリエイティブ設計論 #Jリーグ

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「Jリーグのソーシャルメディアはダサい!」という言説を最近よく見るけれど、目的もなく「とりあえずクールな感じにすればいい」ではダメ。「何のためにかっこよくすべきなのか」を明らかにした上で、クリエイティブを設計する必要があります。なぜかっこよくあるべきなのか。かっこよさを追求することで、何が得られるのか。

「いや、カッコいいほうがいいに決まってるでしょ」と思うかもしれませんが、台所事情が厳しいJリーグのチームにとって、デザイナーを雇ったり、外注したりするのは大きな負担。「クリエイティブに投資したらどんなメリットがあるの?」と返すクラブも多いはず。普通に考えれば、スポンサー営業のセールスメンバーを増やしたほうが直接的に収益につなげられそうですもんね。

…というわけで、SNSのクリエイティブが目指すゴールを整理した上で、湘南ベルマーレでの取り組みを事例に交えながらクリエイティブの設計ポイントについて書いていこうと思います。

自己紹介とこれまで取り組んできたこと

湘南ベルマーレのソーシャルメディア運用をサポートしはじめて今年で4年目に突入しました。その過程で、Jリーグのソーシャルメディアの変遷をたくさん見てきたつもりです。

ベルマーレへ提供しているのが、スタメン紹介やゴール時の動画をリアルタイムに作成できる「コンテンツ自動生成テクノロジー」です。これにより、デザイナーにひとつひとつ発注せずとも、画像や動画を完全自動で作成し、特製の管理画面ですぐに投稿できるようになりました。

結果、タイムラグなく臨場感をもって提供できるようになり、フォロワー数が爆上げした実績があります。

参考までに、3年前に取り組み始めたときの記録がブログに残っていたのでよかったら見てみてください!

【取り組み前に書いた記事】
スポーツクラブに求められる「ウェブ時代の情報発信力」 J1湘南ベルマーレの事例から学ぶケーススタディ
【取り組み開始後】
湘南ベルマーレに「コンテンツ自動生成テクノロジー」を導入したらめちゃくちゃ好評だった件

取り組みをはじめてから3年が経ちましたが、今では大半のチームがSNSに熱心に取り組んでいる印象です。だからこそ、Jリーグ各チームのデザインについて、いろいろ議論が巻き起こるようになったんじゃないかと分析しています。

※ちなみに、ベルマーレにはほぼボランティアで携わっていて、自分自身が開発作業・デザイン作業を担当しています。

ソーシャルメディアは未来のサポーターを獲得する貴重な手段

クリエイティブの話をする前に、誰が投稿を閲覧するのか考えたいと思います。例えば湘南ベルマーレ公式Twitterでは、大きく分けて以下のようなユーザ層に見られることを想定しています。

①熱心なサポ、フォロワー
サッカーに詳しい。湘南地域に住んでいることが多い。たまに遠方サポも。
②無関心層
湘南地域に住んでいるけれど、ベルマーレのファンではない。興味がない。サッカーに疎い。観戦経験に乏しい。
③Jリーグの他サポ
実はTwitterアカウントのフォロワーのうち、一定数を占める。J1⇔J2を行き来するチームのほうがより多くのチームのサポーターの目に触れるため、フォロワーが増えやすい構造だったりする(昇格チームが新シーズンでフォロワー爆増する理由はこれ)

上記のうち、②無関心層をフォロワーへ転化させ、未来のサポーターになってもらうことが最終目標だとすると、ソーシャルメディアの利活用はセールスでいう「リード」の獲得手段として、非常に有効です。これこそ、クリエイティブの目指すゴールの1つです。

twitterなどのソーシャルメディア運用に限った話ではなく、広報全般に言えることだが、サッカークラブにおける広報の「KGI」の1つは、観客動員数をどれだけ増やせるかである。twitterの場合、その「KPI」としてフォロワー数が掲げられている。

フォロワー数が増えれば認知度が上がる。そうすると、観客動員数が増える。観客動員数が増えるということは、それだけチケットが売れる。結果、収益が増える。twitterのフォロワー数をKPIに据えるのは、こうした構図が存在するためだ。
営業収益から読み解く"株式会社湘南ベルマーレ" チーム強化に欠かせないお金の話

そのクリエイティブは「誰」に見られるか

重要なのは、適切な情報を・適切な方法適切なタイミングで伝達できるかどうか。「熱心なサポーター」と「無関心層」では、同じクリエイティブに対し、まったく異なる捉え方をします。それは、「適切な情報」が、情報の受け手の知識レベル、関心度合いによって大きく変わるためです。

「誰に見られるか」「誰に何を見せたいか」「その結果、期待する結果は何か」。これらを整理せず、まぜこぜにして発信しまうと、以下のようなクリエイティブが爆誕してしまいます。

①とりあえずクールだけど、まるで効果がないクリエイティブ
②熱心なサポにも無関心層にも響かない、どっちつかずのクリエイティブ
③無関心層も目に触れるのに、熱心なサポが見ることしか考慮していないクリエイティブ

最もありがちなのは、③熱心なサポのことしか考えていないパターン。近視眼的に、目の前にいる熱心なサポーターのことだけを考えていると、無関心層の興味を惹くことはできません。

新規サポを獲得するためには、熱心なサポーターだけでなく、無関心層にも意味があるクリエイティブを作る必要があります。この両立をどう実現するべきか、この3年間ずっと模索し続けてきました。

ケーススタディ①:湘南ベルマーレ公式Twitter

例として、湘南側のゴールが決まったときの動画を紹介します。ベルマーレでは、こうした動画を自動生成して即投稿できるようになっています。

まず、熱心なサポーターに対しては、以下の狙いがあります。

・スタジアムに行けなかったユーザにも臨場感あるコンテンツを提供すること。スタジアムでゴールが決まったときの興奮を想起させたい。
・そのために動画生成→投稿の時間をなるべく短くする。鮮度が落ちると著しくリツイート数が減ってしまうため。そのために自動生成技術を採用していると言っても過言ではない。
「情報」を分かりやすく伝えること。ゴール速報の場合、最も伝えるべき情報はまず「誰が」得点したか、なので選手名を大きく表示。同様に、どうスコアが動いたのかも重要なので、同じくらい目立つようにプライオリティを設計。次点で背番号、ゴールの決まった時間、といった順序。
・動画は、再生時に大きく劣化してしまう。特にサポーターはスタジアム周辺で動画を見ることが多い。文字をなるべく大きくし、4G/3G下で閲覧しても支障がないように。動画の尺や内容もなるべく簡潔に。

すでにフォロワーの「①熱心なサポ」には、「早くて分かりやすい情報」「速やかに」提供することが重要です。それが拡散力(リツイート数)につながります。バイラル効果を生み出してくれる大事な要素です。

逆に、無関心層がこの動画を見たとき、具体的で細かい情報はまったく頭に残りません。そもそも興味がないし、サッカーに対する前提知識が不足しているためです。

そもそも サッカーやベルマーレの存在は知ってるけど興味がない。
そもそも その日に試合が開催されていることを知らない。
そもそも 梅崎司という選手を知らない。
そもそも 彼がFWであることを知らないし、FWというポジションが何を指すのかを知らない。

ただでさえ、ソーシャルメディアには魅力ある競合コンテンツが大量に流れており、こうした層に関心を持ってもらうことは至難の業。

そのため、あの手この手で興味を惹き付けるために工夫する必要があります。だから、細かい情報は最初から伝わらないものだと割り切り、「興味のアンテナに引っかかるポイントを作ること」に重点を置くのがポイント。

そうした背景から、先ほどのゴール動画ではこうした工夫を施しました。

とにかく選手の顔を大きく配置する。イケメンの選手が多いから、その利点を活用しないと勿体ない(笑)。それは半分冗談としても、選手の表情や雰囲気から、性格や人となりがうっすらにじむもの。事実、チームより「選手個人」に興味を持つことが応援のきっかけになるケースが身近でもたくさん観測できました。アイドルグループでいう「推し」から「グループ」を応援んしはじめるのと一緒。つまり、「人」にフォーカスすること。
なるべく細かい文字情報は排除する小さな文字を入れても読めない読まれない。この理由から、あえて「FW」のようなポジション表記を外しました(その代わり、ツイートの文言には書くように)。無関心層に「FW」「DF」なんて言っても伝わらないし、湘南はポジション登録表記がアテにならないといった事情もあります(普通にボランチがCBで出たりします)。
・必須の施策としてPNGではなくGIFかMP4にする。こうすることで、フィードに表示するときにトリミングされず、大きく表示される。どんな静止画でも、工夫すれば何でもGIFになる。
・ベルマーレの目指すコンセプトとの整合性、他クリエイティブとの整合性。背景画像には、今年のキャッチフレーズである「加速」をモチーフに採用し、グラデーションに。また、ポスターデザインにはがんがんドロップシャドウを適用しているので、それに倣いシャドウ効果をいくつか適用。あと今年のユニフォームは彩度が高く中性的なので、クリエイティブにもそのマナーを踏襲。
ゴールした事実を強調したデザインに。「へぇ、いまベルマーレ強いんだ」と思ってもらえることが大事。なんだかんだ強いときは関心持たれやすいし、実際観客も増える。

こんな具合で、Twitterのようになバイラル力の強いソーシャルメディアの場合、熱心なサポーターには分かりやすい情報を速やかに伝達しつつ、ファンでない層に見られた場合にも効果あるクリエイティブにすることが重要です。

ケーススタディ②:湘南ベルマーレ公式LINEアカウント

上では、バイラル効果の強いTwitterの例を紹介しました。一方で、バイラル効果のないLINEの事例を紹介します。

LINEの公式アカウントには、1万人以上のフォロワーがいます。彼らは基本的に熱心なサポーターで、Twitterと違いリツイートの仕組みがないため、無関心層にリーチすることは基本的にありません。

この場合、熱心なサポーターのことだけを考えて設計すればいいので、分かりやすく「情報」を伝えることにフォーカスしています。

・ファンなら理解できる選手ごとのキャッチフレーズを配置。これはファンだけが理解できる共通言語
・ポジション表記を掲載、背番号の表記を除外。これはTwitterと完全に逆。ファンならポジション表記(FW/MF/DF/GK)の意味がわかるし、また背番号よりも「誰が」出るかの情報がより重要な意味を持つと判断したため。
・Twitterと違い、画像が大きくてもトリミングされないので、高さがある画像を採用。
一覧性。とにかくわかりやすさを重要視して、情報が伝わることに重心を置いた。結果、リスト式のレイアウトに。
・アイコンを丸くしているのは少しでもLINEの世界観に近づけてクリエイティブの違和感をなくすため。レイアウトもLINEの友だちリストに近いものを採用。構想段階ではもっとLINEっぽいデザインにして、あたかも選手たちが友だちリストにいるように印象付けたかったのですが、今のデザインに。

未来のサポーターを獲得するために、クリエイティブをどう活かすか

湘南をはじめ、Jリーグ全体で若い新規ファンを獲得しなければ、日本サッカーに未来はありません。そのためには、無関心層にリーチできるソーシャルメディアの利活用が重要です。将来、サポーターになってくれる若い無関心層をいかに惹き付けるか。これこそが、画像や動画といったクリエイティブの大きな役割なのだと思います。

そのためには、「誰向け」の「何を目的とした」クリエイティブなのか、整理して設計する必要があります。一番やってはいけないのは、ユーザのセグメントや目的を整理しないまま、「とりあえずクールなクリエイティブを作ろう!」となること。これでは何も効果が得られません。整理した結果、先ほどのLINEの事例のように、熱心なサポーターのみにリーチする前提で設計するのも大アリです(その場合は、目的に沿って割り切ったクリエイティブを作ればいいので)。

この記事が、少しでもJリーグの未来に役立てば嬉しいです🙏⚽

余談:ソーシャルメディアはJリーガーの目にも触れる

Jリーガーもソーシャルメディアの1ユーザであり、公式アカウントをフォローしてくれている以上、確実に投稿を見ます。これ、地味に大事なこと。

これはかつてJリーグでプレーした元選手の証言だが、社会人の「就活」と同様、チームの「ブランド」を意識してチーム選びをするらしい。つまり、チーム選びの基準は決して給料だけではなく、チームのブランドや「入社」後の自分を想像して、総合的に所属先を決める。
営業収益から読み解く"株式会社湘南ベルマーレ" チーム強化に欠かせないお金の話

ソーシャルメディアの発信方法1つで、少しでも魅力あるチームと演出できるかもしれない。選手のモチベーションが少しでも上がれば、試合に好影響を与えるかもしれない。そう考えると、「たかがSNSだから」と無碍にすることはとてもできません

だから、ベルマーレのクリエイティブを設計するとき、「選手たちが喜んでくれて、なおかつ他チームに羨ましがられるものにしよう」と考えながら制作活動に臨んでいます。

3年前、初めてSNS提案をしたとき、ベルマーレ広報の猪狩さんに伝えたことを今も覚えています。「Jリーグのレベルはプレミアやリーガに到底及ばないかもしれない。でも、Webやソーシャルメディアの分野だけなら、頑張ればワールドクラスになれるかもしれない。そこにロマンがあると思いません?」。まだまだ実現できていませんが、今もその想いは変わりません。

ベルマーレは本当に魅力あるチーム。その魅力を存分に伝えられるよう、引き続きサポート頑張ります。

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細野雄紀

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細野雄紀

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