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米国の公的保険制度~Medicare、Medicaidとは?~


1. 米国の公的保険制度

日本と米国の保険制度の最大の違いは、国民皆保険制度の有無にあると思います。米国では、国民皆保険制度は採用されておらず、勤務先から民間の保険に加入している人が多いため、日本人にとって米国の公的保険制度はあまりイメージのつかないものかもしれません。しかし、2021年の統計によれば、米国民の35.7%は何らかの公的保険に加入しています[1]。すなわち、国民の3分の1以上が公的保険に加入しているということになり、公的保険制度に関する法規制は、ヘルスケア業界に大きなインパクトをもたらします。

例えば、公的保険制度に対する不正行為はFalse Claims Act(不正請求防止法)等の法律で取り締まられています。これは日本の企業にとっても無視できない法律であり、2021年には某大手日系製薬企業が司法省との間で1億ドルの和解をしたという事案もありました[2]。False Claims Actについては「Healthcare Fraud and Abuse Laws①~総論、各論(False Claims Act)~」で整理しております。

なお、公的保険と民間保険を併用する例もあり、上記統計によれば、民間保険に加入している割合は66.0%とされています。また、8.3%(2720万人)は無保険とされていますが、無保険の割合は低下傾向にあります。(いわゆるオバマケアで無保険者が減少したことと、その一方で解消されていない問題があることついては、別途整理したいと思います。)

公的保険制度の中でも比較的大きな割合を占めるのがMedicare(メディケア)Medicaid(メディケイド)で、それぞれ米国民の18.4%、18.9%が加入しています。そこで本投稿では、これら2つの保険制度の概要を紹介します[3]。

※本noteの目的から詳細な解説には踏み込まず、次回以降の投稿で米国におけるヘルスケア業界の法規制を紹介していくにあたり必要となる程度の内容に留めますのでご了承ください。

2. Medicare

保険者は連邦政府、主な被保険者は65歳以上の高齢者です。また、65歳未満で障害を有する人等も加入対象となっています。Centers for Medicare & Medicaid Services(CMS)によって運営されており、下記4つのプログラムが含まれます。

Part A

入院治療等に関する費用がカバーされます。一定の要件を満たす場合自動加入となります。多くの場合、Part Aに対する毎月の保険料の支払いは不要です(就労期間中にMedicare税を支払っているため。)。

Part B

Part Aではカバーされない外来診療等のサービスをカバーするものです。Part A同様に要件を満たす場合には自動加入となります。Part Aと異なり、毎月保険料を支払う必要があります(2024年の標準的な保険料は月174.70ドルです。[4])。Part AとPart BがMedicareの基本的なサービス内容で、これらを合わせてOriginal Medicareといいます。

Part C

Medicare Advantage Planと呼ばれる保険です。Original Medicareの代替プランであり、Medicareの承認を得た民間保険会社により提供され、Part AとPart Bの内容に加えて、プランによりますが、後述のPart Dや歯科診療、眼科診療(米国では歯科と眼科は一般の医療とは別のサービスと考えられており、通常別々の保険に加入することとなります。)といったサービスが含まれることもあります。保険料はプランにより異なります。

Part D

処方薬の費用がカバーされます。Medicare加入者であれば誰でも追加できるオプションという位置づけです。Part C同様にMedicareの承認を得た民間保険会社により提供されています
2022年に成立したInflation Reduction Act(IRA、インフレ抑制法)がCMSに対し、支出高の大きい医薬品の薬価交渉を権限付けていますが、最初に交渉の対象となっているのがこのPart Dによってカバーされている医薬品の一部です。IRAの中身については「Inflation Reduction Act(インフレ抑制法)①~薬価交渉プログラム~」を参照ください。

3. Medicaid

保険者は各州政府、被保険者は一定の基準以下の低所得者です。制度の大枠は連邦政府によって決められており、一定の補助金が連邦政府から支出されています。ただし、プログラムの詳細は州が決めるものとされており、所得の基準も州によって異なります

例えば、Gender-affirming care(性別適合手術やホルモン療法等)がMedicaidでカバーされるかは州によって対応が分かれており、米国におけるLGBTQ問題の論点の1つとなっています。


[1] 米国国勢調査局「Health Insurance Coverage in the United States: 2021」(https://www.census.gov/library/publications/2022/demo/p60-278.html

[2] 司法省(https://www.justice.gov/opa/pr/two-pharmaceutical-companies-agree-pay-total-nearly-125-million-resolve-allegations-they-paid

[3] 主に保健福祉省(HHS)のウェブサイトを参照しています。(https://www.hhs.gov/answers/medicare-and-medicaid/index.html

[4] CMS(https://www.cms.gov/newsroom/fact-sheets/2024-medicare-parts-b-premiums-and-deductibles

(写真:ワシントンモニュメントから見た連邦議会)

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