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マイライフ   俺を見つける旅

俺の名前は拓次郎ウィリアム。今年28になる。
母親が日本人、父親がオーストラリア人だ。
母親の父親、拓次からとった名前らしい。
周りからはTAKUと呼ばれている。
俺の夢は売れる小説家になること。
幸い俺は14歳まで日本で生まれ育ち、日本語は完璧。
英語もインターナショナルスクールに通っていたおかげで、ペラペラだ。
つまり俺は世界的に小説家として成功できる可能性を秘めているってことさ。
俺は二カ国を行ったり来たりしていたせいか、一つのところに留まることが苦手だ。
俺の舞台は世界だから、どんどん新しい場所へ旅立っていき、場所を選ばす収入を得ることが目標だ。
そのためにはまず、俺の作品が売れなきゃどうしようもない。
今までもいくつか作品を完成させてきた。
しかしどれも鳴かず飛ばずで、収入には繋がっていなかった。
今、書き上げようとしている作品は「勇者、ここに死す」
かっこいいタイトルだろう?
俺の自叙伝を織り交ぜた、ハードボイルドなアドベンチャー作品にしようと思っているんだ。
読者をハラハラ、わくわくさせるストーリーを狙っている。
もしかしたら映画化もされるかもしれない。
考えただけで、俺自身がわくわくしてくるぜ。
しかしある日、俺はマイナス評価の読者のレビューを見つけてしまった。
そこに書かれていたのは一文だけ

「作者の作品は薄っぺらい。愛を感じない」

だった。
今まで出した作品は全て冒険もの。どこに愛が必要だっていうんだ。
俺は苛立ちを感じながら、その評価に対してマイナスのお返しをつけた。
子供じみた反抗だと思ったが、そうしないと気が済まなかった。
俺の何がわかるっていうんだ!
しかし同時に自分自身のことを考え始めるようになった。
俺はまだ恋愛らしい恋愛もしていない。
誰かを心から愛したこともない。両親は俺が小さい頃に離婚して、両親の間をいったりきたりしていた。
家族という形態の愛を、俺は知らないかもしれない。
親はとても忙しく、離婚後はそれぞれが新しいパートナーを見つけていて、俺のことは育ててはくれたけれど新しいパートナーとの時間をより大切にしているように感じた。
愛ってなんだ。そもそも小説を書くのに愛なんて必要なのか。
センスとテクニックがあればいいだろう?そこに、抜群のマーケティングと販売力さえあれば売れるだろう?
俺は、会ったこともない顔さえしらないレビューを残した読者に憎しみさえ感じ始めていた。
悶々とした日々を送っていた。
次の作品に対してわくわくしていたあの日が遠い昔に感じる。
俺はもう売れる小説家になれないかもしれない。
もうやめてしまおうかとさえ思い始めていた。

そんな時、友達から一通のメールが来た。
ハロー!TAKU!元気にしていますか?
しばらく会っていませんが、相変わらずでしょうね。
じつは私、ボランティア団体に所属していて毎日てんてこまいです。
TAKUは定職についていないよね?私のボランティアを手伝ってくれないかなぁ。あなたにはこういう時間、すごく必要だと思うの。
良い返事待ってます!

俺はざっと読んで、何が相変わらずだよ・・と呟いた。
定職についてないだって?俺は小説家だぞ!・・売れてないけどな。
こいつはいつも俺に遠慮なくズバズバ物を言ってくる。
ボランティアなんてしているのか・・ボランティアなんて、金にもならないことを・・。
メールには地図が添付されていた。
四国のとある街にマークが印されていた。
こんなところで何のボランティアをしているんだろう。
もしかしたら小説のネタになるかもしれない。
嫌ならすぐに帰ればいいんだから、どうせここにいても小説は進まないし、行ってみるか。
とにかく今この状況から脱すること意外、俺は先に進めない。
俺はメールの返事もしないうちに、荷造りを始めた。

2030年を境に、日本は貧富の差が激しくなり、貧困に苦しむ人々はどんどん田舎に追いやられていた。自給自足で暮らし始める人が増え、田舎にコミュニティが増えていった。
都会では犯罪が増え、政府はコントロールを失っていた。
移民が日本の人口の三分の一に増えたことも大きな理由だった。
経済的に困窮していても十分な援助は受けることができない。
実は、俺も同じだ。
親の遺産を食い潰す日々。
俺はいつも大きな口を叩いているが、実のところ自分への自信はあまりなかった。
だからこそ、あのたった一つのマイナスのレビューが、俺を奈落の底へつき落としたのだ。

友達の名前はユウコ。彼女は俺の小学生時代からの友人だ。
ユウコは高校を出てからスピリチュアルに傾倒し、アメリカやオーストラリアで暮らしていた。
いつも、宇宙だのなんだの突拍子もないことをいうから、ある時から俺はユウコと距離を置くようになった。
今回会うのは5年ぶりだ。
新幹線にのり、ローカル線に乗り換え、1時間に一本のバスを捕まえ、降りたところは山間の街だった。
今の季節は涼しい風が気持ちいいが、冬は雪がつもり寒いだろう。
スマホのナビゲーションどおりに歩いて行くと、目の前に自転車に乗ったユウコが現れた。
「ハロー!なんだ、全然変わってないね。いい意味でも悪い意味でも!」
ユウコが言った。
「お前って本当に遠慮がないよね。友達いないだろ。
5年ぶりにあった友人とのお互いのあいさつがこれかよ・・。」
俺は呆れた。もちろん自分自身にも。
「お前がボランティアってどうしちゃったの?何のボランティアしてるの?」
ユウコは自転車をひきながら言う。
「野菜を育てているの。あとは陶器を作って売ったり、編み物を売ったり、それを教えたり。色々しているよ。」
金になるの?
俺が聞くと、ユウコは天をみあげて大爆笑した。
「それじゃボランティアじゃないじゃない!売ったものはお金になるけど、それは野菜の肥料や土地の税金とかに使ってる。
野菜は全部、無償でわけているんだよ。
私たち、息して生きてるだけでお金が必要でしょう?
お金があれば衣食住は困らない。でも、お金がない人、足りない人って、食べるものさえ買えないんだよ。そういう人たちに無償で野菜を配っているの。
でもね、野菜を育てるのって本当に大変。
ほったらかしにできない。畑を耕したり、肥料をやったり、私は愛情も込めてお世話している。
私たちが最低限生きるために必要なものを、この大地を使って収穫しているわけ。
だからね。毎日、感謝、感謝よ。
そうそう、私、あんたのこと夢に見たのよ!
それで連絡したわけ。」

砂利道を音を立てながら歩く俺たちに背後から強い風が吹いた。
ーーー俺を夢で見ただって?俺のこと好きなんじゃないか?ーーー
突然、ユウコが俺の背中を叩いた。
「私、あんたのこと、嫌いじゃないけど恋愛感情はないから!本当に、自意識過剰なところは健在ねぇ。」
俺は、足を止めて慌てて言った。
「はぁ??そんなこと一言もいってないだろ!!」
なんだ、こいつは。心が読めるのか・・久しぶりに心臓の鼓動が早まるのを感じて俺はものすごく焦っていた。
ユウコはもしかしたら、ものすごい力をつけたのかもしれない・・・。

俺の、金にならないボランティア生活が始まった。
1週間で大体のことは覚えた。思っていたより、きつかった。
ファームが広くて、収穫する野菜も多かった。
農作業だけでなく、近くにある孤児院の子供たちの世話までさせられた。
一日があっという間に終わる日々が続いた。
ある日の夜、満点の星空の下、俺は芝生にゴザを敷いて寝転んで考え事をしていた。
俺はどうしてボランティアに来ようと決めたんだっけ・・。
あぁそうだ、俺には愛がない人間だから、だ。
愛を知るためにボランティアに参加したんだ。
なんで愛を知らなきゃいけないんだ?
あぁ、レビューだ。あのレビューのせいだ。

俺の小説には愛が足りないと書かれたんだ。
だから俺は短絡的に、人のために何かをすれば愛を知ることができるかもしれないと思ったんだ。
人のために何かするのって思いやりだろう?思いやりって愛じゃないのか?
金が絡まない行動は純粋に愛なんじゃないのか?
俺の思考は止まることがなかった。

しかしこれだけは確実に言える。俺は、まだ、愛を知らない。

人からありがとうと言われて嬉しいし、こんなに人と時間を共有したのは初めてのことかもしれない。
けれど、自分が今やっていることは、本当にやりたいこととは大きくかけ離れている。このままでは、小説を書く気にもなれない。
俺はやっぱりここにいるべきじゃない!
瞑っていた目を開けると、目の前にユウコの顔があった。
「わぁああああああ!」
驚いて、大声で叫んだ。
ユウコは笑いながら、俺の横にきて寝っ転がった。
「ごめん、ごめん。ねぇ、ものすごい眉間に皺寄ってたよ。」
俺は、ユウコの言葉を遮るように言った。
「俺、やっぱ帰るわ。俺の探してるもの、ここでは見つけられない気がする。」
ユウコは5分ほど黙っていたが、静かに口を開いた。
「帰ってもいいけど、、TAKUが探しているものってどこかに行かないと見つからないものなの?だからずっとあんたは冒険しているの?」
俺は黙っていた。
俺がずっと世界中を旅しているのは、愛を探していることだっていうのか。
心の中がざわざわしている。そんな馬鹿な。俺はただの冒険好きだ。
ユウコは続けた。
「TAKUが探しているものって、ずっとずっと昔から変わらないよね。」
俺は、横にいるユウコを見て言った。
「俺の探しているものがなにか知ってるの?」
ユウコはにこりと微笑んだ。
「TAKUは、それをずっと欲しかったけど、自分には与えられてないと思ってきたよね。
自分を強く見せるためにいつも大きなことを言って、自分を鎧で固めていた。
でも、ここではそんな必要はないんだよ。
あんたの探しているものは、誰かがくれるわけでもないし、どこかにいかないと手に入らないものでもない。
お金で買えるものでもないし、不足するものでも、なくなるものでもない。
TAKUがずっと探してるものは、あんたの心にあるんだもん。あんた自身なんだもん。そしてここに存在する命、全てなんだよ。」

いつの間にか俺の目は涙でいっぱいになっていた。少しでも動くと涙が流れてしまいそうで、まばたきを我慢したが、無理だった。

俺自身が愛。
そんな風に考えたこともなかった。
俺は、愛を知らない、愛を知ることもできない、愛されることもなかった人間だとずっと思ってきたから。
むしろ、愛について考えたことなんてなかったと思っていたのに、ユウコは俺がずっと小さい頃からそれを探していたと言った。

次の瞬間、自分の体の中から一瞬ふわっと浮き上がった気がした。
びっくりして、思わず周りを見渡すと、ユウコが言った。
次元上昇だねー!
なんだそれは。その感覚はほんの一瞬で、今は前よりも頭が冴えている気がする。
目がより大きく見開かれ、体の重さを感じている。
ユウコはにやっと笑うと、
「TAKUはそのまんまで愛なんだよ。この瞬間、ただ愛のもとに存在しているんだよ。」
そう言った。

翌朝、俺は歯を磨きながら昨日のことをぼんやり考えていた。
野菜を配る施設に向かうと、子供たちが遠くから俺の名前を呼んで走ってくるのがみえた。
子供たちがわれ先にと俺の手を掴んでくる。
「TAKU、今日は何をしよう!」
「TAKU、今日の朝は何を食べたの?」
子供たちから質問責めを受けながら、今まで感じたことがない愛おしい感情が胸の奥からこみあげてきた。
子供たちの無邪気な表情をみていたら、自分の子供の頃に、ただひたすらに両親の笑顔がみたくておどけてみたり、笑ってみたりしていた自分を思い出した。
施設につくと、野菜の配給を待つ人の長い列ができていた。
俺の姿を見るとみな一様に手を合わせて、頭を下げてくる。
俺も同じように手を合わせ頭を下げると、また今までにない感情が湧いてくるのを感じた。
今、ここにいる自分は、偶然じゃない。
そんな気がした。
自分の中から、溢れてやまない愛の波動みたいなものを感じている。
その波動は自分自身にも注がれている気がした。
俺は、結局帰ることなくボランティアを続けた。
そして、自らの自叙伝を書き始めることにした。
ありのままの自分を書くことはとても勇気がいることだったが、辛い思いをした自分にも愛おしい気持ちが湧いていた。
そして、俺だけでなく、俺の両親もその時点でできるベストを尽くしていたのだと思えるようになった。
俺の自叙伝は以前のタイトル「勇者、ここに死す」から、「勇者、ここに生きる」
に変わった。
俺が愛を知ってから生きることを選択した時、俺の今までの価値観はがらりと変わった。

自分自身を愛すること、それは他者を愛することでもあるのだと知ったからだ。
俺の仕上げた小説はベストセラーになり、俺は最初の収益を全てボランティア団体に寄付した。
そして俺自身は今、また世界中を旅して回っている。
今まではずっと孤独に旅をしていたのに、今の俺にはいつも周りに人が溢れ、素晴らしい出会いに恵まれている。
ある時、チベットの霊能者のもとで宿を借りた時があったのだが、その人からは
「君はすごくいいバイブレーションを持っているね。愛のバイブレーションだ。
だからみんな君のそばにいると安らかで楽しい気持ちになるだろう。」
そう言われた。
俺にはバイブレーションのことはよくわからないが、とにかく旅が楽しくて仕方がない。
俺の今までの人生は、荒んで、エゴイスティックで、刹那的で、プライドだけ高くて、人に絶対負けたくない、そんなものだった。
ユウコから誘われたボランティアの活動を通して、ここまで自分の人生が変わるとは思ってもいなかった。
人生ってなんて面白いんだろう。
ユウコは俺に、愛は決してなくならない、と言った。
だから俺の人生は、自分にも他人にも、全ての物に愛の視点で関わっていこうと思う。

愛だったらどうする?
これが俺の秘密の言葉だ。


おしまいおしまい

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お読みくださりありがとうございます。
ノベルセラピーで即興で作ったミニストーリーに肉付けしたものです。
誰でも簡単に物語を作ることができるノベルセラピー。
ぜひ作ってみませんか?
セラピーと名付けられた通り、ご自身の内面(健在、潜在意識からくるストーリー)からのメッセージ、気づきがあるエネルギーワークの一種です。

ZOOMにて、個人、グループのお申し込みができます。


いただいたサポートはオーストラリアの野生動物、コアラの保護に使わせていただきNoteにてご報告させていただきます。