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僕にだってできるんだ!しずくの大冒険

一面の野原にぽつんと大木がそびえたっています。
その大木は遠くから見てもイキイキと輝いているように見えてます。
四季を問わずにきれいな緑の葉が大木に覆い茂り、その緑を求めてたくさん
の昆虫や動物がやってきました。
そんな大木の葉の先に、朝露のしずくは生まれました。
小さな小さなしずくは、朝の光に照らされて宝石のように輝いています。
しずくが一番初めてみた光景は、遠くに見える小川に集まる動物たちの姿で
した。
「あの小川に行ってみたいなぁ」
しずくはいつしかそんな願いを持つようになりました。
毎朝、太陽の光に照らされてキラキラ輝く朝露のしずくは昆虫たちに大人気
でした。
「やあ!しずく!おはよう。今日もきれいだね。その美しさはまるで水晶の
ようだよ。」
毎朝必ず、素敵なほめ言葉をくれるビートルのサムは、しずくの一番のお友達
でした。
サムはいつも「素敵なこと」を見つけるのが日課で、それを言葉にすること
が得意でした。
しずくはサムから、この世界の素敵なことを聞かせてもらうのが大好きでし
た。

「この世界は素敵なことでいっぱいだ!あぁ・・ぼくもたくさんの素敵に
出会いたいなあ!」
でも、しずくはわかっていました。
しずくは冒険するには、あまりにも小さくて儚くて、自由に移動もできない
存在だということを。
サムはしずくの夢を聞いた時、笑いこそしなかったものの「難しいだろう
ね」と一言だけ言いました。
「ぼくの冒険はサムにとっての素敵なことじゃないんだ・・。」
しずくはそう心の中で思い、がっかりしました。
それから、キャタピラーのマックスにも自分の夢について話したことがあり
ますが、マックスも一言「それはおすすめしないね!」そう言うだけでし
た。


そんなある日のこと、おしゃべりで有名なカラスがやってきました。
普段はしずくに目もくれないカラスでしたが、その日はしずくの側にやってき
てこう言いました。
「朝露くん、きみさぁ、海って知ってる?」
「うみ?聞いたことないや。」
「なぁんだ。やっぱり知らないのか。俺は、海まで行ってきたばかりなんだ
ぜ。そりゃあもうすごい迫力だったよ。」
「うみってなぁに?」
「海っていうのは、おまえさんの親戚みたいなもんだ。しょっぱいんだ
よ。」
しずくは説明されてもちんぷんかんぷんです。
「カラスさんは、遠くまで行けていいな。ぼくの夢は、あの先に見える小川
に行くことなんだ。」
しずくは言いました。
するとカラスはヒューっと口笛を吹きました。

「へー!そんな夢を持ってる朝露にははじめて会ったよ。じゃあ俺が連れて
いってやるよ。」
朝露はびっくりしました。
こんな急に自分の夢が叶うなんて思ってもみなかったからです。
でも、同時にサムやマックスのことが頭をよぎります。
「いくのか、いかないのか、どっちなんだ。いくならさっさと俺の羽の上に
のってくれよ。」
カラスが少しイライラしているように感じて、しずくは慌てて羽の上に飛び乗
りました。
カラスはしずくを乗せた羽を大きく広げて空を旋回しました。
「ところでおまえさんは小川に行って何をするつもりだ?」
カラスが聞きました。
「僕はただ行ってみたいと思っただけなんだ。冒険したかっただけなんだ。
素敵なことがいっぱい待ってる気がするから・・。」
しずくが答えるとカラスは笑いました。
「ばかだなぁ。わざわざ大変なことを選ぶなんて!」
しずくはカラスが笑い止まないので、少し気分が悪くなりました。
カラスは体をよじって笑い始めました。
その瞬間、しずくはカラスの羽から落ちてしまいました。
「あああ!」
しずくは一輪のピンクの花の上に落ちました。
ピンクの花は「きゃ!」と小さく悲鳴をあげました。
しずくは申し訳なさそうに震えると
「ぼく、カラスの羽から落ちちゃったんだ・・・。」
と呟きました。
花は「まぁ、かわいそうに」とだけ言って、あとは甘い匂いを漂わせていま
す。
しずくは何も言わなくなった花の上にいることが居心地悪くて、泣きそうに
なりました。
すると花は「すきなだけここにいるといいわ!」とそっけなく言いました。
花は自分がどれほど魅力的であるかを、しずくに説明を始めました。
通りすぎるほとんどの人は私を見ていくのよ。
きれいな花だと言ってくれるの。
犬でさえ私の良い香りに足を止めるのよ。
毎日、散歩で通るおんなの子が、私の一番のお気に入りなの。
おんなの子はいつも私に話しかけてくれる。
私はいつもみんなを幸せな気持ちにさせているのよ。
しずくは花の話を聞きながら、通り過ぎる人が自分の存在にも気づいてれる
かなぁ、、と考えていました。
翌日、おんなの子がお母さんと一緒にやってきました。
そして花をみるなり
「おかあさん!みてみて!!ここにフェアリードロップがいるよ!」
と叫びました。
おかあさんも花を覗き込んで
「まぁ、ほんと。フェアリードロップがいるわね」と笑いました。
フェアリードロップってなんだろう。しずくは考えましたが全くわかりませ
ん。
その瞬間、おんなの子は大切そうにしずくをてのひらに乗せると、
「ほら!こんなにきれいなフェアリードロップ!」と言ってくるくる回り始
めました。

フェアリードロップってぼくのことだったのか!
しずくはまたびっくりしました。
そしてその瞬間、おんなの子のことが大好きになりました。
おんなの子の暖かくて小さな手のひらの上は、とても心地よくて、しずくは
心がやすらぎました。
フェアリードロップってなんだか知らないけど、こんなに嬉しい気持ちに
なったのは初めてかもしれない。
おんなの子は小さくて可愛い両方の手のひらを上手に重ねて、しずくを落と
さないように歩きました。
ぼく、ずっとここにいたいなぁ・・しずくはうっとりしていました。
うとうとし始めたしずくでしたが、気がつくと冷たい水槽の中にぽちゃんと
落とされました。
おんなの子が水槽を覗き込んでいます。
「わたしの大好きなグッピーたちに、フェアリードロップをプレゼントする
ね!」そう言いました。
しずくが周りを見渡すと、二十匹くらいのグッピーの群れが上からしずくを見
つめていました。
一匹がすうっとしずくの前に泳いできて言いました。
「きみが噂のフェアリードロップか。」
しずくは答えました。
「ぼくは野原にある大木の葉の上で生まれた朝露だよ。」
グッピーが聞き返します。
「朝露ってなんだい。」
しずくは返答に困りました。
ぼくってなんだろう。ぼくは朝露だってことは知っているけど、ぼくはいっったいなんなんだろう。
考えても考えてもわかりません。

「ぼくは、冒険者だよ!」
おしゃべりカラスの言葉を借りて言いました。
カラスはしずくに向かって「おまえさんは冒険者だなぁ。そんな小さいの
に!」と、言った言葉がずっと心に残っていたのです。
「ふうん・・冒険って何をすることなんだい?」
「冒険は・・行きたいところに行くこと。ぼくが一番行ってみたい小川に向
かっていくことなんだ」
「へぇ・・。どうやって?」
「どうやってって・・・」
しずくは言葉に詰まりました。
カラスの背中に乗ったままでいれば、今頃あこがれの小川についていたかも
しれないのに、どうして僕はここにいるんだろう。
ここからどうやって小川にいけばいいんだろう。
しずくが黙っていると、尾ひれが大変美しい別のグッピーがやってきました。
「ここから小川にでるには、下水道を通っていくしか方法はないんだよ。で
もそれはすごく危険で辛いことなんだ。それでもそれしか方法がない。」
しずくは、それを聞いてすぐに「ぼくは下水道を通るよ!」と言いました。
そのグッピーはお父さんグッピーでした。
お父さんグッピーはむかしむかし、ペットショップから下水にあやまって流
されて小川に辿り着き、この家のおんなの子に拾われたのだと言いました。
「この水槽の水を換える時に下水に向かって流れていくんだよ。」
グッピーのお父さんは言いました。
1日グッピー家族と過ごしたしずくは、お父さんからたくさんお話をききまし
た。それはしずくには聞いたこともないような凄い話ばかりでした。

翌日、おんなの子のお母さんが水槽のお手入れをする時、しずくはするりと
下水に向かって流れました。
真っ暗で何もみえないところを長い時間流されました。
怖くて、不安で、このまま出られなかったらどうしよう・・しずくの心は震
えていました。
このまま淀んだ水の中で、ふわりふわり浮いていたら楽だろうな・・そんな
気持ちにもなりました。
ネズミがしずくの側に来ては、外は怖いところだからずっとここにいればい
いと囁きました。
「きみは絶対に小川には行けない。なぜならあそこに辿り着くまでに、もっ
ともっと危険な場所があるからね。それに比べたらここはまだマシなほう
さ。きみはずっとここにいればいいんだよ。それがいい。」
何度も何度もネズミが囁くので、しずくは根負けして一度は
「ネズミの言う通りだ」と答えました。
ぼくは小さな朝露。
キラキラ輝いていたぼくはもういない。
ぼくは小さな朝露。
夢も希望もない、価値のない存在。
しずくの心にはそんなメッセージがどこからともなく聞こえてくるのでし
た。
そのメッセージは誰からのものでもなく、しずく自身から発せられるもので
した。
しずくは真っ暗闇の淀んだ水の中で、考えることさえできなくなっていきました。
数日が経過したころ、遠くのほうに一筋の光が放たれるのが見えました。

下水の工事をするために開けられたマンホールの蓋から漏れた太陽の眩しく
て暖かい光でした。
下水道の中が一瞬ふわっと明るくなって、ネズミたちが一気に逃げ出しまし
た。
しずくは久しぶりに見る暖かな光の筋を見て、はっと我に帰りました。
ぼくは朝露だ。
朝の光を浴びてキラキラと輝く朝露なんだ!
ここにいてはいけない。
僕は太陽の下にいたいんだ!
大木の葉の上で祝福を受けて生まれた朝露のしずく。
小鳥や昆虫、大木の大きな愛に守られて、キラキラと輝いていたしずく。
しずくは自分が今までいかに守られていたのか、愛されていたのかを思い出
しました。
「ぼくは絶対に小川に行くんだ!」
そう心に決めると、緩やかな流れに乗って先へと進んで行きました。
その夜、街に雨が降りました。
その雨で下水も水量が増して、しずくはその流れに押されてどんどん先に進み
ました。
途中で大きな施設に流され、しずくはたくさんの機械の中をすり抜けまし
た。
本当に辛くて、大変な冒険でした。
でも、しずくは後悔はしていませんでした。

むしろ、次から次へと起こる新しい出来事に立ち向かう勇気さえ芽生えてい
ました。
しずくは大きな大きな川へと流れ出ました。
その頃になると、しずくはもう目的地のことは忘れていました。
それよりも、しずくは今まで自分が見てきたこと、経験してきたことから自
分には何ができるんだろうと考えるようになりました。
人間が汚した下水、汚染された川、ゴミが氾濫する街。
地球が汚されていることに、憂いていました。
なにかぼくにも地球が美しくあるために、できることはないかなぁ・・その
ことばかり考えるようになっていました。
ぼくは小さな朝露。
だけど、こんな凄い大冒険をしてきた。
ぼくは小さな朝露。
もしあのままあの大木にいたら、僕はただ太陽の光でキラキラしているだけ
の存在だった。
ぼくの体は小さいけれど、ぼくの思いはぼくの大きさをはるかに超えてい
る。
ぼくは、ぼくの人生の冒険者だ。
ぼくにだって冒険できたんだ。
だから、ぼくにだって地球のためにできることがあるはずだ。
しずくは自分のことを誇らしく思いました。


おしまい おしまい。

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お読みくださりありがとうございます。
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