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【 #ヒトシネマ 】 いつまでも同じ話はできない(し、そもそもしない)

「カメラを止めるな!」
2018年の日本映画界を盛大に揺るがした衝撃作であり、2層構造をフルに活かしたコメディホラーであり、上田慎一郎監督の名を世に刻みつけた傑作である。その上田監督が脚本を担当し、「カメ止め」スタッフと共に監督三人体制でぶち上げた『新たな挑戦』。今回はこの1作をレビューしていきます。

今回の作品:「イソップの思うツボ」
(令和元年・日 配給:アスミック・エース)

【おことわり】
ここからの内容は『ネタバレ』を多分に含みます。まだ見ていない方はすぐに見てからこの記事に戻ってきてください。




よろしいですね?それでは始めます。
(水槽が割れ砕ける音)

・序盤の「大学生活」について
個人的には「導火線を用意するパート」と「そこに火がつくパート」だと思って見てました。のでこのシーンにあまり冗長さは感じなかったというかむしろ「ここから亀田さんが何を仕掛けるのか」にちょっと期待しつつ見ていたというか。(まさか「その段階はとうに過ぎていた」とは思いませんでしたが)
あと「昼間の大学から帰ってきてもまだ日が高い」とか「お昼にしてはガッツリした昼食」にちょっと違和感がありました。……その違和感に気づいたことにまさか後悔するとは。

・復讐代行の戌井家パート
……いや小柚さんのサド加減ヤバくないすか。(そもそもやってはならない事だしお父さんの前でしていい笑顔でもない) ターゲットのおっさんをターゲット全中男にした挙句「(配慮)見えてなくない?」とは。そこからのスクラップブックの件といい自撮り動画といい落差が凄い。そして後半で大学生活パートと復讐代行パートがうっすら噛み合ってきた段階で(((亀田さんどう噛むの?)))となってきた。

・ホテルパート&犯行パート
我々は亀田美羽がどれほど取り返しのつかない人間か見誤っていた。まさかここまで「ぶっ飛んでいる」とは思わなかった。亀田の亀はミドリガメなどではなく、ケヅメリクガメとかカミツキガメとかそういう亀だったのだ。地味、おっちょこちょい、緩やかさからのハイテンションなのに男をオトす妖しさ。さらにだんだん真実が見えてきた辺りからの「振り切れた目付き」。…怖い。余りにも怖い。

・「生配信」パート
かなり衝撃的だったのは「闇金持ちの観客一同」。これって「この映画カメ止めみたいなやつなんでしょ?」とおもって見に来た人とか「カメ止めみたいな画、期待しているよ」という部外者の比喩なのではないか。そして近藤もまた「俺達の見たいもの見せてくれや」というちょっと強情な関係者の比喩かもしれない。
ならばソレに対するクライマックスの一連の流れはなんなのか。私見になるが『うるせぇ!俺達のやりたいようにやるんだよ!』という強烈な意思表示だと思う。クリエイターとしての意地を通し、「描きたいものを描く」という宣言だったのではないか。

・エンドロール後の映像について
「映画はここで終わりだけどこの家族の話はまだ続く」。それがあの映像の意図だと(勝手に)思っている。目標は果たした亀田家。家庭内修羅場どころか生き地獄が完成した兎草家。やらかしたけど思わぬ成果も得た戌井家。それでも明日からも人生は続く。家族も続く。生きていく。そういうことで合っている……だろうか。

いつまでも『カメ止め』の監督・スタッフと言わせる気は無い。常に「最新作が代表作」にする。覚悟していろ。そういうメッセージがひしひしと伝わる一本でした。まだまだ上映館数が少ない(特に東北・北海道は1道1県3館のみ)ので「イソツボ」、もうちょい広まってくれないかな……。

【まとめ】
主演:4.1/5.0(ポスターの顔を見てもいまいち信じ難いレベル)
伏線構造:3.4/5.0(もう一回転欲しいのはあるけどこの時点で既にだいぶ捻ってる)
ラスト:3.7/5.0(いらない映像かいる映像かで言えば「欲しかった映像」)

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