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【七転八倒エオルゼア】#2

※このシリーズについて

ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。また、各エピソードごとの時系列は前後する場合があります。

登場人物紹介

Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。

【(間違っても)住みたくない家】

「ところでトウカちゃん、流石にずっとここに住むってことは考えてないんでしょ?」
ある日のことであった。トウカとミミノがいつも通り、荷物の管理と次のマーケット出品に関する手続きを進めていた時のことである。
「そりゃあ……こっちに一つ拠点がほしいってのはありますけど」
トウカは三都、すなわちリムサ・ロミンサ、グリダニア、ウルダハのいずれの出身でもない。新天地を求めて船を乗り継ぎ、ここリムサにやってきた身だ。黒渦団の、暁の血盟の一員として活動を続ける中でいずれこのミズンマストの一室では手狭になるということも理解していた。

「トウカちゃんのご実家って農家よね?なら緑豊かなラベンダーベッド?それともこっちに近いミスト・ヴィレッジ?」
「ゴブレットビュートは勧めないんですね、ミミノさんウルダハ出身なのに」
「ゴブレットは温泉のプールとかも含めてかなりリゾートっぽいのがねー。トウカちゃんの性格的に合うかどうか迷って言わなかったってだけ」
ミミノの実家は何代も前からウルダハに店を構える商人一族である。跡継ぎを兄に任せ、親族の伝手を頼りに海都へ引っ越してきたのが数年前のことであった。
「うーん……」トウカの眉間にしわが寄り、もとからの強面がさらに厳つくなる。

「ただ、もし今選ばなきゃいけないとしたらですよ?ラベンダーベッドは一旦外すかなー、って」
「えーっ!あんな美しい大自然の中に家建てられるのに!?」
「そこは確かに持ち味なんですよ、ただちょっとこの前グリダニアで最悪のお宅訪問やっちゃって……」
「最悪の、お宅訪問?」
訝しげな声に反し、ミミノは興味津々といった顔つきである。

◆◆◆◆◆◆

ハウケタ御用邸。グリダニアの主たる幻術皇もかつては住んだという壮麗な邸宅は、今も人が住むという話であるにも関わらず人を寄せ付けぬ異様な威迫感を放っている。夜間の森の中という環境を差し引いても、ここをエネミーの住み着いた廃墟と説明した方が信じてもらえるだろう。

「それでは皆さん、よろしくお願いします」
正門から庭園に屯するエネミーを一層した後、トウカは同行のメンバーに一礼する。拠点捜索やダンジョン探索の場合、暁の血盟が冒険者を追加派遣し、トウカも含めた4人体制での攻略となる。
「あんまり気合い入れてもコケるからね〜、一回深呼吸しよっか」
暁の呪術士が返す。毎度派遣されるのは槍術士・幻術士・呪術士の3名だが、この呪術士は常に落ち着いている。
息を大きく吸って吐き、顔を軽く叩く。
「よっし……突入!」
「だから肩の力抜いて〜」

◆◆◆◆◆◆

「鍵、見つかりましたか?」
捜索開始から8分、後方の幻術士が問う。邸内は共通の小さな鍵に対応した鍵穴がいくつもあり、2階に続く階段に貼られた封印を破る手がかりを得るために鍵を探さねばならない。当然ながら邸内の構造は分からず、開けたと同時にエネミー大量出現などといった事態も予想される。
「いや、多分このフロアはもうない……あれァッ!?」
次の瞬間、奥へと一歩踏み出したはずのトウカの姿は忽然と消えていた。

「うぐっ、欠陥邸宅め……」
「地下室付きとは豪華だね〜」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
槍術士の指摘の直後、既に呪術士はケアルの詠唱を終えている。
「しかし、このひと部屋だけとは考えにくいですね」
幻術士の指摘が場の空気を締める。トウカにはできない魔法攻撃もさることながら、こうした調整力もまた学ぶべき点だ。
しかし、それ以上の問題がトウカには見えていた。暗がりが、動いている。
「それもなんだけど、まずこの部屋の掃除からにしませんか……!」
トウカは斧を引き抜き助走をつけて跳躍、勢いよく前方に得物を叩き込む。
「オーバー、パワーッ!!」
床を割り砕く衝撃を受け、暗がりの敵意が一斉に冒険者達を……襲う!

◆◆◆◆◆◆

捜索開始から12分。
ひとまず敵を蹴散らしたはいいものの、依然として鍵の位置は不明。その上メイドが変異したエネミーの靴音も複数聞こえる。
「さてっと、ここからどうする?手がかりも地図もなし、幸い鍵は落としてないけど」
流れで鍵当番となった槍術士が鍵を揺らす。
「……2番目に最悪の提案、していいですか?」
「文字通りの最悪は撤退、となると?」
水を向けてきた幻術士にトウカは泣く泣く返す。
「全部開けて、全部殴ります」
「迷いがないね〜」
「なさすぎるでしょ!でもまぁ、それが早いのは事実か」
槍術士も槍を構え直す。
「それじゃ気を取り直して、
「地下一階の探索を再開しましょう」
「幻術士さん!?」

◆◆◆◆◆◆

捜索開始から24分。
地下一階の部屋という部屋を開け、エネミーというエネミーを倒し、ついでに宝箱も開け、階段の封印も無事解除した一行の体力は、限界に近かった。
槍術士は槍を支えに息を整え、呪術士に至っては床に伸びる有様。
「休憩しながら聞いてほしいんですけど」
多少体力のあったトウカが口を開く。
「ここも鍵が要るって可能性、ありますよね」
「同感です。ただフロア自体はそんなに広くなさそうなので、トウカさんと私で見てきましょう」と幻術士。
「よっし、そうと決まればまずは、」
言うが早いか廊下を走り出したトウカの声は、
「こっちからあッ?!」下方向へと消えていった。
「あいつ今日2回目よ……」
「若いね〜」

◆◆◆◆◆◆

「で、その結果手に入ったのがこれね」
ミミノは手で御用邸のワックスが入った壺を弄んでいる。
「ひどい探索行でしたよ」
「トウカちゃんが2度ほど自滅したように聞こえたんだけど」
「床には穴空いてましたし、ちゃんと修理業者呼ぶべきですって」
「エネミーが巣食う家に行く業者もいないでしょ」
「手すりもなかったですし、いっそ木工師になって直すかな……」
「木工師になってやることがそれなのトウカちゃん?」
他愛のない会話とともに、海都の昼はゆっくりと過ぎていく……


【今回の元ネタ】


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