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【七転八倒エオルゼア】#8

このシリーズについて

ゲーム『ファイナルファンタジー14』における自機『Touka Watauchi』及びそのリテイナーキャラ『Mimino Mino』を主役とする不連続不定期短編企画です。ゲーム本編のメインクエストやサブクエスト、F.A.T.E.などの内容をもとにしたものが含まれます。また、各エピソードごとの時系列は前後する場合があります。なお、今回は前回のエピソードから地続きとなっていますが特に前回の物語を読んでいなくても差し障りはありません。

登場人物紹介

Touka Watauchi(綿打 灯火/トウカ):主人公。海を渡ってリムサにやってきたアウラ男性。リムサ渡航時点で20歳。ナナモ・ウル・ナモ女王陛下暗殺事件の冤罪を被せられたため、現在はイシュガルドにフォルタン伯爵の客人として滞在している。
Mimino Mino(ミミノ・ミノ/ミミノさん):Toukaが雇ったリテイナー。リムサにすっかり慣れたララフェル女性。年齢非公開。

【前回のあらすじ】

イシュガルドの旅籠「九つの雲」で再会を果たしたトウカとミミノ。ミミノの助けを得て、トウカはナナモ陛下暗殺事件以降のわだかまりを解消した。いっぽうのミミノには気がかりがあり……。

【槍術士の墓標】

「ところでトウカちゃん、あの槍はどうしたの?まさか……」
「まさか?」
「戦士やめちゃったの?!」
とミミノは斧に並べて立てかけられた槍を指した。ミミノの身長の4~5倍はあるだろう。
「戦士やめちゃったの?!」
「やめてません!ただ、槍術士の修行も続けてて、やっと免許皆伝になりました」
「あなた……変なほうにマジメよね」
「で、修行しながら考えてたんです」
「訂正するわ、あなた変なほうに生真面目よ」
「『勇気』ってなんだろうな……って」
「勇気……?」

◆◆◆◆◆◆

トウカがミミノとイシュガルドで再会する、その数日前。トウカの姿は北部森林のフォールゴウドにあった。いつもなら体力あらん限りに駆け回るトウカだったが、その日の足取りは……少し重かった。
目的はひとつ。弔い、である。
トウカの槍術士としての修行は、その実大半が1人の先輩槍術士との戦いの日々でもあった。先達の名をフールクといい、独り立ちした槍術士でありながらしきりに「真の勇気」を謳い、槍術士ギルドを軽蔑し、他のギルドメンバーやトウカに危険極まりない試練を押し付けた。黒衣森の生き物を徒に挑発しては危険な状況を生み出し、トウカにしてみれば意味のない死闘に巻き込んだことすらあった。

更なる戦闘技術の向上を求めて槍術士ギルド鬼哭隊詰所の門を叩いたトウカにとって、槍術士としての戦いの日々は一種奇妙ですらあった。誰かを守るための戦いでも、全容の見えぬ脅威を追う戦いでもない。眼前の脅威―それもフールクが引き起こしたものが大半である―を取り払い、それでいてあとに残るのは倒さざるを得なかった獣たちの亡骸。いかなる局面にも動じず、乱されずに立ち向かう勇気とともに、修行中のトウカにはある種の怒りも湧き上がりつつあった。

「遅かったですね……」

そんなトウカが槍術士として独り立ちするための最後の試練も、やはりフールクとの対峙であった。ギルドに仇なす危険人物の域を超え、もはや黒衣森そのものの治安を脅かしかねない狼藉者。本人の主張を聞いてもなお、彼のいう「真の勇気」にトウカの価値観とは噛み合わぬものがあった。
復讐という部分は、(フールク本人の行いが大元とはいえ)理解できない訳ではない。トウカ自身も時に激情を燃やすことはあるし、それらを糧として戦ったことがないとは言い切れぬ身ではあった。だが、それをどう転じたら下手に手を出す必要のない生物を煽り、自ら傷付け、それらの振る舞いを「真の勇気」などと称することができるだろうか。身の上を語り、異様な熱を伴いつつ己のスタンスを正当化するフールクを見るうちに、トウカ自身はかえって頭の中が醒めていくような感覚を覚えていった。

◆◆◆◆◆◆

「煮えたぎる怒りが勇気を鍛える?その為なら、なんだって許されるとでも言いたいのか」
ぎしり。トウカ自身も、槍を強く握りしめる腕の動きを自覚していた。
「はっきり言ってやる。あんたのそれは勇気じゃないし、鍛えられたものでもない。いらない犠牲で塗り固めた、強さとすら呼べない……ただの力だ!」
「貴様……言わせておけばッ!」
ぐいと伸びる初撃トゥルースラストから、薙ぐように繋ぎボーパルスラスト、よろめいた相手にもう一突きフルスラスト。かつてのトウカなら、その3連撃に感嘆したであろう。今は違う。己の弱さから、恐怖から逃げ、超えるべき壁からも責任からも逃げて、乱れた心のままに振った槍に、遅れをとる謂れなどない。
一手、また一手と打ち合う度に、トウカははっきりとフールクの穂先が見えるようになっていく。力任せの、ブレた、対手の見えていない穂先が、足運びが、魔物を呼び寄せる時の慢心と焦りが入り交じった目が。今ならば見える。
(これか……?)
一度フールクから焦点を外し、けしかけられた魔物達を始末していく。その間に入る横槍の軌道も、飛びかかる獣たちの動きも、見た上で対応できる。直感や反射ではなく、どう動くべきか考えた上で動かせる。
(これだ、これこそが……!)
それが、トウカなりの答えであった。動じず、乱されない勇気の先に、勢いだけに頼らない立ち回りが、見えた上で返す立ち回りがある。戦士のように傷を厭わぬ真っ向勝負ができないからこその、別解ともいうべき立ち回りである。

「何故だ!何故倒れないッ!」
怒りに呑まれ、もはや基本の型すら決まらないフールクに対し、トウカはかえって冷静になっていく。
「私の勇気こそが真の勇気!私の槍術こそが、勝つはずなのに!」
ガキン!トウカの一薙ぎが、フールクの槍を弾いたのはその時であった。
「そこだっ!」
フールクの左肩に吸い込まれるように、トウカの研ぎ澄まされた一突きが入る。
ここまで多くの経験を積んできたトウカでも経験したことがないほどに、全てが「見えた」戦いであった。
「ぐあっ……!」
フールクが咄嗟に槍を地面に刺し、なんとか立て直す。
「もう、いいだろ……!」
「くそっ、くそぉああ!」
最早槍術士の槍運びではない。乱雑な、力任せの突き、薙ぎ、払い。もはや大きく避ける必要もない。一手一手を柄で弾いて返す。
「このっ、この……!来るな、来るなぁぁ!」
腰が引けたまま穂先を向け、震えた声で叫ぶフールクの姿に、トウカは一種の憐れみすら感じた。
「これ以上やり合ってどうする!そんな姿で戦うことがあんたの「真の勇気」なのか!?」
「うるさいっ!黙れ、私こそが勝つんだ!私が、私が……」
「おい、待てフールク!」
トウカの視界からフールクが唐突に消えたのは、その時であった。崖を背にして足場を顧みることもなく下がり続けたが故の、必然の帰結。

ゴツッ。ガン。ドサッ。

プライドも、蛮勇も、やり直すチャンスも全て森が飲み込み、そこには一人の槍術士が残るのみ。
「こんな、こんな末路があるか……」
残された槍術士は、谷底へと消えた対手を悔やむかのように立ち尽くすのみであった。
勝利の達成感も、修行の手応えも、全て抜け落ちるような、闘いの幕切れである。

◆◆◆◆◆◆

そして現在。雇い主を着せ替え人形にするのも落ち着いたか、ミミノもイシュガルドティーとカロットプディングで一服している。
「で?そんな真似した先輩……先輩って呼ぶのもなんかしゃくだけど、わざわざ弔ったってこと?」
「最後を知ってるのは俺だけなので。槍術士ギルドの伝手を頼ろうにも、そもそもそのギルドに不義理やらかした人ですし」
「遺品もなかったんでしょ?」
「近くの石に名前と、『ここに眠る。安らかに』とだけ刻んでおきました」
「……」
「ん?ミミノさん、どうかしました?」
「あなたの親御さんに一度会ってみたいわ」
「急にどうしたんです?」
「変な言い方だけどね、どういう薫陶を受けたらそうなるのかしらーって。普通そこまでやられて弔ったりしないものよ?」
「そうは思ったんですけどね、一度は」と、いったんトウカは言葉を切った。
「ただ、フールクと戦いながら考えたことを忘れないようにするためには、こうするのが一番いいかなって」
「……トウカちゃん、一段落ついたらしばらくコスタ・デル・ソルで休暇取っちゃいなさいよ。あなたのスタンスは分かるけど、そんなんじゃ息も詰まるわよ?」
「ミミノさん……」
「自分で釣った魚捌いて食べたり、気が済むまで泳いだり、そういう期間くらいあってもいいでしょ?」
「コスタの近くにはゴージさん戦士の先輩がいて……」
「無視しちゃいなさい!」
「ええーっ!?」

雪の国イシュガルドでの戦いは、まだまだ続く。それでも今、ここにいる間は、少しでも肩の荷を下ろしてほしい。目の前の雇い主トウカに、ミミノはそう願わずにはいられないのだった。

【続く】

【今回の元ネタ】

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