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遺骸の森

いつからだろう、私はこの透明な湖の畔に立っていた。
具体的にいつからかはわからない。
意識した時には、既にこの場所に立っており、それ以前の記憶がないためだ。ただ……どこか遠い、霧の中を歩いていた気がする。

まあ、そんなことよりも水を飲もう。
湖の水は非常に美味しい。
あと日光も浴びたいがそれは天気次第である。
枝葉を一杯に伸ばし備えよう。

今はとりあえず力を付けなければならない。
貧弱な木では思考に割けるリソースも限られる。
力とはつまり成長だ。
高く、太く、強靭な木になれば余裕も生まれるだろう。
次なる使命を知るための余裕が。

★★★

ああ、日光が欲しい。
もう3日は雨が続いているし、曇にすらならない。強風で身体が揺れる。
水はもういらない。
根を湖と反対方向に伸ばす。
この土地は栄養状態もいい、あとは光だけだ。

★★★

やった! 晴れた!
昨日までは嵐が嘘のように、真っ青な空間が上を見渡す限り続いている。そしてその中心では、私を祝福するかのように太陽が燦燦と輝いていた。
ああ、この為に生きている。
蓄えていた栄養と水分も存分に使い、成長しよう。
もっと広く枝葉を広げ、更に遠くまで根を伸ばそう。
そう、私は私の『領域』を広げなければならない。

★★★

地中の大岩が、根を張るのに邪魔になってきた。
加えて、周囲に生える木々も少々鬱陶しい。
私が栄養を取れないではないか。

★★★

毎日順調に枝を伸ばし、葉を茂らせ、根をより深くへと掘り下げる。水と太陽と栄養が美味しい。時折捉える獲物も非常に美味しい。
どれ程の時間が経ったのだろう。
最初に比べ、空中と地中でおよそ10倍以上の『領域』が私のものとなった。今や大樹と言っても差し支えない姿だ。
地中の岩や周囲の樹木をどかすのは苦労したが、おかげで土地から取れる栄養は大分増えた。

★★★

まずい、もしかしなくてもあれはエルフ。
鬼気迫る表情で私を見ている。
正確には私の根本に横たわっている同胞。
その死骸を。


【続く】

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