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Ami Ⅲ 第13章-PPの地下室

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PP本部に潜入した仲間と連絡を取り合いながら、キアへ向かっていました。
その時、アミは、「まさにこの事件のために極限の警備体制が敷かれ、すべてのエージェントが多忙で動きが制限されているため、今、私たちを助けることができるスタッフがいない。」と言ったのです。
「自分たちで何とかするしかない、ペドロ。」
「最悪だよ!... こんな小さな二人の男の子が、キアで最も邪悪なセキュリティ機関のひとつに立ち向かうなんて...。」
「でも、私たちはそんなに子供じゃありませんよね。
きっと上手くいきます! そうですよね、ペドロ?」
「う... うん... で、どうするの?」
「私が、本部の地下に降りて、警官を行動不能にし、ビンカと叔父さんたちを誘拐します。
その間に、あなたは一人で宇宙船で指揮をとるのです。」
僕はアミが錯乱しているのかと思いました。
「ごめんね、アミ。
君はどうかしてるよ。
警官を行動不能にするなんて…。
生きて帰れないよ。
それにビンカとゴローとクロルカを君一人で誘拐するなんて…。」
彼は何も言わず、僕に操縦方法を教え始めたのです。
例えば、前後左右、上下にモニターを操作して、アミを常に一画面に映す方法、指向性マイクの使い方、その他いろいろ。
(後になって、思い返したのですが、NASAの宇宙飛行士は、僕に比べると赤ちゃんのようなものだと…。
でも、僕はニューヨークで、まるでヒーローのように、紙のシャワーを浴びたことはないんだけどね。
あまりにも不公平だと...。)
アミは、僕がすぐに覚えたことに感激していました。
「私が不在の間、あなたがこの宇宙船の指揮を執るための準備はすべて整いました、ペドロ。
しかし、あなたは何もする必要はなく、ただ待つだけでよいと信じています。
計画通りにいけば、1時間以内には帰ってこれるでしょう。」
その時、僕の脳裏に恐ろしい影がよぎりました。
「もし、君が帰ってこなかったら、どうすればいいの?
どうやって地球に戻ればいいの?」
「心配しないで、ハハハ。そんなことは起こりません。」
と、彼は絶対的な自信を見せようとしましたが、僕は、確信が持てませんでした。
このような恐ろしい可能性があることを知っていたし、精神を高めて楽観的になった方がいいということも覚えてましたから。
そして、暗いシナリオに捉われたくないという気持ちもありました。
とうとう、僕たちはPP本部に着きました。
僕たちは、ビンカと叔父さん達がいるビルの上空で、高い装甲壁で保護されている事に関係なく、見えない状態にありました。
「鉛の装甲壁です、ペドロ。
私たちの振動針はその高密度の金属を突き通すことができないのです。
だから、私たちはテレポートすることはおろか、モニター上の友人も見ることができません。」
「じゃあ、君がそこで何をしているのかも、見ることができないってことなの?」
「そうです、でも私はこれで守られています。」
そう言って、彼はコマンドボードからキーボードを持ち上げました。
その下には引き出しがあり、そこには、高級ペンのような細い金属の筒か杖のような物が、ただ一つだけ入っていました。
彼はそれを取り出し、手のひらに乗せて親指で一点に触れると、杖が金色の光を放ち、発光体へと変化し、小さく輝く金色の太陽のように照らされたのです。
「なんて美しいの、アミ!
それは何なの?」
「これは武器だよ、ペドロ。」
「武器! 君たちも武器を使うんだね。」
彼はいたずらっぽく笑い始めました。
「もちろん、自分たちの身を守るために必要なこともあります。
催眠術を使う暇はないのです。
特に、怒った野蛮な連中が迫ってきている時にはね。
PPのテリ相手にも同じことが起こります。」
とだけ言い、彼は、その物体を僕の方に向けました。
すると、その先から金色の閃光が放たれ、それが僕の胸に触れたのです。
突然、僕は、全身に甘美な流れを感じ、幸福に、平和になり、人生は恐れや攻撃性のないとても美しいものであると気付いたのです。
アミが、世界で最も素晴らしい存在のように見えました。
僕は、自分の日常的な心よりも高いところから、自分が内面的に大きく高められた魂の前にいることに気づき、その事実に感謝し、その幸運に恵まれたことに興奮しました。
(とてもラッキーだと感激していたのです。)
しかし、アミは僕を見て笑っていました。
僕には、彼の笑顔と喜びが心地よく伝染するのを感じ、彼のように陽気に何も自問せずに微笑んだのです。
その直後、彼は再び僕にその物体を向けました。
今度は、金色ではなく、ごく薄い緑色の閃光が現れ、それから僕はいつもの現実、日常の心に戻り、今度は、この装置が人を馬鹿にしているように思えたのです。
「ペドロ、より原始的で地上的な心理ゾーンを遮断して、より高い内側の部分とあなたを繋げたのだけなのです。
しかし、もちろん、未進化の世界の現実から切り離されるので、その世界では普通の生活を送ることができません。
つまり、エゴがゼロの状態です。
この種の世界では、エゴは保護するものなので、愛のない世界ではエゴなしでは生きていけないのです。
この効果は、解除しない限り、地球上で約10時間持続します。
そのためには、照射を受けた人に向けて、緑色のモードで照射し直さなければならないのです。」
「敵の数が少ない時には、威力を発揮するよね。
でも、暴徒に襲われたら、一人ずつ触ってる暇ある?」
「テリの大群に襲われたときはこうします。」
彼が宇宙船の壁を指さすと、その物体から、今度は、実験用ガスライターの炎に似た強烈な青い光が出たのです。
そして、それが壁に触れると、カチッと音がして、何千もの小さな金の星が飛び出し、宇宙船のあらゆる場所に向かって猛スピードで飛んでいきました。
そのうちのいくつかは僕にも届き、人生とは素晴らしいものだと改めて実感できたのです。
「ははははは。 ほら、これはクラスター・ショットですが、この光の群れは受け手に害を与えないだけでなく、悟りを開いてくれるのです。
楽な涅槃(ねはん:一切の煩悩から解脱した、不生不滅の高い境地)の境地へです。
そして、この物体を手にした者には、何の影響も与えません。」
彼は緑色のショットを僕に向け、また僕は元通りになったのです。
「凄いね、アミ!」
「この惑星の天才たちが発明した、恐ろしい破壊装置よりも前時代的じゃないし、原因と結果の法則に従って、お返しに恐ろしいものを得ることもありません。
さて、これから私は、PPの局長であるトンク本人になりきる準備をしなければならないのです。」
「え?あの臭いモンスターに?
でも、君は少年で、彼は太った巨人だよ!」
「ペドロ、何か忘れていませんか?
私たちは外見を変えることができるのです。」
「確かに、クラトと同じようにね。
でも、身長を変えることはできないよね!
え?できるの?」
「もちろん、できます。」
「手術?人工関節?」
と僕が言うと、彼は、また笑いました。
「いや、単に波動を変えるだけです。」
「そうなんだね。
僕、バカみたいだね。
どうやって体重を増やすの?」
「体重を増やす?
その必要はありません。
体が大きく見えれば十分です。
我々の機器では、1秒もかからずに、その人を思い通りに見せることができるのです。
クラトがどうなったかは見ての通りですが、元に戻すのも簡単です。
このコンピュータの中にトンクのエネルギーバイオプロファイルがある。
それで十分なのです。」
アミがいくつかのコマンドを操作すると、だらしないのテリの立体映像が現れました。
「このキーを押すと、直ぐに、PPのボスのコピーになります。
体重は今と同じだけど、そして、臭いもしませんが。
はははは!」
「素晴らしいね!」
「あと2分で、トンクは30分以内で終わる役員会を開きます。
その時間内に、彼になりすまし、警備員を振り切って、仲間に接触し、仲間と共にこの宇宙船の転送ビームに戻るつもりです。
リモコンで起動すると、4人はここに姿を現すことになるのです。」
「はあぁ!なんと簡単な!」
「すべて素晴らしくうまくいくよ、ペドロ。
わかるだろう。
さあ、キーを押してください。
私の新しい姿を見ても、怖がらないでください。
たとえ声が変わっても、私は私自身なのですから。」
そうすると、僕の目の前でアミは恐ろしいテリへと変身し、そのテリが僕に視線を向けました。
その視線は、アミとは似ても似つかないものだったのです。
彼は、とても大きな洞窟のような声でこう言いました。
「ペドロ、怖いのですか?」
「いや......君は、本当にアミ?」
「もちろん、そうです。
怖がる必要はありません。
そして今、私は、あなたが、点灯しようとしている黄色い光のところへ行くのです。」
というわけで、僕は彼の指示通り、ボタンを押しました。
すると、テリのアミは光に向かってこう言ったのです。
「私は、ビンカがいるビルの約2階くらいの、穴を開けることができる最も深い階層に現れるまで降下します。
その深さでは、より強力なシールドのために、黄色の光線が到達することができず、あなたは私を見ることが出来なくなります。」
僕らにとって、最も恐ろしい危険なアプローチに悪寒を感じました。
「テリに察知されないようにするには?」
「予防線を張りました。
私は、誰もいない部屋に現れるつもりです。
幸運を祈っててくれ。
私が下にいるときは 点灯を消して下さい。
じゃあね。」
僕はモニターを見上げ、彼が到着したことを確認しました。
小さな診療所の中に、彼はいました。
他には誰もいませんでした。
そして、僕はビームを消すと、モニタースピーカーから洞窟のような声が聞こえてきたのです。
「私が下の階に行ったら、あなたは私を見ることができなくなるでしょう。
あなたは忍耐を信仰とともに待たなければなりません。」
そのときが、僕の人生で最も危険な時だったのです。
アミのミスや不測の事態が起きれば、不愛想な世界で永遠に漂流し、自分の世界に戻る方法もわからない宇宙船で、さようならするのか。。。
いや、クラトの孤独な小屋のトラスクがいるウトナには、辿り着けるかもしれません。
でも、ビンカがそばにいないのです。
ビンカに最悪の事態が起こったことも知っている...。
いや、それならいっそのこと死んでしまおうと思った途端、アミの笑い声が聞こえました。
彼は、距離が離れていても、見た目が変わったとしても、ユーモアを失わず、僕の考えを読み取る能力を失いませんでした。
「いつもドラマのことばかり考えていますね、ペドロ。
あなたの思考を、あなたの内なるエネルギーを高めてください。」
そして、僕は素直にアミの言葉に従いました。
今やPPの偽のトップであるアミが、医務室から出てきたその時、通り過ぎた2人のテリが、地下室にボスがいることに驚いたのです。
最初の予期せぬ出来事に、胃が痛くなってきました。
作戦開始直後から、上手くいかないことばかりだ......。
すると、アミは二人の質問を先取りしたのです。
「おい、お前ら、どこに行くんだ?」
「ブルー・セクターです、ボス。」
「それは後回しにしてくれ。
「お前らの協力が必要なんだ。
一緒に来るんだ、お願いだ。」
最初、男達は従おうとしたのですが、何か変だと思ったのです。
彼らは一瞬顔を見合わせ、そのうちの一人が言いました!
「戦旗」
「なぜ彼らは戦旗を欲しがるのかい?」
とアミは無邪気に尋ね返すと、恐ろしいことに、男たちは銃を抜き、僕の親愛なる友人に向けたのです。
僕はすぐに、戦旗がセキュリティコードであり、アミがその答えであるパスワードを知らないことに気づきました。
これが、2つ目の予期せぬ出来事でした...。
「手を挙げろ、さもなくば打ち殺すぞ。」
アミはポケットから武器である幸福ビームを取り出す暇もありませんでした。
一人のテリが後ろから、片方の腕を首に回してこめかみに銃を向け、もう一人が背中の後ろで手首に手錠を掛けました。
僕は怖くて、怖くてたまらなかった。。。
「目を見るな、このバカも奴らの一人だ。
奴らは目で催眠術をかけることができるんだ。
壁に向かってろ、この虫けらめ!
振り向いたら、殺すぞ。
お前は医務室に行って 目と口を覆うテープを用意しろ。
それから、警報を鳴らすんだ。
ボタンは廊下の突き当たりにある。
肝心なのは、このエイリアンの侵略者が俺たちを見たり、何も言えないようにすることだ。」
しかし、ガムテープではアミの強力な精神をブロックすることなど出来ませんでした。
一人の男が立ち去ると、アミが目を閉じて集中するのが伝わってきたのです。
すると、銃を向けていた男は腕を下げ、ロボットのような動きで銃をしまい、アミのポケットに手を入れて、幸福ビームの引き金を握り、保健室の半開きのドアに向けたのです。
すると、青い閃光が見え、美しい金色の点のクラスターが廊下から医務室へと散らばっていきました。
その中から、優しい笑顔と愛に満ちた表情の、もう一人のテリが現れたのです。
「おやおや。
この素晴らしい存在の手を解放してあげましょう。」
彼はそう言って、アミを解放しようとし始めました。
しかも、もう一人は茫然自失していました。
彼の心は、アミの意志に依存していましたが、手に物を持っていたため、クラスターの影響を受けなかったのです。
アミは彼の指をそっと広げ、円筒を手に取り、光を彼に向けました。
すると、テリの顔が明るくなり、「おお...。なんて高度な進化を遂げた存在なんだろう!」
と、アミの姿にうっとりしながら言いました。
そして、もう一人は、僕には馬鹿げたように見える笑顔でアミを偶像化したのです。
「彼は聖人だ。彼は天使だ。
こんなに身近に感じられるなんて......幸せなことだ。」
僕の世界では、精神的なものは弱さを生むと考えられていて、そこから目をそらし、身を守る手段や優位に立つ手段として、武力や物質的な力を選ぶ人が多いことを思い出したのです。
しかし、ここにはキアで最も激しい2人の男がいました。
彼らは、数え切れないほどの武術や武器の訓練を受けていたはずなのに、武力の道を選ばず、内面的な成長を遂げてきたアミに完全に翻弄されてしまったのです。
すると「パスワードを教えろ。」とアミが命じました。
「ああ... はい、数分前に変更しました。
『戦旗』には『誇らしげにはためく』と答えなければなりません。」
PPの男は役に立てたことを喜びながら答えました。
「なぜ私を疑い、私にパスワードを聞こうと思ったのかい?」
「ああ... あなたの柔らかい声と優しい物腰でしょうか?
ここでは誰も『お願いだ』とは言いませんよ、残念ながら...。 」
「ああ、確かに、そんな獣になるのは難しいな...。」
「それに、トンクはとても臭うのですよ。」
「そうだな。
では、私の友人を『カルドゥメン』の事件から解放するのを手伝ってください。」
「いや、違う 、違うんだ。
その事件はもう『カルドゥメン』ではなく『エンブレム』です。
そのコードも変更されたのです。」
「ああ、ありがとう。
さあ、私を連れて、軍事的な行動をとってみてください。」
「ああ、了解しました。
この崇高な大義に、神のご加護を......。
このような高度な進化を遂げた存在を助けることができるなんて...。
ん??俺は何を言っているのだろう?
完全な無神論者だったのに...。」
「反省、熟考、賞賛は、これより危険の少ない時に取っておくんだ。」
「ああ...そうですね。」
「いや、了解と言うんだ。」
「了解、ボス!」
「そして、その笑顔を拭い去るのです。
ここでは笑顔はないことを忘れないでくれ。」
「ああ...了解。」
「了解。ボス。」
 3人は廊下を殉職するように歩き始めました。
それを僕は、鶏小屋のゴキブリよりも緊張して見ていました。
「急ぐんだ。
この辺にはカメラがあり、監視員が画面を見ているからだ。」
「は... つまり... 了解、ボス!」
ドアを通り抜けると、2人組の監視員がパスワードを聞いてきました。
「戦旗!」
「誇らしげにはためく!」
と、アミは威勢よく答えました。
その声は、トンク自身よりも攻撃的でした。
彼は教訓を得たのです。
「どこへ行くんだ!」
「『エンブレム』の囚人の所だ。」
「行け。」
やっと僕は安堵のため息をつきました。
アミは、不利な状況をなんとか方向転換させたのですが、しかし...、しかし、いつまで続くのでしょう?
「ボスは、生まれて初めてお風呂に入ったみたいだな。」
アミと助手2人が通った入り口を警備していた警備員の1人が、いたずらっぽく言いました。
すると、もう一人も、「そうみたいだな。彼は臭いの跡を残さなかった......。」
と答え、二人は悪戯っぽく笑い出しました。
僕は、彼らがこの問題を軽く考えていたことが嬉しかったのです。
すると、前方にエレベーターが現れ、彼らが乗り込み、ドアが閉まりましたが、まだ彼らの姿を見ることが出来ました。
すると「戦旗!」と、拡声器からまた声がしたのです。
「誇らしげにはためく!」
とテリのアミの雷鳴が響きわたりました。
「許可する!」
もしパスワードが正しくなければ、あのエレベーターはそのまま厳重な武装捜査官のところへ連れて行っていたのだろうと、なんとなく感じていました...。
アミは、精神的な歓喜を隠そうとするテリたちを見上げ、どれを押すべきか尋ねるようにボタンパネルを指さしました。
そして、政治警察本部の最奥の地下室へと向かったのです。
スクリーンを見ながら、どうか上手くいきますようにと祈りましたが、何も起こらないまま時間が過ぎていきました。
時折、テリがエレベーターに出入りするのが見えましたが、それ以外は何もありませんでした。
すると、突然、兵舎中に警報が鳴り響くという最悪の事態が起こったのです。
すると、すぐに、武装した男たちがエレベーターのドアに到着したのです。
その中には本物のトンクもいて、ドアが開くのを待ちながら憤然と叫びました。
が、ドアは開きません。
「この野郎、エレベーターを塞いでやがる。
小隊、階段で降りろ!」
しばらくして、そのうちの1人が戻ってきました。
「敵は階段のドアも塞いでいます!」
「爆破してしまえ!」
「了解。ボス。」
その後、爆発を感じた時、僕は絶望しましたが、しばらくして驚くべきことが起こりました。
エレベーターのドアが開き、そこから青い閃光が放たれたのです。
金色の粒の明るい雲が廊下に広がっていきました。
なんと、50人の武装したテリに愛を込めて悟りを開かせ、本物のトンクがアミの手にキスをしようとしたのです!
ゴロー、クロルカ、ビンカも幸せそうに笑っています。
彼らも霊的な光線の影響下にあったのです。
そして、アミは黄色い光を発動させ、おじさんたちとビンカをその中に入れさせました。
すると、50人の武装したテリと本物のトンクでさえ、子羊のようにおとなしくなり、ある者は抱き合い祝福しながら、賞賛と感動に目を輝かせて彼らを送り出したのです。
ビンカが嬉しそうに笑っていました。
彼らもまた、霊光線の影響を受けていたのでした。
「ペドロ、もう一度変身キーを押してください。」
テリの姿をしたアミが応接室から僕にそう言いました。
4人とも無事に到着し、僕がキーを押すと、アミは元の姿に戻ったのです。
僕はビンカを抱きしめました。
ビンカは、まるで神様を見るような目で僕を見つめ、ゴローとクロルカはうっとりした顔でアミを偶像化していました。
何事もなく無事に終わったことに感謝しました。
そして、アミが緑の閃光を3発放つと、彼らはいつもの心を取り戻したのです。
僕たちが、ビンカを強く抱きしめると、彼女は感動のあまり泣き出してしまいました。
しかし、ゴローは甘い神秘主義から一転、「悪党どもめ。生まれつきの獣たちよ!」と激しい怒りに襲われたのです。
僕は、彼らがひどい仕打ちを受けたのだと思いました。
「もう安全ですから、忘れなさい。」
と、アミは彼の腕をとって言いました。
「やつらは、電流を流したんだ...電流を...電流を...。
ああ、殺してやりたいよ。」
「それでも、ギリギリ間に合ったようですね。
彼らはいつもソフトな方法から始めて、ハードなやり方に変えていくのです。」
「幸いにも、やつらは、ビンカとクロルカを拷問することはできなかった...。
いや、あんな獣がこの世にいるとは知らなかったんだ...。」
クロルカは泣いていました。
「私もよ、ゴロー、これからどうしましょう。
もう家には帰れないわ...。」
すると、アミは、はっきりと二人に語りかけました。
「過去、家、物、全てを永遠に脇に置かなければなりません。
台風が来て家が流されたとしても、あなたは生きているし、安全だと想像するのです。」
「そうだな、でも、全て失ってしまったんだよ。」
「そんなこと言わないでください、ゴロー。
あなたには愛というとても貴重なものがあるのです。
それは宇宙で最も大切なものなのです。」
ゴローはしばらく目を瞑り、そしてクロルカとヴィンカを抱きしめました。
「その通りだな。これはとても価値のあるものだ。
しかし一方で、我々はもう街を自由に歩く権利すらないのだ。
他の国に政治亡命をしたほうがいいんじゃないか?」
「そんなことを考えないで下さい、ゴロー。
あなたが普通の政治家ならそですが、君はVEP(惑星外生命体)とつながっていて、世界中にそれに対する被害妄想と野心があるのは知っているはずです。
どこも安全ではないでしょう。」
「じゃあ、どうすればいいの?!」
クロルカは絶望的に叫んびました。
「心配しないで、ウトナの山の中にあるクラトの小屋に行きましょう。
そこなら安全だし、どうするか決まるまでゆっくり休めます。」
アミは宇宙船を操縦し、僕たちは即座にウトナに "配置 "されたのです。
そこは夜明けでした。
僕たちが、クラトの農場に降り立つと、トラスクが愛想を振りまきました。
何故か、ゴローには余り興味を示しませんでしたが...。
「なんて素敵な田舎なんでしょう!」
太陽が丘の向こうに見え始めると、地平線に広がる紫から橙赤色に染まった空の色に目を奪われ、クロルカは興奮気味に言いました。
ゴローは、山の空気を嗅ぎ、辺りを見回し、早朝に鳴く多種多様な鳥の鳴き声が奏でる素晴らしいコンサートに注目し、この場所に興味を持ち始めたのです。
彼らにとっては、PPの地獄、拷問の地下牢から数分で楽園に行ったようなものでした。
「なんて美しい果樹園なんでしょう!
あのムフロス、アンブロカを見てゴロー!
フリンダやメレニア、ブリサ、トパ、ブローブロ、ジョジョの木。」
(後で知ったのですが、自動翻訳システムは、受け取った言葉の音を、聞き手の言語と耳でより消化しやすい音に合わせるようです。)
「キキ、グアホ、ズバヤスもあるよ、クロルカ。
スーパーでしか見たことがなかったんだ。」
「私もそうなのよ。
田舎の庭は初めてなの。
ハーブにロンチャにテンカスにズベラーズ、それに花もあるわね、ゴロー!
見て!
あのペピヤ、大きくてカラフルよね!」
そして、小屋に近づくと、二人とも目が飛び出るほど驚いたのです。
「マッフル酒があるぞ!」
ゴローはクラトの蔵を見て叫びました。
「酒と寝床が欲しいんだ。」
「私もそうよ、ベッドさえあればね。」
とクロルカも漏らしました。
「じゃあ、小屋の中に入りましょう。」
僕たちが中に入ると、ビンカは彼らのために窓を開けました。
「なんて素敵で落ち着く場所なの、ゴロー!
まるでテレビドラマの『山荘』みたいよね。」
「ここはとても美しいと認めざるを得ないよ、クロルカ。
眠くなってきたよ。」
「何とも典型的な田舎よね。
でも... この辺に痕跡は残ってないの?」
と、恐る恐るクロルカが尋ねました。
「クロルカ、この山まで道が続いていないし、特に有毒なものもありません。」
アミはそう言って安心させました。
「パタパタは?」
「いません。」
「でも、あの屋根の近くの隅に、パタパタの巣が見えるんだけど......。」 「ああ、そうですね。
でも、あの小さな虫は人を噛んだりしないのです。
外から飛んでくるかもしれない迷惑なチュペティンやズンボサを食べてくれるのです。
ここには、あなた達を傷つけるようなものは、何もありませんよ。
そして、あそこには快適なベッドもあります。」
「ありがとう、アミ」
とクロルカは答えました。
「どういたしまして。
ところで、明日までビンカを宇宙船に乗せておいて欲しいのです。
ペドロの祖母の家での夕食に招待されています。
既に夕食会は終了したのですが、数分後にはそこに戻って、パーティを再開することができるのです。
それから、男の子たちに大事なものを見せなきゃいけないのですが、ゴロー、ビンカに許可をだしてくれますか?
許可するって言いましたよね?」
ゴローはすでに目を閉じていたのです。
「え?... あ、はい、でも、行儀よくするんだ…。zzzzzzz... 」
「明日には、ここに戻ってきますから。
お腹が空いたら、クラトのキッチンに、辛いソースで煮込んだ不味いガラボロの鍋があるはずです。」
それを聞いたゴローは目を覚まし、興味津々で腰を上げたのです。
「どこに、ガラボロのホットソースがあるんだい?」
ビンカはクロルカに台所の場所を教えました。
クロルカはこんな素朴な場所にいることが嬉しくて、鍋を温め始めたのです。
「薪ストーブというのは、なんと素晴らしいものだろうな!」
ゴローは今、シチューのことだけを考えていたのです。
「ガラボロだよ!
うーん... 美味いな、俺の大好物なんだ!
こんな貴重で高価なものを、クラトはどこで手に入れたんだい?」
「この辺りだよ、野生のガラボロがいっぱいいるんだ。
太陽が少し高くなったときに出てくるから、見てないだろうけど。
クラトは捕獲用の罠を持ってるからね。」
「ここはパラダイスってことだな!
俺たちと一緒に夕食を食べようじゃないか。」
ゴローは興奮して、親切にしようとさえしていたので、僕は驚きました。
「遠慮します、ゴロー。
このままここにいれば、不吉な解体された動物を見ることになりますから。切断されたガラボロの塊りをです。
ありがたいことですが、どうして健康的で新鮮な果物や野菜が食べられないのでしょう?」
すると、ゴローは、アミの言葉にもめげずに言い返しました。
「批判するよりも、ガラボロのシチューがどれだけ素晴らしいか味わってみたらどうだ。」
「私は、波動の低い物質で自分の生体を汚したくないのです。
親切で寛大な招待に感謝しますが、私は遠慮します。」
料理がストーブの上で温められている間に、僕たちは別れを告げました。
ゴローは、田舎という環境と、ホットソースで食べるガラボロに夢中で、しかも、マッフル酒を飲み過ぎたため、ビンカやPPへの懸念を忘れてしまったようでした。
彼は今、素晴らしい景色、豊かな菜園、手の届くところにある太ったガラボロ、たっぷりの発酵酒...といった、より穏やかな別世界にいるのでした。
直ぐに、僕たちは地球へ戻ることになりました。
「もう遅いから、おばあちゃんとクラトは寝ちゃったよね。」
と僕は言いました。
「いいえ、ペドロ。
私は、さっき確認しましたが、彼らはまだ食後のおしゃべりに興じています。
まだ話すことがたくさんあるのです。」
「それなら、まだ間に合うね!」
「もちろん!
おばあさんの言うとおりでした。
時には、彼女のアドバイスに耳を傾けてみても損はないでしょう。」
ビンカが、そのことを知りたがったので、僕たちは、おばあちゃんが、その夜、僕たちが到着すると言っていたことが、正しかったのだと説明しました。
「彼女の直感は優れているのね。」
「いえ、そうではなくて、彼女はとても強い信仰を持っているのです。
信仰は魔法です。」
とアミが説明すると、「ペドロのおばあちゃんを好きになりそうな気がするわ。」
「もちろんだよ、ビンカ、おばあちゃんも君を好きになるよ。」
「それから、アミ、装甲病棟のエレベーターから降りた時、何をしてたの?」
「何もしてません。
あの廊下で光のクラスターを投げただけです。
すると、うっとりしたテリが、わざわざ私を助けてくれたのです。
仲間のところに案内してくれたり、解放してくれたり、ゴローに拷問した人たちでさえも、私に優しく愛想よくしてくれたのです。
しかし、モニターで見ていた警備員たちは、トンクが画面に映り、同時に目の前にもいるのに気づき、警報を鳴らしました。
そして、私は多数の仲間達に、ドアをロックし、エレベーターを停止させておくように頼んだのです。
そうやって私たちは、あなたがつけたビームの射程圏内に入り、この宇宙船にたどり着いたのです。
単純なことです。」
「そうだね、単純なことだよね、でも、彼らにとっては......。」
その後、ビンカは、僕たちの悩みの核心に踏み込みました。
「ゴローおじさんが、地球に住むことを許してくれると願っているの。
この辛い経験から心が和らいだのではないかと思うのよ。」
「ビンカ、水を差すようですが、あまり期待しないで欲しいのです。
私も最初はそう思っていたのです。
でも今は、ゴローは常に他人の喜びを妨げるようにプログラムされているのではないかと思っています。
彼は、邪魔をするのが天職のような人なのです。」
「彼はあまりに厳格で厳しく育てられたのよ、かわいそうに。」
と、ビンカはそう説明しました。
「でも、彼が今回経験した苦しみが彼を変えてしまうかもしれないよ。」
と、僕は言ったのです。
すると「苦しむことは教師です。
と、アミが答えました。
「しかし、その教えは非常に高くつき、魂に醜い傷を残します。
それに何か中毒性があるのです。
人は苦しみに慣れてしまい、他の人生を選べなくなることがあります。
苦しみがなければ、空気がないようなものでしょうか。
また、『神は自分の子供が苦しむのを見るのが好きなのだ』と考え、『だから自分は神を喜ばせているのだ』と思い込み、悲惨な人生を求める人もいるのです。
だからこそ、存在する最高の教師は、幸福と呼ばれ、それは愛の産物であり、真の愛は善と知性のバランスが取れた結果です。
しかし、残念ながら今のところ、ゴローは苦しまずに幸せになるために必要なレベルには達していないのです。」


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