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Pixel5のカメラ性能比較——「夜景モード」を中心に

概要

 本稿ではGoogleの新機種Pixel5のカメラ性能をPixel3XLと比較した。Pixelシリーズの特徴は秀逸な「夜景モード」にあるが、Pixel5の写真をPixel3XLの写真と比較したところ、表現力において明らかな違いが見られた。Pixel5の写真は風景写真(ファー)ではシャープだがノイズが多く、接写(ニア)においてはボケが生じ、実際には存在しない小さなドットが紛れ込むことがある。またPixel5の写真はPixel3XLよりも色温度が高く、冷たい印象を受ける。Pixel5とPixel3XLのカメラ性能においてこのような表現力の違いが生まれた背景には、従来機種に搭載されていた画像処理エンジン(PVCやPNC)がPixel5では非搭載となったこと、およびそのカメラ性能を担当していたマーク・レボイ氏がGoogleを退職したことが原因ではないかと推察される。

はじめに

 先週、私用のスマートフォンをPixel3XLからPixel5に買い替えました。Amazonで注文したSpiegenのフィルムとケースがようやく昨日届きました。これから本格的にPixel5の使用感を確かめてみたいと考えています。
 今回はPixel5のカメラ機能について取り上げたいと思います。

Pixelの秀逸な「夜景モード」

 Google Pixelの特徴は、夜でも綺麗に撮影できる「夜景モード」にあると言っても過言ではありません。「夜景モード」の綺麗さは新機種のPixel5にも引き継がれています。

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(「夜景モード」比較画像1 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

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(「夜景モード」比較画像2 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

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(「夜景モード」比較画像3 左:Pixel5、右:Pixel3XL)

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(「夜景モード」比較画像4 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

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(「夜景モード」比較画像5 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

マクロ的にはPixel5とPixel3XLのどちらで撮影してもほとんど同じように見えます。むろん、二枚の画像をGoogleフォトのコラージュ機能で1024x1024に圧縮しているので、細かな違いが見分けられなくなっているだけかもしれません。
 実際、両機種との間には何かカメラに違いはあるのでしょうか。

Pixel5は画像処理エンジン非搭載

 Pixel5のカメラで新しくなったのは、超広角(.6x)に対応した点と、「夜景モード」でのポートレート撮影に対応した点です。
 リアカメラはPixel2/2XLからPixel5まで全て同じSony Exmor IMX363 12.2MP (1.4μm)が搭載されています。
 他方で、Pixel5には、従来のPixelシリーズには搭載されていた画像処理エンジンが非搭載となりました。Pixel2/2XLやPixel3/3XLには「Pixel Visual Core (PVC) 」が、Pixel4/4XLにはその後継である「Pixel Neural Core (PNC) 」という画像処理エンジンが搭載されていました。しかし、Pixel5にはこれらの機能が搭載されていません。
 Pixel5において画像処理エンジンが非搭載となったことで一体何が変わるのでしょうか?これは例えるならば、PCでゲームをやるのにハードウェアにGPUを搭載しておらず、CPUの演算機能だけで処理しようとするようなものです。GPUが搭載されていた方がゲームをするのに好都合だというのは、体感すればその動きの滑らかさの点で圧倒的に変わってきます。ゲーマーにとってGPUが搭載されているか否かが死活問題であるのと同様に、秀逸なカメラ機能を代表的な特徴とするPixelシリーズにおいて画像処理エンジンが搭載されているか否かは大きな焦点となり得ます。

Pixel5の写真は細部の表現が苦手

 私は購入した書籍を毎回Pixel3XLで写真に収めているのですが、この度Pixel5とPixel3XLでどのように表現に違いがあるのかを調べてみました。
 下の画像をご覧ください。

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(「夜景モード」比較画像6 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

 上と下にそれぞれPixel5とPixel3XLで撮影した写真を並べてみました。撮影条件はどちらも同じ「夜景モード」を使用しています。
 しかしながら、これでは写真の画質が圧縮されている為、どちらがどちらの端末で撮影した写真か分かりません。そこで写真の一部を拡大してみます。

画像2

(「夜景モード」比較画像6の一部 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

一番右端の書籍の出版社名「岩波書店」と書いてある部分に合わせて画像を切り取りました。
 上のPixel5で撮影した写真は「書」の文字にドットが混じっています。他方、下のPixel3XLで撮影した写真は、「書」の文字が綺麗に表現されています。こうした違いは一回限りのものではありません。何度か試してみても、Pixel5で撮影した写真には縦にシャギるようなドットのノイズが混じってしまいます。Pixel3XLで撮影した写真の方が自然な仕上がりになっています。
 もう一枚、下の画像もご覧ください。

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(「夜景モード」比較画像5の一部 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

Pixel3XLで撮影した写真では、文字が少しぼやけたように見えますが、「With my Home Town」の文字が読み取りやすいですし、自然な文字になっています。一方で、Pixel5で撮影した写真では、やはり文字の一部が潰れていたりシャギっています。
 仮にPixel5で撮影した写真が綺麗に見えるとしても、それはおそらくソフトウェアでシャープフィルタを用いているからだと考えられます。少なくとも比較した通り、Pixel5よりもPixel3XLの方が細部の表現が自然であると私は思います。
 では、どうしてこのような違いが生まれてしまうのでしょうか?
 一つの可能性としては、私の手元にあるPixel5の個体差、つまり不良品だという可能性です。Pixel2/2XL以降は同じカメラセンサーを積んでいるのに細部の表現に違いが生まれるとすれば、原因はカメラセンサーにあるか、それ以外の処理にあるかです。私の手元にあるPixel5のカメラセンサーが不良品である可能性は大いにあると考えられます。
 しかし、もしも細部の表現が苦手だというPixel5の症状が不良品によるものではなく、Pixel5の一般的な特徴だとしたら、それにはどのような理由が考えられるでしょうか?
 ここで先にお伝えした点に戻りますが、カメラセンサーはPixel5もPixel3XLもどちらも同じSony Exmor IMX363 12.2MPを搭載しています。ですので、もし他の条件が同じであれば、同じ写真が撮影できるはずです。しかし、両機種で撮影した写真には明らかに細部において違いがあります。
 Pixel5はPVCやPNCのような画像処理エンジンを搭載していない為、ハードウェアではなくソフトウェアのみで画像処理を施しています。ではソフトウェアのみで従来性能と遜色ない機能が得られるかというと、実際は非常に厳しいのではないかと思います。なぜなら、Pixel5は従来機種よりもハードウェアの処理能力を落としてしまっているからです。
 以前のPixelシリーズは画像処理エンジンだけでなくハイエンドのSoCを搭載していました。Pixel3/3XLはSnapdragon845、Pixel4/4XLはSnapdragon855を搭載しています。しかし、最新のPixel5はSoCの性能をSnapdragon765Gというミドルレンジにまで引き下げた上で、なおかつ画像処理エンジンを搭載していないのです(メモリとバッテリーは向上していますので、操作感自体は良くなっています)。処理性能を落としたPixel5に従来と同等の画質を求める方が野暮だといえるかもしれません。

Pixelのカメラ担当者はGoogleを退職

 Pixelシリーズには数多くの進歩がありますが、こと写真に関して述べるならば、Pixel5には画像処理エンジンが非搭載であるという点が大きな相違点です。Pixel3XLにはPVCという画像処理エンジンが搭載されていたので、写真が綺麗でした。PVCは主に「HDR+」(白トビを防ぎ豊かな階調を実現する)のための高速演算を可能にするものと伝えられてきましたが、ほかにも写真の細部の表現力を支えていたと推測することができます。そして画像処理エンジンが非搭載のPixel5の方がシャギっているということは、以前のPixelシリーズが搭載していた画像処理エンジンの役割は、このシャギーを減らし、画素補間していたという推測が成り立ちます。

もしPixel5にも画像処理エンジンが搭載されていたならば、以前のPixelと同等の細部の表現力を保つことができたかもしれません。
 しかしながら、一部で報道されている通り、Pixel4までカメラ機能を担当していたマーク・レボイ氏がGoogleを辞めてAdobeに転職してしまいました。彼がPixelチームからいなくなったことは、Pixelのカメラ機能にとって存外大きな欠損となっているのかもしれません。

 実際、上述のようなドットレベルの細部の表現力の違いは、画像を拡大でもしない限りは取るに足らない物かもしれません。TwitterやInstagramに写真をアップロードするや否や、写真は基本的に縮小圧縮されてしまいます。ですので、このような違いは他人の目には判別できないように思います。
 ですが良い写真を撮って加工するための必須条件は、オリジナルの画像をできるだけ高画質に保存することにあります。非可逆圧縮で一度圧縮された画像の画質が元には戻らないのと同様に、オリジナルの状態で以前の機種よりも表現力の点で劣化してしまうのは大きな問題です。
 とはいえ、Pixel5には以前の機種にはない利点もあります。それはPixel5のバッテリーが大容量の4,080mAhになった点です。バッテリーが増えて大きさが小さいということは、これまで以上にPixelが持ち運びしやすくなったことを意味します。他の機能については別の機会に書きたいと思います。

Appendix

以下の画像は加工も圧縮もせずにnoteにアップロードします(note側で圧縮されている場合はご容赦ください)。

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(夜景モード比較画像7 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

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(夜景モード比較画像8 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

 画像を比較するとわかるのですが、総じてPixel5の方がPixel3XLの写真よりもシャープで、なおかつノイズが多いです。ノイズが多いことはそれ自体悪いことではありません。Pixel3XLの方がノイズが少ないのは、おそらく画像処理エンジンでノイズリダクションフィルタをかけているからだと考えられます。

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(夜景モード比較画像9 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

Pixel5の方が白い部分の色がやや青く、冷たい印象を受けます。これはPixel5の方がPixel3XLの写真よりも色温度が高いことを示しています。この画像をもう少し拡大してみましょう。

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(夜景モード比較画像9の一部 上:Pixel5、下:Pixel3XL)

この距離での撮影においては、帯の文字にうっすら浮き上がる印刷のドットにおいて明らかな差が生まれています。この点では、Pixel3XLの方がPixel5よりも細部の表現力で優れています。同じ写真を30〜40枚程度繰り返し撮影して観察してみましたが、Pixel3XLはオートフォーカスで容易かつ瞬時に細部まで撮影できるのですが、Pixel5は静止してピントを合わせた状態で何度撮影してもこれが限界でした。もちろんPixel5でさらに接写すれば印刷のドットは表現できますが、人物を撮影するようなある程度近い距離(ニア)では、Pixel5は細部がボケた写真になります。

 最後にPixel5で新たに搭載された超広角モードの比較画像を載せておきます。

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(夜景モード比較画像10 上:Pixel5超広角(0.6x)、真ん中:Pixel5広角(1x)、下:Pixel3XL広角(1x))

今回Pixel5に超広角が新たに搭載された理由はおそらくiPhoneへの対抗意識からであろう。というのは、すでにAppleは昨年秋にはiPhone11シリーズに超広角を搭載して発売しているからである。
 iPhone11以降の超広角は0.5xであり、Pixel5の超広角(0.6x)よりも広い範囲を写真に収めることが可能である。逆に言うとPixel5の超広角はiPhoneシリーズのそれよりも超広角で収められる範囲が少し狭い。だが、そのぶんPixelは超広角で撮影した際に、写真に歪みが生じないようにソフトウェア側で補正しているようである。

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