人と人との関係に最も大切なモノ
「世界を変える戦い」のあと、何が起こっていたか?
時を21歳の3月31日に戻しましょう。
あの人と浜田君を部屋から追い出した青年。実は、この時はまだ手遅れではありませんでした。
「電車の時間がなくなったから、家に帰れないよ~」と見え透いた手口を使っていた浜田君。こういう時、あの人はかわいそうな人を放っておけないのです。そういう意味では、青年と一緒でした。
「仕方がないわね…」と彼女は、近所のファミリーレストランで浜田君につき合ってあげ、始発の時間を待ちました。そうして、朝が来ると2人は別々の家へと帰っていきました。
…と、これは青年があとから直接あの人に聞いた「断片的な情報」を組み合わせて導き出された結論。なので、確定情報ではありません。でも、おそらく間違ってはいないはず。
問題はそのあとです。
青年はボ~ッとした頭の中、それでも活動を続けていました。最高速を出し続けていた自動車が急に止まれないのと同じ。スピードは徐々に落としていくしかありません。
確か、4月の2日か3日。高校の友人たちの集まりがあって、別に行く必要もないのに、のこのこと横浜まで出かけていきました。横浜近辺の大学に通っている友人がいて、高校時代のメンバーが集合していたからです。
それで、さらに疲れは溜まっていきます。この数日を回復にあてていれば、事態は別の展開を見せていたかもしれないというのに…
4月5日。
この日は、北区のボランティア団体の主催するお花見が開かれる日。
青年は疲弊した体で、体調もすぐれず、風邪気味でした。なので、頭がもうろうとしていて、電話に出ることもできません。
電話の呼び出し音は何度も鳴ります。何度も何度も電話がかかってきて、そのたびに長い長い呼び出し音が鳴り続けます。あるいは、それは「あの人の心の悲鳴」だったのかもしれません。
でも、それを受け止めるだけの余裕は、この時の青年には残されていませんでした。
何度目かのコールの後、ついに青年は電話の受話器を上げます。
「もしもし。あ、よかった!まだ家にいたんですね」と、あの人の声が響きます。
そこで青年は声を荒げ、何か失礼なコトを言ったはず。なんと言ったか具体的には覚えていないのですが、大きく彼女の心を傷つけたことだけは確かです。「何度も電話してこないで!」とか、たぶん、そんなコトだったのでしょう。
とにかく青年は体調がすぐれないことを告げ、あの人は「雨が降っているので、今日のお花見は中止になりました」と言って電話を切りました。
それで、青年は再び布団に潜り込みました。
ところが…
しばらくして、再び電話がかかってきて、青年は受話器を取ります。あの人からであれば、さっきの非礼をわびようと思ったからです。
でも、電話の相手は別人でした。北区ボランティア会長の押井さん。
押井さんは「何やってんの?とっくの昔にお花見は始まってるよ。早く来なよ!」と催促してきます。
仕方がないので青年は準備をし、家を出ました。お花見の会場である北区の飛鳥山を目指して。
電車の中で青年は疑問に思います。
「アレ?確か、お花見は雨で中止になったんじゃ…?」
確かにお昼過ぎまで小雨が降っていました。でも、それも今は止み、空は晴れています。そもそもお花見が中止になるような天気ではなかったのです。
「やられた!」と思いました。
きっと、浜田君があの人と2人きりになりたいがために「お花見は中止になった」と嘘をついたのです。今頃ふたりで仲良くやっていることでしょう。
この日が決定的な日になりました。
それでも、まだチャンスは何度もあったんです。何度も!何度も!何度も!
青年があきらめさえしなければ、あの人とやり直すことなどいくらでもできたんです!浜田君なんて関係なかった!ただ、青年の勇気と信念と覚悟が足りなかっただけ。
そう!覚悟!
覚悟さえあれば、どうとでもなったはずなのに…
結婚式の誓いの言葉に「健やかなる時も、病める時も」ってのがあるでしょ?それと同じ。
どんな人間関係も、常に100%仲良くなんてわけにはいきません!必ず関係が悪化したり、疎遠になったりする時期があるものなのです。そして、それ自体はたいした問題ではありません。
心の底でお互いがお互いを思いやり、つながり合ってさえいれば、全ては些細な出来事に過ぎません。どんな困難があろうとも、何度関係がギクシャクしようとも、その度にトラブルを解決し、仲直りし、以前よりも絆は深まっていったはず。
青年にたった1つ足りないモノがあったとしたら、それは「あの人の全てを受け止め認めてあげる覚悟」だけだったんです。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。