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新生・ミュージックステーションから見るこれからの音楽番組の在り方について

正直な話、近年のMステには興味を失っていた。

そりゃあ、中学生の頃は熱心に見ていた音楽番組だ。この番組を見ればその時期流行している音楽を知ることが出来る。そういう気持ちでこの番組を見ていた。

特に僕が印象深いのは08年のまるごと1時間サザンスペシャルの回。普段は複数組のミュージシャンが1曲~2曲程度を歌う構成であるMステなのに、その回だけは出演ミュージシャンはサザンだけで、なんと6曲も演奏してくれた、その後行われていないスペシャリティな回。放送翌日友人に顔を合わせるや否やその回の感想を目いっぱい語り尽したことを今でも覚えている。

そんなMステへの興味や気持ちは年を追うごとに僕の中から失われていった。

過去の曲をその年に生まれた子供たちに見せて感想を聞くVTRを流し、ミューシャンの演奏は1番のみなんてことがザラに起こっている音楽へのリスペクトの無い構成や、シーンを反映しているとは言えない毎度似たり寄ったりの出演者と似たり寄ったりの演出とカメラワークは僕のMステ熱を冷ますのには十分だった。

10月からMステの放送時間が変わる事、それに伴って内容もリニューアルされることは知っていた。が、なんとなく見ることもせず見る機会もなくここまで来てしまった。そんな中11月9日放送のMステには小沢健二が出演した。それを機に僕は久しぶりにMステを見ることにした。

結論から言えば、リニューアル以前のMステよりずいぶん良くなったなという感想を持った。では具体的にどこが良くなったのか。この理由を音楽番組を取り巻く状況から推察したいと思う。

「音楽番組」自体の母数は低下しているものの、良質な音楽番組は増加の傾向にある。象徴的なのは「関ジャム」だ。専門家を招き、楽曲の魅力や凄さを専門的な知識のない視聴者にも分かりやすく解説するこの番組は、コアな音楽ファンならずとも欠かさず見ている人も多いことで知られる。あいみょん、Official髭男dism、吉澤嘉代子など、関ジャムを契機にブレイクを果たしたミュージシャンも数多い。あとは音楽番組ではないが「アメトーーク」も度々ミュージシャンをテーマとした回が存在するが、その度にテーマとなったミュージシャンが各方面で話題となる。先日放送された「BiSHドハマり芸人」後、iTunesのランキングにBiSHの楽曲が一気にランクインしたことは印象深い。

何故「関ジャム」「アメトーーク」はここまで注目されるのか。

日本の音楽番組の元祖、と聞いて思い浮かべるのは「ザ・ベストテン」だ。レコード売上、有線放送やラジオ放送のリクエスト、番組へのリクエストなどを合わせた独自のポイントによるランキングをベースとした番組構成。勿論それ以外にも様々な音楽番組が存在したが、90年代から現在にかけて放送される音楽番組のベースとなったのは「ザ・ベストテン」と言って間違いないだろう。

「ザ・ベストテン」が視聴率を稼いでいたのは「今、流行している楽曲を知るためのメディア」としての側面が大きい。

当時は携帯電話も無ければSNSも無い。YouTubeもiTunesも無い。国民にとってテレビが最大の情報源だった。そんな中で流行している音楽を知り、楽しむ場として「ザ・ベストテン」が重宝されるのは至極当然のことだったはずだ。「ベストテン」が放送終了した80年代以降もテレビは「情報源」として引き続き絶対的な立場を誇っていた。「Mステ」もそんな「音楽を知る手段」として機能していたのだ。

そんなテレビを取り巻く状況が一変するのは10年代からだ。

スマートフォンの台頭、音楽配信の充実、更にYouTubeの定着により、テレビは情報メディアとしての価値を失い始める。

そして2015年、音楽ストリーミングサービス、いわゆる「サブスクリプション」サービスが日本上陸。そしてこの4年間でサブスクリプションからのヒット曲も増えた。最早自分の手のひらからどんな音楽にもアクセスできる時代になり、「今流行している音楽を知るためにテレビを見る時代」は終わった。

そこで「関ジャム」「アメトーーク」の話に戻る。「ベストテン的構造の音楽番組」と「関ジャム」「アメトーーク」の決定的な違いは、「今流行っている音楽」を伝えるのではなく「今、何故子の音楽が流行しているのか」「これから流行する音楽の魅力」を深堀りして伝えている点だ。

前述した通り、どんな音楽にも自分のスマホからアクセスできる。今流行している音楽もiTunesや各サブスクサービスのランキングを見れば一目瞭然。わざわざテレビを点ける必要はない。そしてその流行している音楽が何故流行っているのか、その魅力はなんなのかを時間をかけてゆっくりと伝える番組が重宝され、大衆にウケるのは必然なのだ。

Mステの話に戻ろう。前述の通り11月8日放送のMステには小沢健二が出演。小沢健二のパフォーマンスに入る前には新曲の歌詞をフリップで紹介し、タモリと小沢健二による歌詞の解説がされた。さらに「ファン代表」として俳優の風間俊介がVTR出演。ホワイトボードを使いながら小沢健二の魅力を語った後、小沢健二のパフォーマンスに入るという構成だった。

この一連の流れは他でもない「関ジャム」「アメトーーク」を意識、踏襲した構成だろう。

音楽の聴かれ方はこの10年で様変わりした。ということはそんな「音楽」を取り扱う「音楽番組」の在り方も変化するのは必然だろう。1組のミュージシャン、1つの楽曲を深く掘り進める構成は今後の音楽番組の主流となるはずだ。これからのミュージックステーションを始めとした各音楽番組に期待したい。

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