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30年振りの味を求めて

  NHK『ドキュメント72時間』のわりと人気企画、
  「自動販売機うどん」の回に触発された配偶者が、
  「30年振りに食いたい」と言い出したので、
  私は食べた事が無いので付き合ってやろうじゃないかと、

  大阪府の南側に位置する我が家から、
  京都府の北側に位置する「ドライブインダルマ」まで、
  近畿を縦断ドライブだ。
  朝の7時半から出発だ。

  300円のうどんを食うために、
  往復の高速道路代を支払って、
  人は皆我々夫婦をあざみて阿呆と言う。
  しかし渋滞に出会わなければ高速走行の清々しいことよ。

  40過ぎにしての小型AT2輪とは言え、
  昨年運転免許を取得できた甲斐あって、
  配偶者の意図が理解できるようになり、
  運転技術の巧拙にも気付けるようになった。

  ♪らいあう わんだぁらーあぁーぁらーst
  (Light out wanderlust)
  配偶者が出棺メロディーの候補に選んだ一曲、
  ポール・マッカートニー『wanderlust』を口ずさみつつ、

  高速を舞鶴大江で降りて、
  由良川沿いの178号線を北上。
  たどり着いた「ドライブインダルマ」には
  ホンマに各種自動販売機と両替機、
  各種ゲーム機に電子レンジしか置いていない。

  配偶者は30年振りの味にしても、
  私は初めての味のはずだが、
  ひと口食べて「うわあ」とこぼれ出た。
  故郷のそうめん汁の味そのまんま。

  麺の太さは明らかに違うけれども、
  出汁の風味やらカマボコにネギの添えられ具合やらが、
  分かる分かる分かります。
  ノスタルジーが強過ぎて満足にしか感じられへん。

  自動販売機のハンバーガーも買った。
  「肉ちっちゃ」
  「期待しないで」
  これもひと口食べて「うま」とこぼれ出る。
  「子供時代にこの店は天国だっただろう貴方」
  「うん」
   (※配偶者の価値観では初任給をもらうまでが子供。
    なのでバイクの免許取り立て当時はガッツリ子供。)

  栓抜き付きの瓶コーラ自販機もあったので、
  一本買ってみる。
  「話には聞いてたけど実物は初めて見たよ」
  「そうだねぇ。ゆきこさんの時代には無かったよね
   (※配偶者とは10歳差)」
  「いいや。私の郷里には自動販売機そのものが無い」
  「え」
  「駄菓子屋でおばあちゃんが冷蔵庫から取り出す」
  「なつかしー、ってそれ僕の小学生時代ー」

  ゲーム機の中には一世を風靡しまくった、
  『インベーダーゲーム』があったもので、
  「久しぶりにやってみる?」と聞いてみたら、
  「やってみる」と答えたので、
  やってもらったら残り2ライフで一面クリア。

  しかしその辺りから配偶者、
  「まだ続くの?」「しんどくなってきた」「疲れた」
  とぼやき出し、
  「もうイヤだ」
  と呟く声色は濁って真っ黒だった。

  「やめよう。もうやめよう。
   ごめん安易な気持ちで勧めてしまった。
   貴方ゲームとか本っ当に好きじゃないんだ。
   達成感とか得られないんだ」
  「この時間と労力を無駄に使ってる感じが自分で許せな」
  「分かった分かった。悪かった悪かった」
  「いや僕も40年振りで懐かしかったからつい」

  ついでに日本海見て、
  「男女の石像があったけど、安寿と厨子王かな」
  「? ごめん。僕よく知らない」
  「私もうろ覚え。『山椒太夫』、って井伏鱒二だっけ?」
  「井伏鱒二は『山椒魚』……」
   (※森鴎外でした)

  文学史を丸暗記させる事だけは、
  全く意味が無いのでやめた方が良いよね、
  などと話しつつ、
  13時には家に帰れたよ♪

  「ちょうど生中継が始まったバイクレースが見られる♪」
  朝も早よから出立して、
  日本海こそ見たけれど特に寄り道せんと高速を快走した、
  配偶者の目論見を帰り着いた直後に理解した。

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