自宅に帰り着くなり玄関脇の壁際で、背後からの羽交締めにされた挙句、喉元の、おそらくは頸動脈をしっかり狙って突き付けられているのは、観光地向けの卍型ではない殺傷能力が充分期待できる棒針型手裏剣だが、これは一体どうした次第だ。
「手荒な真似をして申し訳無いが本日こそは恋文を受け取って頂きたく」
「それ以前に不法侵入でありストーカーかつDV行為で訴え切れるんだが」
　あちこち取材していた中で知り合って、稀有な人生経験が面白かったもので、数時間程度は話を聞き盛り上がってしまった、ガチの忍者の末裔だ。
「姫の生誕日が神無月と伺った故に誕生石の電気石をと」
「単語選びがいちいち古風だな。おかげで姫呼びされてもツッコめねぇよ」
「妻問いには誕生石を贈るのが効果的と聞いたが為に」
「この状況は問うてねぇ上に情報源を間違えてるよな」
　手裏剣さえ外してもらえれば、普通に受け取って喜ばれて一応は合意の上で致して入籍して、現在は配偶者だが何か。

（410文字）

　忍者か実用射撃選手かの違いだ。
　あと古風かイタリアかぶれかの違いもあったな。