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-今、APOGEEを観る理由-APOGEE LIVE@SPACE ODD by SHIBUYA SOUND REVERSE 2023

SHIBUYA SOUND REVERSE 2023というイベントに足を運んだ。

SHIBUYA SOUND REVERSE(SSR)は、
複数のライブハウスで様々なアーティストがライブをするサーキットイベントだが、
私の目的はただ一つだった。
「APOGEEのライブを観るため」
である。
そのためだけに、何年ぶりかに渋谷へ向かった。

「チケット代5800円支払って、たった1バンドの40分ほどのライブを観て帰る」
というのは何とももったいない話かもしれない。

以前の私ならタイムテーブルとにらめっこしながら、夜中のトリを務めるアーティストまで、新たな音楽との出逢いを貪欲に求めていただろう。

それがサーキットイベントやフェスの醍醐味であるはずだが、
今の私にはそんな体力も持ち合わせていないので、 
「観たいアーティストをピンポイントで観て帰る」
という選択は私にとって必然となっている。

APOGEEのライブは15年前に観たことがあった。
2008年2月、GRAPEVINEとのツーマンライブのときだった。

その翌年の2009年に、APOGEEは3rdアルバム「夢幻タワー」をリリース。
当時の私はそのアルバムにそこまで惹かれることがなく、以来APOGEEの音楽活動を追うことなく離れていた。

それから2023年の今になって、APOGEEが活動を継続していて、新作「Sea Gazer」をリリースしていることを知った。
そして、新曲の「遠雷」に文字通り「雷に打たれた」。


新作を聴き込み、それから前作、前々作へと遡って、
リリースされている楽曲全てに耳を通した。
ベースが脱退しながらも、なお活動を継続しているという状況は素直に嬉しかった。

そして今回のSHIBUYA SOUND REVERSEへの出演。それも夜の時間帯ではなくトップバッターの13時過ぎというタイムテーブルのおかげで、私にとっては比較的観に行きやすいというのもありがたがった。

会場のSPACE ODDは、最寄りの渋谷駅から歩いて10数分ほど。渋谷の人流に翻弄されながら、軟弱した老体を引き摺り息も絶え絶え辿り着いた。

SPACE ODD 入り口

SPACE ODDはキャパシティ300人ほど。
天井が高く、照明も映えて音が良く反響する空間であった。

スタンディングフロアの階上から

定刻になり、歓声に迎えられながらステージにメンバーが登場する。

幕開けは「OUT OF BLUE」だった。
ゆったりとしたチルアウトなサウンドが会場を包み込む。

サポートメンバーのベースが次の曲を間違えて「ゴースト・ソング」のイントロを奏でるトラブルがあり会場に少しの失笑と温かな歓声が漏れるも、
メンバーの和やかな雰囲気から、直ぐさま「CORAL」のイントロが流れる。

2018年にリリースされていた前作「Higher Deeper」に収録されている「CORAL」。
当時の私にアンテナが立っていれば、5年前にリリースされていた前作「Higher Deeper」の肉感的なバンドサウンドを聴いていたら、きっと私は当時から彼らの活動を再び追いかけ始めていただろうと思う。

その5年の間に、キャリアを総括するワンマンライブを開催し、ベースが脱退するというバンドとしての大きな転換期を迎えていたAPOGEEをリアルタイムで知れなかったのは残念ではあるものの、今ライブハウスでこうして「CORAL」を聴けているという事実は感慨深いものがある。

仕切り直しとばかりに「ゴースト・ソング」のベースイントロが入る。
15年以上前、リアルタイムで聴いていた1stアルバム「Fantastic」に収録されている初期の楽曲。
奇妙なPVと共に当時から印象に残っていた、ブラックな色気のあるベースラインに聴き惚れる。

MCで、今年結成20周年に至ったこと、そしてそれを記念して11月に1stアルバム「Fantastic」の再現ライブを行なうことを告げられる。

その後、
私が今一番聴きたかった曲のイントロが流れた。
「遠雷」だ。

メランコリックなギターリフと煌びやかなシンセサイザー、そしてハイトーンの歌声が融合し、大きなカタルシスを迎える。
結成20年というキャリアの中で様々な音楽性を追求し、その過程で得られた成熟した演奏とアレンジで、再び原点回帰を思わせるような作風。
私はこの楽曲から「成熟した瑞々しさ」を感じるのだ。
この曲を生音で浴びることで、その成熟した瑞々しさをより深く感じることができた。
それは何とも美しい体験だった。

最新作「Sea Gazer」の曲順通りに、
「遠雷」の後に間髪を入れずに「TIDE」に入る。
この曲は中盤の間奏でドラムを主軸に展開が目まぐるしく変わり、セッションを重ねて作られたのではないかと思われるが、ドラムに気を取られていると、いつの間にか全く違う視界が広がる感覚に陥る。

そして「Saihate」へ。中毒性のあるシンセサイザーのリフに思わず身体が揺れる。

「遠雷」「TiDE」「Saihate」と最新作から立て続けに届けられた3曲が何とも心地良く、ここが私の中でこのライブのハイライトだと強く感じた。それは、それだけ今のAPOGEEに惹かれていることの証左でもある。

そんなことを思っていると、いつしか頭の中は、私の一番大好きな洋楽バンドのことを思い巡らせていた。

APOGEEの音楽性は、個人的な音楽遍歴ではNew Orderと重ねてしまう。
ニューオーダーは、ジリアン・ギルバートのシンセサイザー、スティーブン・モリスの均質的なドラミング、そしてバーナード・サムナーによる甘美でメランコリックなギターボーカルが主軸となり40年以上活動しているニューウェイヴなバンドで、私はこのバンドが大好きである。

APOGEEが奏でる効果的なギターリフ、中毒性のあるシンセサイザー、均質的なドラミング、繊細で甘美なボーカル、それらが融合した色彩豊かなバンドサウンドに、ニューオーダーの面影を感じるのだ。

(思えばニューオーダーもベースが脱退しており、オリジナルメンバーはギターボーカル、ドラム、シンセサイザーという体制面でも一致しているのだが、ニューオーダーの場合は不仲に因るところが大きいのでそこまで重ね合わせることは失礼だし見当違いな話だろう。。)

ライブは終盤に入る。
「Losing you」では、ボーカルの音量が小さめでバンドサウンドの強い音圧に埋もれがちな場面が多かったのは惜しかった気がする。

ラストの「Grayman」ではベースがタンバリン、ボーカルはギターを置いてハンドマイクでパフォーマンス。
15年前、バインとのツーマンライブでも披露していた曲であることを思い出し、胸に迫るものがあった。

多くの熱量を残して煌びやかなステージからメンバーが去っていくのを拍手で見送りながら、
「欲を言えば、「Sink/Rise」や「Just a seeker's song」、「夢幻タワー」からの楽曲も聴きたかったけど、40分ほどのショートステージでそこまで求めるのは現実的ではないよなぁ」
などと本音が溢れる。

またAPOGEEを観れる機会に恵まれたら、と願いつつ、
足早に会場を後にした。

地下の奥深いライブハウスから地上へ出ると、前日の悪天候から一転して鮮やかな青空と強烈な陽射しが視界を襲った。

まるで白昼夢を見ているかのような感覚を抱きながら、それでも無事に帰路に着くために、
再び渋谷駅の喧騒を朧気な足取りで泳ぎに行くのであった。



APOGEE SETLIST
@SPACE ODD
SHIBUYA SOUND REVERSE 2023

1.OUT OF BLUE
2.CORAL
3.ゴースト・ソング
4.遠雷
5.TiDE
6.Saihate
7.Losing you
8.Grayman


最後までご笑覧くださり、ありがとうございました。

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