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自分が緊張している時は相手も緊張している。

〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。①〜

次にいただいてる質問は、かなり答えることのボリュームがあるので、何回かに分けてお答えしていきたいと思います。

質問はこちら。

「漫画家さんとのやりとりで気をつけていることは?」

非常に沢山の要素があるので、何から書いてみようか考えたのですが、まずは新人編集者にありがちなことから始めてみます。


緊張が呪いをかける。

プロの編集者になって、最初にプロの漫画家さんに会う時は誰しも緊張すると思います。

僕も初めての時は相当緊張し、何を言えばよいのか皆目見当がつかないまま先輩の打ち合わせに同席したのを覚えています。

入社してすぐ打ち合わせに参加するって大変なんです。つい最近まで読者だった身からしたら、漫画家さんは雲の上のような存在。「会うだけ」でも緊張するのに、いきなり打ち合わせですから。


最初の頃の打ち合わせは大体こんな感じです。

先輩は最初からフランクに漫画家さんと話し、軽妙なトークで漫画家さんを笑わせ続けている。そうかと思いきや、いつの間にか真剣な話に誘導し、的確な指摘をし始めていてただただ圧倒されまくる。。。

やがて来るのが「お前もなんか言えよ」という恐怖の一言。

一応自分もプロの編集者として同席しているのに、変なことは言えない。何かしらちゃんとしたことを言わなくてはいけない。でも、本当のところ、何を話せばいいのかなんて全然分からない。

どうしよう。どうしたらいい。

そんなことを考えながら必死に思い浮かべた、自分なりによいと思った提案を話してみるものの、喋れば喋るほど的はずれな発言になっていくのをどうにもできない。

気がついたら先輩に「もういいよ」と話を止められ、先輩が漫画家さんに「すみません。こいつが言ったこと全部忘れてください。」と謝ってる。漫画家さんも「いや、まあ最初ですからね」と苦笑いを浮かべていて、次も同じレベルだったら許さねえぞという先輩からの圧が増す。

次の打ち合わせまでに、何か考えて用意しなきゃと思うのに、何も思いつかないまま業務に追われて、あっという間に次の打ち合わせがやってくる。

繰り返しているうちに、どんどん自分がダメ人間な気がしてくる。


こうやって書いているだけで、今でもまだ嫌な汗が出ます(笑)。僕はそんな感じで日々辛い新人時代を過ごしていましたが、同じような人は結構いる気がしています。

なぜ、そんなことになってしまうのか。

今の僕なら分かりますが、あまりにも闇雲に漫画家さんを「雲の上の人」と思い、無駄に緊張しすぎてしまって、「ちゃんとしたことを言わないと許されない」という呪いがかかるからなんです。


漫画家さんも緊張している。

呪いがかかったまま、いつまでも的外れなことを話す打ち合わせを続けていると「担当を替えてください」という、編集者にとってもっとも辛い言葉がやってきてしまいます。

一体どうしたらいいのか。

呪いを解く鍵は、相手の身になって考えてみることです。

すごく簡単で単純なことを言うと、打ち合わせの時は漫画家さんも緊張してるんです。

漫画家さんは漫画家さんで、「次も面白いものを描かなくてはいけない」、「自分の考えを編集さんが面白いと言ってくれるだろうか」、「そもそも面白いと言ってもらえる話を思いつけるだろうか」、「もう終わってくれと言われたらどうしよう」などと、色々なことでドキドキしているんです。

緊張とプレッシャーでいっぱい。

そんなところに、具体的にどうしたらいいのかよく分からない提案を言われたら、漫画家さんも困惑が増す一方です。

そもそも、誰でも、「相手がどんなことを言うか分からない人」であるうちは、本能的に緊張するものです。こちらが緊張で固まれば固まるほど、相手の漫画家さんも「一体何を言いだすつもりだろうか」と警戒度を高め、より緊張するようになります。

自分の自己認識は「自分みたいなド新人」かもしれませんが、漫画家さんからしたら「新しい編集さんからどんな評価をされるのか」という恐れと不安の対象にもなっているのです。


新人だから言えること。

もう一つ呪いを解く鍵があります。視点を変えて見ることです。

「ド新人の自分からしたら、プロの漫画家さんは雲の上の存在。」

これを逆に考えるとどうなるか。

「漫画家さんからしたら、めったに直接会うことのできない読者、に限りなく近い存在」と言えます。

新人編集者の一番の優位点は、つい最近まで読者だったこと、つまりもっとも現役の読者に近いということです。

二つの鍵を合わせると、どんなことを言えばいいのか答えが見えて来ます。

「自分はその作家さんの作品をどう思って読んで来たか」と、「どんな作品が読みたいか(読みたかったか)」という素直な感想。それこそが一番求められている言葉であって、難しい提案をする必要はまったくないのです。

「ちゃんとした意見を言わなくては」と思い、何かしらの意見から話し始めてしまうと、漫画家さんには「この作品は面白くないので何か変えるべき」というメッセージとして伝わります。

本当にそう思って提案しているなら別ですが、そうでないのなら素直に「面白い」「好き」が伝わることから話す方が大事です。

まず「面白い」「好き」と思ってることが伝われば、漫画家さんも少し安心してくれます。すべての話はその後始まるのです。


「漫画家さんとのやりとりで気をつけてること」。

僕の場合、まずはこちらがどういう風にその漫画家さんのことを思っているか、素直に伝えることが大事だと思っています。


今回はかなり最初の初歩的なことについて書いてみましたが、「漫画家さんを闇雲に雲の上の存在にしないこと」と、「緊張をコントロールすること」は、経験を積んでいっても、とても重要になります。

この「漫画家さんとのやりとりで気をつけていること」は、シリーズとして書いていこうと思いますので、また触れてみます。


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