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歩み続ければちゃんと道はできている。

~少女漫画誌の編集長がフォロワーさんの質問に答えていく。⑩~

今回は前回書いた「ヒットしそうな人」について、もう一つの要素について書いてみます。


この人ヒットしそうだなと思うには、まだ必要なものがある。

前回、ヒットしそうだなと感じるのは「いい目の持ち主」だと書きました。

でも、それは可能性を感じるだけとも書きました。

投稿や持ち込みの作品で感じる可能性としては十分です。プロになった若手漫画家さんに感じる可能性としても十分です。でも、その可能性だけでヒットまでたどり着けるわけではないからです。


ではどうすればいいのか。何ができるといいのか。


ヒットしそうだなと思っていて、実際にヒットした人たちに共通のことが一つだけあります。


「何があっても描き続けられる」

ということです。


これがとても大事なんです。

理由は2つあるので、順を追って説明していきますね。


プロとして魅力的な人になる必要がある。

デザートでデビューした漫画家さんたちには、デビューが決まったらまず最初に僕からの講義をしています。そこで話すうちの一つが「プロとして魅力的な人を目指してほしい」ということです。

もちろん、持ち込みや投稿で作品を見て、とても魅力があると感じたからプロとしてデビューしてもらうのですが、その時点ではまだ「漫画家志望の方たちの中では魅力的」、という段階です。

世の中には、すでに素敵な漫画家さんたちがいっぱいいて沢山の素晴らしい作品を発表していて、プロになると今度はその中から自分の作品をお客さんに選んで手に取ってもらわないといけないわけです。

たとえばプロのスポーツ選手は、プロになってから一軍で試合に出て活躍するため、まずプロとして活躍できる体作りから始まります。プロの俳優、アイドル、アーティストたちも、プロとして活躍できるためのレッスンを重ねオーディションに出続けることから始まります。

同じようにプロの漫画家さんも、まずは読み切りなど短い作品を描きながら、プロの中でも魅力的だと思われるように自分の力を磨いていくことが必要になります。

デビューの時点で見えている長所をより一層伸ばしたり、その時点ではまだ発揮できていない本当の長所を発揮できるようになったりする。

そのためには、他のプロの世界と同様に、すごい先輩たちと比較されてお客さんの目に揉まれて、それでもめげずに経験を積んでいくことが大事です。


漫画は時間がかかる。

次に、漫画のヒット作ってどんなものか思い浮かべてみてください。他のジャンルのエンタメ作品と圧倒的に違うことが一つあります。

それは、描く側にとっても読む側にとっても、とても長い時間がかかるということです。

映画やアニメやドラマは作る方の時間はかなりかかりますが、見る方の時間はそれほど長くありません。映画は1本2時間前後だし、テレビアニメも1話30分で1クール12回とかのものが多いです。テレビドラマも一番長い大河ドラマでも1年間です。

漫画の場合は、1話1話を読むのは短い時間で済みますが、新連載から完結までリアルタイムで追い続けるとなると数年単位でかかります。少女漫画のヒット作の場合は10〜15巻くらいで完結のものが多いですが、それでも連載期間は5年くらいかかりますし、少年漫画の超ヒット作だともっと遥かに長いものが多いですよね。

漫画をヒットさせるというのは、その長い期間、ずっと同じ高いクオリティで、お客さんを飽きさせないものを描き続けないといけないということでもあります。


以上2つの点から「何があっても描き続けられる人かどうか」ということがかなり重要な要素になります。

「何があっても描き続けられる人かどうか」というのは、1作だけで見極められることではありません。

だから、実は編集者が注目しているのは、投稿者さんにしてもプロになったばかりの若手の漫画家さんにしても、「次の作品をどのくらいの期間で描いてきてくれるか」ということだったりします。


描き続けているといいことがある。

とても大変なことに感じさせてしまったかもしれませんが、描き続けているといいことがあります。

ただしちゃんと描き続けていればです。あまり好きでもないものを描き散らしたりしてはいけません。ちゃんと描きたいものを描き続けてください。

時々「自分が描きたいのはこれだ」と意地になり、誰の言葉にも耳を貸さず同じようなことだけ描き続けてしまう人がいますが、それだと「認められたい」が勝ちすぎて「描きたい」ものが何か伝わらなくなりがちです。できれば素直に「描きたい」という思いを大事にしてください。

ちゃんと描きたいものを描き続けようと思うと、必然的に「描きたい」ものを探すようになります。探すことをクセにして、そのまま「描きたいものを見つけられること」を能力にまでできると理想です。

「描きたいものを見つけられる能力」って、長く活躍するためにはとても大切な能力だからです。

難しい能力ではありません。ヒットしてる漫画家さんたちがやっていることで簡単にマネできることがあります。

質問魔になることと、写真魔になることです。

いつどんな時、どんな相手、どんな場所でも気になったことは取材だと思って根掘り葉掘り聞くこと。どんなもの、場所、時間であっても、いいなと思ったら写真を撮っておくこと。

そう思って日々過ごすだけでも、描きたいものに出会える確率が格段に増えます。

新しく「描きたいもの」を探す、ということだけではありません。

人は色々な刺激を受けないと、自分の中の大切なものや価値あることに意外と気がつかないからでもあります。


ポートフォリオとオーディション。

もう一つ。

当然ですけど描き続けている(=作品として仕上げている)と、後に残ります。ちゃんと毎回描きたいもの、つまり、好きなもの、こと、人物を描いておくと、それは自分の魅力を表すポートフォリオにもなり、いつかちゃんと見つけてくれる人が現れるようになります。

ポートフォリオだけではありません。

好きな人物をちゃんと描いていると、芸能プロダクションに例えると、いい所属タレントがいっぱい増えていくことになります。

その中で誰が一番主役向きか、人気があったか、題材とキャラの個性が合ってるかなど、自分内オーディションを行って連載を作ると連載がうまくいく確率も高くなるのです。


そういうことがありますので、ぜひめげずに描き続けてください。

漫画家を目指している皆さんの、ヒットしたい若手漫画家さんたちの、次の原稿を楽しみに待っています。


ではでは。


※「持ち込み&投稿の作品を読む時にどんなところを見ているか」という流れでこの3回書いてみたので、ヒットに向けて編集者はどう関与していくのか、何をすべきなのか、は意図して省きました。それはまたいつか別の機会に書いてみようと思います。


※今回も「みんなのフォトギャラリー」を使わせていただきました。ありがとうございます!

※感想、質問、どんなことでもいいのでお待ちしてます! コメント欄またはツイッターでよろしくお願いします(^o^)

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