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9.メガシャキ!夏目漱石!

僕が、はじめて読んだ本は、覚えているもので『バムとケロ』の絵本だったと思う。
保育園の頃は、絵本が好きで、『腹ぺこあおむし』『ぐりとぐら』『おばけのてんぷら』などいろいろなものを読んだ記憶がある。
保育園の先生がしてくれる紙芝居にはとても夢中になった。
それから小学生になり図鑑や怖い話の本にはまり、中学生になった頃、全く本を読まなくなった。PSPの『モンスターハンター2G』というゲームを毎日深夜になるまでプレイしていた。このゲームは、プレイヤーがハンターになり、モンスターを狩るのだが、あまり一人でやるようなゲームではないのだ。友達とプレイして一緒にモンスターを狩るというのが醍醐味なのだ。
僕は、孤独にこのゲームに打ち込んでいた。
そんなわけで、中学生の間は活字を読むなんてことがなかった。
そして、高校生になり、最初の期末試験があった。
そのテストでわりかし上位の順位になり、調子にのってしまった。
周りの人もあまり勉強してないし、自分もしなくていいやと思った。
もちろん、次のテストは壊滅的な点数をとってしまっていた。
その後学校の面談で、担任の教師から「流されやすいところがある。」と言われ、落ち込んでしまったのだ。
これは余談なのだが、テスト前にテスト計画表というものを書いて提出して、テスト後、計画どおりできたか反省を書くのだが、僕は、計画を全て無視して、家で勉強もろくすっぽせずにTVを見ていたのだ。しかも、計画をサボったにしても、他の人たちは、嘘を書いて提出していたにもかかわらず、僕はありのままを書いて提出していたのだ。そして、夏休み前の学年集会で「えー、勉強もせずに一日平均8時間近くTVを見ていた人がいます。」と発表されたのだ。
だが仕方がない、関数や因数分解なんてものを勉強するより、マツコ・デラックスと有吉弘行が独り身について自虐しているトーク番組のほうが遙かに面白いのだから。
考えに考えた結果、なぜか僕は、計画をしてそれをやり通す能力がないのだと決めつけてしまった。
だから、テスト前に計画的に勉強ができないのだと。
そういうわけで、勉強を諦めてそれ以外で将来の役に立つことをしようと考えのだ。
よし、読書でもするかとなったのである。
手始めになにを読んだらいいのか分からず、Googleで検索をした。
とりあえず本屋で、太宰治の『人間失格』と夏目漱石『こころ』『坊ちゃん』『それから』、フランツカフカ『変身』、ヘミングウェイ『老人と海』カミュ『異邦人』と有名どころを買ったのだ。
まず、フランツカフカの『変身』から読み進めてみた。
この作品は、主人公が目を覚ますと巨大な虫になっていたというなんとも奇妙な物語である。正直いって、何を伝えたいのかよく分からなかった。理解が難しいなという印象だった。
次に、カミュの『異邦人』を読んでみた。これもこれでなかなか理解が難しい。単純にストーリーを追っていけば、母親の葬式が終わって、女と遊んで、人を殺して、死刑になったけど、なぜか主人公は幸福で満たされているという一見してサイコパスな主人公の物語と思える。
ヘミングウェイ『老人と海』に関しては、読みやすかった。物語の奥に隠された意味合いみたいなものを理解する必要がなかったからかもしれない。
そして、太宰治を読み、なんか自分と似ているなとありきたりな感想を抱いた。
それから夏目漱石に取りかかった。
『坊っちゃん』は一度読んだことがあったので、すぐに読み終えてしまった。
『こころ』を読んだときは、語彙力が足りないのだが、深いなあと思った。
最後に『それから』を読んだのだ。
この作品を読んだことがある人はわかるかもしれないが、とにかく主人公がぐうたらしてるのである。にも関わらず、親友の妻と恋仲になり、勘当されてしまうという物語だ。
この作品の感想はとにかく暗い感じである。
唯一印象に残っているのは、物語序盤の主人公が居間でぐうたらしながら考えごとをしている場面で、こういった一節である。
「血を盛る袋が、時を盛る袋の用を兼ねなかったら、如何に自分は気楽だろう。」
なんともシャレオツである。
血を盛る袋は心臓のことを表現しているのだが、この一節だけがなぜか頭に残って離れないのだ。
『それから』を読んでしばらくたったころ、いつものように布団に入り眠ろうとしていた。
だが、全く意識が遠のく感じが訪れないのだ。
「眠れない。」
眠るためには、考えごとはしないことだ。
そこで、無意識状態をなんとか保つように集中をしていた。
数分たったくらいで、少し眠気らしきものが顔を出してきた。
「よし、眠れそうだ。」
そう思った時、突然、頭の中で「血を盛る袋が、時を盛る袋の用を兼ねなかったら、如何に自分は気楽だろう。」
この一節がよぎったのだ。すると、もうこれが頭から離れなくなってしまった。
自分の心臓の鼓動に一々注意が向いてしまい、脈拍は早過ぎはしないか、急に心臓が止まったらどうしようだのと考えごとがどんどん湧き水のように溢れてきてしまい、
そうすると動悸がしてくるように感じるのだ。
「だめだ、眠れない!」
夏目漱石よ、あんたは確かに文豪だよ。なんて小説を書いてくれたんだ。
このままでは小さい頃に度々あった、不眠症をぶり返してしまうではないか。
言葉の表現だけで、人を不眠症にさせてしまうほどの才覚。
車の運転中、眠くなったら眠気覚ましのためにメガシャキを飲む人も多いのではないだろうか。
僕は、メガシャキなんて使わなくても『それから』の一節を思い出すだけで、瞬時に目がさめるのだ。ぜひ、読者の皆さんにもおすすめしたい方法だ。
このままでは、本当に眠れなくなってしまい、日が昇ってしまう。窓から光りが射してきてようやく寝るなんてまるでヴァンパイアではないか。いっそのこと『ブレイド』に殺されたほうがマシなのである。
そこで、起きて筋トレをして身体を疲れさせようと考えたのだ。
しばらく腕立て、腹筋を行って少し息があがり、お茶を飲んでまた、布団に入った。
「眠れない。」
筋トレのせいで完全に目が覚めてしまった。
Googleで検索してみると、血流が良くなり逆に目が覚めてしまうらしいのだ。
それでもしばらく布団でじっとしていると、眠気がようやくやってきた。
この日はなんとか寝ることができた。

それから僕は不眠症になってしまった。

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