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盗聴カフェタイム

趣味はなんですか?と聞かれたならば、「そうですねぇ、最近は『盗聴カフェタイム』が楽しいですかね」と答えてしまいそうです。

一から説明します。人と待ち合わせをしている間、隣の席で話している人たちの会話を盗み聞くのって本当に楽しいですよね。これを最近、自分の中だけで「盗聴カフェタイム」と名付けています。時間が余った時は、大抵、本を読むかnoteみたいなSNSを見ているかなので、本来は隣の人の会話はノイズでしかないのだけど、たまに「面白い話を聞かせて頂いたんで、お茶代くらい払いますよ」と、突然、横から伝票をかっさらって差し上げたいとすら思う会話ってありますよね。

先日のお二人。同じ会社で働いている20代後半OLと思われる二人の女の子。二度見してしまうほど綺麗な「美子」、一方、容姿的にはすごく普通な感じの「並子」が向かい合っている。並子は一方的に喋りまくっており、美子はただ優しく相槌を打つのみ。この並子、とにかく突っ込みどころが満載。「自分には何の才能があるか分からないんだよねぇ。だから、転職するにしても、狙いの定めどころが分からない。やっぱさ、一度きりの人生、自分がキラキラ出来る仕事したいじゃん?」などと発言。わっ、今の若い子って、実際にこんな生ぬるいこと口に出して言うんだ、という興奮を覚えた。

「才能」か……私は聞かれてもいないのにグルグル考える。確かに、誰もが持っている「ちょっと得意なこと」というレベルのことなら、「どの程度まで得意なのか」を正確に知るのは難しいと思う。「私はちょっと料理が上手」「私はちょっと歌が上手い」「私はちょっと絵が上手い」という技術的なことや、「私はちょっとモテる」「私はちょっとスタイルがいい」みたいな魅力系のことまで。
「ちょっと得意だなとは思っているけど、それがどれだけのものなのかは分からない」という状態はよく分かる。
ただ、それが「才能」と呼べるステージのものの場合、ハッキリと分かるはずだ。
人って案外、「この人って本当にすごい!自分は絶対にかなわない」という脱帽レベルの他人の美点に気付くと、素直に指摘するものだと思うからだ。あまりに美しい人は、きっと今まで「本当に綺麗だね。芸能人になれるよ!」と何度も言われてきたことだろうし、カラオケが異常に上手い人は「ねえ、歌手になれるってマジで」とか言われてきたはず。そして、その指摘が自分にとって寝耳に水ということは絶対になくって、そのことについては、本人も相応の自負があるはずだ。
ただ、世の中、どの世界にも上には上がいるわけなので、実際にそのことで世間様に認めれられ、それでお金をとれるようなレベルかどうかは、また別問題だけど。
とにかく、「才能」という言葉は、自分が自分に言うものじゃない、必ず他人様から与えられる言葉です、そしてもしも、単なる「得意なこと」じゃなく、「才能」レベルのものが並子にあるならば、今まで必ず誰かにそれを指摘されてきたはずなので、まずそこから考えてみて!と、心の中だけでエアーアドバイスをしてみた。

すると並子は今度はモテ自慢を始めた。「なんかさ、田中さんが、この前の飲み会の帰り、送っていくよとかいって、いきなり井の頭線に乗って来てぇ、てか全然方向違くない?みたいな」
「佐藤さんて、マジいっつも会議の時に私の隣に座るんだけど、あれって何?みたいな。他に沢山席空いてるのに、わざわざ隣に座ることなくない?」と。
それに対し、美子はパーフェクトな回答をしていた。「田中さん、並子と一緒に帰りたかったんだねえ。てかそれ、絶対に下心あるよね」「佐藤さんも並子のこと気に入ってるもんね。そういえば、いつも隣に座ってるね」並子はそれを聞いて「そうなのかなあ……」と満更でもなさそうだった。オメデタイぞ、この子は!
すると美子がスマホを取り出す。「あー……」と憂鬱な顔をする美子。並子は美子のスマホを無理矢理覗き込み、「誰から?」とすかさず突っ込む。美子はちょっと迷いながらもこう言った。「ほら、先週、並子と一緒に行った飲み会。左に座ってた丸顔の人と、真ん中の細い人、いたでしょ?なんか二人とも、すごい勢いでLINEで誘ってくるんだよねえ。引くって感じ」と、心底面倒くさそうに(ここがポイント。全く自己顕示欲なしな様子が格好いい)、スマホをバッグにしまった。と同時に並子の顔がさっと曇る。

ほらね、美しくモテる女の子は、黙っていても男の人からの連絡やお誘いによって、実際に「あなた、モテてますよ」という「才能」を指摘される。私が盗み見た限りでも、美子は「よくいる綺麗な女の子」というレベルを遥かに超えて、オーラすらある美人だったし、その突き抜けた美人ゆえに、それを自らひけらかすことすらしなくていいステージにいる。つまり、「才能」があるわけだ。
「ちょっと得意なこと」は、自分から言わないと気づいてもらえない曖昧なもの、でも「才能」は放っておいても、他人様が気づくもの、そしてハッキリしているもの。そんなことを再確認した盗聴カフェタイムでした。
(NHKのど自慢で、素人なのにこの人、演歌上手いな~と思った直後、ゲストのプロ演歌歌手が歌った瞬間の「すいません!」という感じなんてまさに、「才能」と「ちょっと得意」の間に流れる深い河を表している)

次回は、盗聴カフェタイム「アラフォー女のイタい寿司屋話」をお届けします。

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