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野獣との夜

「野獣の方が格好良くない?」映画館を出て、開口一番こう言い放った女友達に私は激しく同意した。「うん、野獣の方がいいよ」

一から説明します。遅ればせながら、女友達と共に、映画(実写版)「美女と野獣」を見た。「エマちゃん、可愛い~」「黄色のドレス、最高~」みたいなことも当然感じるし、世間の評判通り、とてもウットリな映画であった。小さな村に住みながら、「ここではない、どこか」に思いを馳せ、「もっと広く、大きく豊かな世界があるはず、私はいつかそこへ行くのだ!」という野心を持つ女の子、というのも私の大好物。

でも、そこは一筋縄ではいかない私たち。「野獣のルックス、言うほど悪くない」「王子のルックス、そんなにいいか?」という点について同意し、お互い「さすがだね」と褒め合った。ああ、こんな面倒くさい女たち、王子に見初められることは一生なさそうです……。

野獣が再び王子に戻り、城で民衆の前に姿を現した時のチャラさ、この落胆をどう表現したらいいのでしょう。悪かった頃の海老蔵よろしく、Tシャツに短パン、ガニ股、おまけにロン毛での非常にハスッパな登場に、私はガッカリした。王子と手をつないでいるエマちゃんも、「本を読むことは世界中を旅すること!」とがっついていた頃の知的な様子がいきなり消えていて、「LAでのハリウッドセレブ隠し撮り」的な風情で、「H&M」「GU」みたいな単語が頭を掠める感じ。王子、再び民衆を足蹴にして、毎晩パーティかます予感1000パーセント。

だったら、「こんな僕を本当に受け入れてもらえるのかな……」と疑心暗鬼ながら、びしっとした正装をしていた野獣のほうが、男としてよほど好感が持てる。しかも、アップになった野獣をよく見てみると、悪くない。毎日見てたら怖くもなくなるだろうし、慣れたら割と大丈夫な気がする。第一、野獣の場合、本当に動物なわけでもなく、人間と同じ二足歩行、話すことも出来るどころか、いい声で歌ったもする。真っ赤なスープをスプーンを使わずに顔を突っ込んで飲んだりするけど、それも「やめてね」と言えば直してくれそう。だから、「ああいうルックスの男の人なんだ」と無理矢理思い込めば、異性として愛することも出来るかもしれない……私たちはそう思った。

でも、「問題は毛」だと思う。顔も含めて全身毛むくじゃらの男を愛することが出来るだろうか?先ほど言ったように「それも個性」と思い込むことで、昼間は愛することに成功出来るかも。でも、夜は……。要するに「野獣と実際に致せるかどうか」ということになると、一気に自信をなくす私たち。「多分、思ってるより異常事態だと思うよ。実際にそうなったら、なんか違うなあ、なんて生易しいものではなくて、やっぱり気持ち悪くて、オエってなるんじゃない?」「でも、慣れかもしれないよ。生理的に絶対無理!っていう普通の人間の男と致すよりはハードル低いかもしれないよ」「いや、ハードルはやっぱりとてつもなく高いよ」「毛深い男の人だっているじゃん」「毛深さのレベルが違うよ。密集度が段違い」

色々議論してみても、実際に野獣形態の男の人と致すチャンスは未来永劫訪れないのだから、確かめようがない。「でもさ、毛質によるんじゃない?」どうしても野獣にNG判定を下したくない私は提案する。「あの毛が、上質なぬいぐるみのような、もしくはきちんと手入れされた、ワンちゃんとか猫ちゃんのような、フワッフワな素材だったらどう?もういつまでも触っていたなるくらいのドリーミングな素材。そんなフワッフワな体に抱きしめられて、わー気持ちいい!ってなってるところに、性的な気持ち良さも加わったら、どうする?もう最高の男なんじゃないの?野獣」

「そうかもしれないね」ということで、最終合意しました。

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