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♥マークに涙

「この世に楽な仕事はない」とよく言うけれど、私は、ある意味、この世で最も過酷な仕事は「デリケートゾーン脱毛」を担当するおネエさんたちだと思う。「デリケートゾーン」という名前の付け方こそが既にデリケートなのであって、要するに「股の毛」の永久脱毛のことなのだけど、これ、施術を受けた女性ならもう、それだけで色んな思いを共有出来ると思う。

第一関門は、脱毛サロンへの申し込み。既に、脇だの腕だのの、恥ずかしくない部位の脱毛に通っているサロンなら、「じゃあ、まあ、次はデリケートゾーンもやってみようと思います」みたいな感じの「ついで感」をもって申し込めるし、あわよくば先様から「今度はデリケートゾーンは如何ですか?」なんて切り出してくれたりする。しかし、何らかの理由(パンツからはみ出すのって、やっぱやだな、みたいなことがほとんどの理由でしょうけど)でデリケートゾーン脱毛を申し込みたいと思い立ち、新規のサロンにピンポイントで申し込む場合の勇気というのは、なかなか。まあ今は大抵のサロンがHPから申し込めるから、「希望部位」のプルダウンを「デリケートゾーン」とするだけで済む場合もあるけれど、それでも、会社にいる時に、携帯に予約確定の為の折り返しの電話が来て、「デリケートゾーンをご希望で?」」とか確認されて、「はい」と返事するのって、かなりスリリング。まさか隣の席の男子、今の「はい」が、股の毛に関することだとは想像もつかないだろうな、みたいな。

そして初回。色んなことを覚悟して臨むのだけど、やはりそれ以上の現実が待っている。おネエさんは、ものすごく淡々と個室に登場し、「本日、担当させて頂きます、鈴木と申します」などと挨拶し、何なら微笑む。でも、こちらは微笑まない、恥ずかしすぎて。そして、驚愕のテンプレートを取り出す。つまりは、自分の股の毛の仕上がりを、最終的にどんな形にしたいかという相談をするわけなのだけど、これって本当に普通じゃない状況。大きめな三角(つまり脱毛範囲としては狭い)」「小さめな三角」「正方形」「長方形」「ほぼ真っすぐな縦線」「ハート型」等々、何パターンかのイラストから、希望の形を選べと言われるわけだが、生まれてこの方、自分の股の毛の形を考えるのも初めてなら、それを、今、会ったばかりのおネエさんと一緒に考えるっていうのも、当然初めて過ぎる。即答は出来ないので、「うーん」なんて言いながらしばらく悩むと、おネエさんが「こちら(大きめ三角)なんかが、人気ですよ」とか助け舟を出して来る。でも、間違っても、「お客様にはこちらのワンピースがお似合いですよ」みたいに「お客様にはこの形がお似合いになると思います」とかは言わない。そして結局、無難な形を選ぶが、そこからが本当の地獄。

「こちらのショーツにお履き替えください」と言われて渡される、逆Tバックのような紙パンツ(ある意味、神パンツ)。前面の布が極端に細く、わざと毛がはみ出るようなしつらえで、こんなの普段に履いていたら、変態という言葉では収まりきらないくらいの代物。それを履いて、ベッドに横になり、なおかつ、「膝を立ててください」って……。恥辱にまみれて目を閉じながら、足をM字に。もうそれからはどうにでもなれ、ということなのだが、更なる恥辱はこれから。

「先ほど選んでいただいた形に、剃っていきますね」とか言って、なんと股の上にマジックで線を引いちゃう。そして、その線の外側にはみ出た毛を、シェーバーで、丁寧に剃ってくれる。有り得ない……心も股もくすぐったい。そして、次に「光を当てる前に、ジェル乗せますねぇ。少しひんやりします」と言われ、今さっき毛を剃られ、いきなりむき出しとなった箇所に乗せられたジェルの冷たさよ。なんかもう、軽く気が遠のく。そして「では、光、当てていきますねぇ」と言って、バシッバシッと、光が当てられていく。いやあ、とにかく、痛い。いや、痛いのはいい。あんなに薄くて、粘膜スレスレの箇所なのだから当たり前だ。だが、問題は、痛みの種類が、注射のような「ぐっと堪える」系のものではなく、電気ショック系の鋭い痛みの為、光を当てられる度、条件反射で、体が痙攣したように、ビクッと動いてしまうこと。煌々とした電気の下で、紙パンツから毛をはみ出させた状態で寝転び、知らないおネエさんに、毛を剃られ、ジェルを乗せられ、股に光を当てられ、挙句、ビクンビクン足を跳ねてるって、、、おネエさん、「大丈夫ですかぁ?」」とか優しく聞いてくれるけど、大丈夫ではない気がします。

地獄の時間が過ぎ、「痛かったですよね、お疲れ様です」と言われ、「ジェル、拭き取りますねえ」ということで、ヘラのようなもので、股の上に残ったジェルを丁寧に拭き取られる。その後、ご丁寧にタオルでも拭き取り、「はい、では、お着替えされまして、フロントでお茶をご用意してお待ちしています」って。お茶は大好きなほうですけど、この場合、もうおネエさんと顔を合わさずに帰して欲しい。しかし、すべてはここから帰る為。涼しい顔で、フロントへ行き、Franc francで売っていそうなティーカップに入ったアップルティを飲んでから次回の予約まで取って帰るのだ。

本当に壮絶な現場だ。こっちの気持ちを少しでも和らげ、「楽しいことなんだよ」みたいな雰囲気に持っていこうとする、「お手入れ前に施術箇所の、おふきとりにお使い下さい♥」の注意書きの♥に、おネエさんたちの気遣いが凝縮されている気がする。


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