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男としての帰宅シーン妄想

「自分の妻がフランス料理の先生だったら」……多くの男性は「悪くないね」そう思うだろう。しかし、実際にフランス料理の教室を開いている妻を持つ同僚は、先日のハロウィンをいたく恐れていた。
「あー、帰りたくねぇ。なんでかってさ、多分、今日の食卓はベルサイユ宮殿も真っ青な仕上がりになってるに違いないんだよ。猫足のついた蝋燭立てに蝋燭が何本も光ってて、レースのテーブルクロスの上には、デコラティブな西洋の食器がこれてもかって程並べられててさ、その皿に、数時間かけて濾しに濾した、滑らかな仕上がりのカボチャのスープが注がれるに違いないんだ。怖い、家に帰るのが怖い……」と。

「あいつ(同僚の妻)は絶対にイベントを見逃さないんだ。クリスマスには、見事に光輝く七面鳥を焼き上げるし、バレンタインには、ジャン=ポール・エヴァンにひけを取らないくくらいのクオリティのチョコを作成するんだ。なんか、すげえだろ」と、心底憂鬱そうな顔をする。

共働きやら料理下手やらで、全く料理を作ってもらえない夫族からすれば、なんて贅沢な!ということであるが、私はかなりの男脳なので、なんとなくその同僚の気持ちが分かる。難しいことは考えず、四季の行事を楽しみ、手作り料理を作って自分の帰りを待つ妻は文句なしに可愛らしいが、玄関を開けた途端に「Trick or Treat!」と叫んでクラッカーを鳴らされるレベルになると、ガード下のカップ酒で時間を潰して、ハロウィンを無傷で通過したくなる。

更にその同僚は、「Another Worldを見せてやるぜ」と言って、妻のInstagramのページを見せてきた。スマホの画面一杯に広がる、トイプードルの写真の嵐。ヒラヒラのワンピース着用はまだしも、王冠をつけたり、着物を着たり、ステッキを持ったりしている様々なトイプードルの写真たちは圧巻で、確かに「Another World」過ぎて、一瞬めまいがした程だ。

しかもそのアカウントには、数百というフォロワーがついており、これまた目がチカチカする程の絵文字満載のコメントたちが踊っている。
薄々知っていたことだが、愛犬家たちは、お互いのことを「モモちゃん(犬の名前)ママ」などと呼ぶ。一回のアップに対して、全国の数十のママたちがコメントを返している。
「うわ💓モモちゃん、キュート過ぎます✨朝からモモちゃんのキュンキュンpicに、ルルママも💓💓⤴⤴」「お帽子かぶると、モモちゃん超cool💕✌」「はちみつトリートメントで、うっとりモモちゃんだね。もうすぐ、おねむねむタイムかなぁ💤☺」…………マジか。殺伐とした通勤電車で、このようなInstagramを開くと、そのあまりのAnother Worldの極み加減に、私はむしろうっとりする。太ったサラリーマンたちと押し合いへし合いオフィスに向かう私は、何故、モモちゃんママ💕的な人生を送れなかったのだろう、と、自らの人生すら考えさせれる。

とはいえ、自分の妻が「Trick or Treat!」的なのも「💕💕⤴⤴」的なのも、確かにtoo muchであるからして、じゃあどんな妻が迎えてくれるのが理想なのかと妄想すれば、私(俺)は多分これ。

「アジアンの馬場園が、唐揚げを大量に作って待っててくれる」……これだ。
家では、太った馬場園がいつでも待っててくれてるんだけど、そして、そんな馬場園をとっても大事にして愛してるんだけど、たまには石原さとみともバーに飲みに行って、「あー、今、時計見たでしょ?帰りたいんだ」とか拗ねられて、困った顔で、結局、何も出来ずに馬場園の待つ家に帰るような、そんな感じ。
そんな男、楽しそう!

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