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盗聴ランチタイム ~12時の肯定プリンセス~

最近私は、会社の別フロアにいる、名前も知らない、話したこともない、若くてハスキーヴォイスの女の子に一方的に夢中だ。心の中で「12時(24時ではない)の肯定プリンセス」と呼んでいる。

一から説明します。会社のランチタイム。同僚と外に食べに行く気にはなれないけれど、自分の席で食べるのもイヤという日。私は、あまり知っている人のいないフロアを選び、高椅子が5つくらい窓に向かって置いてあるコーナーの隅っこで、サンドイッチ(SUBWAYとかね)を食べながらnoteのタイムラインに目を通したりする。それは、たった1時間だけでも仕事から離れてトリップ出来る、私にとっては貴重な時間だった。なのに、ここ一か月くらい、必ずと言っていいほど、若い女の子の二人組がやって来て、私と反対側から2つの高椅子を占拠するようになった。彼女たちはとにかく1時間中、大きな声で話すので、本を読もうにも、noteを眺めようにも、全く頭に入らない!最初はそのハスキーヴォイスにイラついていた私なのだが、最近、逆にハマってきてしまった。

よく聞いていると、ハスキーヴォイスの相方の女の子が、一時間のうち八割くらい自分の話をし、ハスキーヴォイスはほぼ合いの手しか入れていないことに気付く。相方が「なんか、ちょっと昨日から調子悪くてさ……」と言えば、ハスキーは「マジかぁ」と心底心配そうな顔を作る。「まだまだ暑いからさ、つい夜もクーラーかけっぱなしで寝ちゃうじゃん?」「マジだぁ。しょうがないよぉ、まだまだ暑いもーん、クーラーつけっぱなしにしちゃうよぉ。」「朝、喉痛くならない?」「痛くなるよぉ、分かるよぉ」「それか、ただの風邪かもしれない」「風邪ぇ?マジかぁ。大丈夫ー?うーん、辛いよぉ」「けどさ、今日の歓迎会はサボれないのが辛いところ」「えーん、マジだぁ。それ、辛いよぉ。早く帰って寝たいところだよぉ」……
何を言おうとも、コイツはオレを絶対に否定しない……!もしも私がくたびれたサラリーマンであるならば、すぐさまこのハスキーを抱きしめてしまうことだろう。ああそうか、そうすればモテるんだな、という、「肯定と反復は大事です」という恋愛セオリーを思い出したりして。

ところが、このハスキーが、ただの肯定ガールではないことが、先日、判明したのである。
SMAP解散騒動―――私はこの問題について、報道されている以上の情報は何も知らず、真実がどこにあるのかも当然知らない(ここに来て、静香も「皆さんが思ってるのと真実は全然違います」とか言い出してることだし……)。ただ、多くの人が感じているように、「覆水盆に返らず」という言葉を改めて噛み締め、一方で、どうにもこうにも苦々しいよね、と思いながら、その苦さの正体が分からないなあと、どこかでぼんやりと感じていた。

ある日、彼女たちの話題が、この騒動に及んだ日のこと。相方が「木村君が裏切ったくさいよね。解散はして欲しくないけどさ、慎吾ちゃん、思い切ったよね」と言った。きっとハスキーは「そうだよぉ。木村君は裏切り者感あるよぉ」と反復&肯定をするかなと思いきや、彼女はきっぱりとこう言ったのだ。「でも、慎吾ちゃんはSMAPの様式美を壊したよねぇ。どっちかが完全な悪で、どっちかが完全な善ならば、これは一種、胸のすく謀反とも言えるんだけどぉ、人間同士のことだから、そんな単純なことじゃないじゃない。だから、何かこれって、とっても後味が悪いよぉ」と。肯定プリンセスが珍しく肯定しないので、相方は呆気にとられたかのように、「そ、そうかな……」と動揺した様子で、すぐさまSMAPの話題は終了してしまった。

そうだ、それだ!その時こそは、私が心の中で、肯定プリンセスを肯定した。SMAPの中で一番年下で、かつては木村君に憧れ、崇め続けていた様子の香取君が、今やその木村君を冷めきった目で見ていること。そして、木村君がハワイ旅行に行っている間に、まさかのSMAP内のチビッコ2名主導で解散を決めたらしいこと。単純な謀反とか快挙とは言えない状態で、年下が年長者を見限るようなことをすることは、何だかとても苦い味がする。最後に来て、まさかあんなチビッコに……という切なさは、OLの私にとっては、従順だったはずの部下が、完全に悪いとも言えない上司に反旗を翻す、という様子に置き換えられてしまう。
上司と部下、先輩と後輩、お互い色々とありながらも、毎日一緒に仕事をしている組織。いいか悪いか、新しいか古いかは別として、「縦社会」の様式美の上に成り立っていた毎日が、下からの突き上げで崩れる……これが苦さの正体なのかも。

肯定プリンセスからは、これからも色々なことが学べそうなので、密かに盗聴を続行させて頂こうと思います。

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