台所ぼかし

かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page26】

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 五、ハルの手紙 ①

  その夜ありさは夕食後にみちるとハルに今日朝から学校であったことを話しました。

「あたしまだあの学校でやることできること、ある気がする。友だちのことも知らなかったこと多いし、先生にもまだ質問してみたいことある。今までは、なんか変だなと思ったり、言ってることがわからなかったりしたとき、ただムッとしたり、まあいいやと思ったりして、そのままになって……でもそれがだんだん溜まって、いきなりバクハツして……関係ぶっ壊したりしちゃったけど、ちゃんと聞いたり、よく見たり、話したりしてみたら、なんだそうだったのかって……わかることあるから。今の学校にしばらく通ってみようと思う。1週間休んじゃったから期末までに取り戻さなくちゃ。奥多摩のミズキちゃんの家には日曜日に行って話してくる」

「無理してないならそれもいいね。その時々に感じた違和感とか疑問はすぐに質問できないことあるから、メモしておくといいんじゃない?とりあえずメモっておいて、あとで読み返して、これは質問しようと思ったら遠慮なく素直に聞いてみるといいよ。ちゃんと質問に答えてくれるかどうかは相手次第だけど。それによって相手の心の中もわかるかもしれないね。ところで担任の先生とのことはもういいのかな?学年主任の豊田先生にはありさのけがが治り次第こちらから連絡して面談をお願いすると言っておいたけど」

「戸部先生はカラコンのこと何回も言ったこと謝ってくれたし……もう、うちらがなんか言ってそれを聞くような元気はなさそう」

「戸部先生のこともなんだか気になるね。学校にいるのに担任は外されるって……何か調査しての結果ならそれも聞きたいし……ともかく明日にでも豊田先生には電話してみるね。あたしもあのままになってるのは嫌だし」

 ハルは翌日昼休み頃学校に電話したのでした。

 電話に出た豊田は

「は?玉置さん?ああ、藤崎さんの下宿の……はい、確かに先日お会いしましたね。今日はどのようなご用件ですか?」

「先日は突然お邪魔してお時間をとってくださりありがとうございました。また後日改めてお話をする機会を持つということでしたので……」

「はあ……退学のご希望の面談でしょうか?その場合は保護者の方に来ていただくようになりますが……」

「いえ、昨日ありさが登校して学校であったことを話してくれました。担任の戸部先生には何回もカラコンのことを言ったことを謝ってもらったそうです。退学願いの用紙のことも友だちとの気持ちのすれ違いから起きたことで、1週間よく考えてみた結果、退学はせず、自分ができることをがんばってみるそうです」

「戸部が謝ったのですか?……それで藤崎さんは納得したのですね。健康上の都合で担任の業務は今後はいっさい高村が代行することになっています。この件に関しては終了ということでよろしいのですね。今後は三学期に三者面談がありますので、保護者の方が高村と面談してください。それでは失礼します」

「あの、あの……豊田先生……」

(ああ、切られちゃった……下宿屋のおばはんには用はないってことか……)

 その晩の食事中、ハルはほとんどしゃべりませんでした。そして食事が終わるとすぐ、あと片付け後の確認を恵美に頼み、自分の部屋に入ってしまいました。

「体調でも悪いんですか?ハーブティー入れましたよ」

 恵美が心配してハルの部屋をのぞくと、ハルは机に向かって何か書いているところでした。振り返ったハルは立ってお茶を受け取ると

「ありがと。まあ歳だからちょっと疲れてはいるけどね、具合が悪いわけじゃないから心配しないで。はい、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 翌朝、ハルはありさに封筒に入った手紙を渡し

「これ、学年主任の豊田先生に昼休みか放課後に渡してくれないかな。封はしてないからありさも読んでいいよ」

「はい、わかりました。それじゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」

五、ハルの手紙② に続く



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