かすかべ思春期食堂~おむすびの隠し味~【Page25】
四、ありさの決断 ⑥
ありさはゆいからもらったおむすびを一口二口食べると、以前ゆいが言っていたことを思い出しました。ゆいのお母さんが仕事に出かける前に炊飯器のご飯全部をおむすびにしていくこと。中身は梅干しやおかかなどに混じって前の晩のおかずが入っていること。
(あ、昨日のおかずはコロッケだったのか……)
ゆいの家のおむすびの味を味わったありさはしおりとゆいが座っている席の前に立ち
「ごちそうさま。おいしかった。それから……」
「あのさ……」ありさとしおりが同じタイミングで同じ言葉を……
「ごめん!」また同時に……
「やだ~、あははははは。こういう時なんていうんだっけ?ハッピータン?」
「ウケる~!ハッピーアイスクリームでしょ!じゃあ先に誰が言う?」
「はい!」(挙手)「はい!」(挙手)「はい!」(挙手)
「どーぞどーぞ!」と二人。お笑いの真似をして三人とも笑いました。
「じゃあ、マジにいうけど……あたし今までしおりやゆいの気持ち考えないで、自分のことばっかりで、わがままで、ほんとにごめん!いやな奴だって思ってたでしょ?嫌われてもしょうがないけど、あたしは友だちになってくれたこと感謝してる。ありがと。あたし今日は診断書を出すのと、しおりとゆいにありがとうとごめんを言うつもりで来た」
「なにその素直ないい子ぶり。やだな~、ありさ。こっちも素直に告白しなくちゃいけなくなるじゃん!ほんとはありさのことちょっとムカついてて、いたずら半分で退学願いの用紙入れたけど、ほんとに学校来なくなったから心配になってたんだ……ごめんね、ありさ」
「ああ、そうなの?いたずらだったの?あたしは親切に入れといてくれたと思ってた……あはは」
「マジで?!」
「いやうそ……」
「どっち~っ?!」
三人はもうどうでもいいことのような気がして笑いました。
「でもさ、今朝ありさが高村に質問した時、なんかぐっと来た。それから初めて上田の声聞いてさ、びっくり!上田を見てよ。ほら」
ありさが上田の席のほうを見ると、上田が女子二人と何かしゃべっています。
「いつもだれともしゃべんない上田が先生への質問をきっかけにさ……モテ期到来?やっぱ、声がさ、意外にもいい声だったから……」
「声?……そっちか~い!」
また三人で大笑いしました。笑ったあと、しおりは急に真顔になり、ぽつりと
「うちでもこんど質問してみようかと思うんだよね、パパに。今まで聞けなかったこと。あたしのこと、どう思ってるか……。怒られそうな気がするけどね、もし、それで家にいられなくなったらありさの下宿に住まわせてもらう」
「いいじゃん、部屋一つ空いてるから。そうすれば?」
「いいなー、あたしも住みたーい」とゆい。
「このあいだのいも煮、おいしかったもん。今度いつやるの?」
「来月だね。ふたりとも来ればいいよ。その代り手伝ってもらうから」
ありさは二人を来月のくらやみ鍋に誘った自分が、そのときまだそこにいるという決定をいつのまにかしているのでした。
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