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陽だまりの粒(拾)

咲が怒って午後の授業をサボる為に昼休みに学校から抜け出したすぐ後に、咲のクラスメイトの友人である貴代と優子が咲を追いかけて来て一緒に授業をサボる事にした。
赤トンボの群れが飛ぶ青空の下で自転車を漕ぐ三人だが、「貴代ちゃんも、優子ちゃんも授業サボるの初めてでしょ?」咲はちょっと気が大きくなって二人に聞いてみた。
「初めてだからちょっとワクワクする」貴代がそう言って笑うと、咲は「明日学校に行ったら一緒に説教喰らうな」と冗談半分に貴代をからかった。
優子は「それはいいけど今から何処に行く?」月曜日の昼下がり時間だけは有り余っている女子高生が何をしようか?

咲は今日、街に行く事を最初から考えていなかったのでお金を余り持っていなかった。
貴代と優子も同じである、学校から自宅が近い三人は授業をサボるまでは良かったがこの後に金欠の為に何処にも行く所がないと言うことになり、サボり計画はいきなり頓挫する事になった。

「咲の家に行っていい?」優子が提案すると、
貴代も咲の彼氏の写真がどうしても見たくて、二人で咲に頼み込み咲の家に遊びに行く事になったが、その前に三人は智美の実家のスーパーで食料品と飲み物を買ってから行く事にした。

三人がスーパーの駐輪場に自転車を止めて店の中に入ろうとすると、里香の家の美容院で働いている結花が買い物を終えてスーパーの中から出てきた。
「こんにちは」咲は結花に挨拶をして頭を下げると結花は「どう昨日のデート楽しかった?」と聞いてきた。
「凄く楽しかったです!!」と咲はハツラツとした口調で応えると結花が「ちょっと咲ちゃんに渡したい物があるんだけど時間取れるかな?」
結花は貴代と優子の方を見ながら「少しだけごめんね」と言うと四人はスーパーの隣にある喫茶店に入って行った。

女子高生三人がクリームソーダ、結花がコーラフロートを注文して話が始まった。

「三人で楽しく遊んでる所をゴメンね!どうしても咲ちゃんにこれ渡したかったのよ」
結花はそう言いバックから茶封筒を出して咲に渡した。
咲は何が入っているんだろうと不思議に思いながら茶封筒の中身を取り出すと"サイレンサー"と書いてあるミニコミが出てきた。咲は最後のページを見ると雪野 和彦の名前があった。
「えっ」咲が声を上げて結花の顔を見るとニッコリ笑って頷いてくれた。
貴代と優子は何が何だか分からない顔をしていたが、咲は「私の彼氏が前に作ったミニコミだよ」と説明した。

「結花さんの名前もあるけど和君とはどんな仲だったんですか?」クリームソーダを飲みながら、咲は少し不安な表情で結花に質問してみた。
結花は少し笑って「へぇ~和君って呼んでんだ、咲ちゃんって可愛いな!
和彦とは高校の同級生ただそれだけ、
キスは勿論、手も繋いだことも、デートもしたことがない。まあ言ってみれば一緒に世の不条理と闘う同志だったな」結花は遠い目をしながら咲にそう言った。

「この当時和君には彼女がいたんですか?」咲が結花に質問すると、咲と同じクリームソーダを飲む貴代と優子から「咲が普段とは違う人みたいだ」と突っ込みが入った。
「私が宮古にいた時は、和彦に彼女はいなかったな、一回誰かに告白して断わられた事があった気がするけど忘れた。あの時の和彦は今よりも人当たりがキツかったんじゃないかな?どう咲ちゃん和彦は優しい?」
「他の人にはどうか分からないけど、私と私の友達には凄く優しいです…そうそうこのミニコミのスタッフの人達をLIVEで会ったことがないんですけどPUNKを止めたんですか?」どれどれと結花はミニコミを覗くと少し間をあけて記憶を整理してから話を始めた。

「え~とね、この号が出た後にサイレンサーと他の市民団体との共同企画で青森県六ヶ所村にある核燃サイクルの反対運動をやろうと和彦が企画を持って来たんだ!途中まではスムーズに行ってたけど、向こうの代表が心変わりしちゃって宗教に入ったからその余波がこっちまで飛んで来たのよ」

咲は真剣な眼差しで結花の話を瞬きもしないで聞いていた。
(咲ちゃんは和彦の事がそんなに気になるんだ…私の予想以上の惚れようだな)

「和彦は話が違うと宗教団体のアジトに一人で乗り込んで行ったけど、今度はサイレンサーが気に入らないとクレームを付けられたわけさ」
話を聞きながら、ミニコミを読んでいた貴代が結花に質問した。
「今私が読む限り、記事が軽快に読めて訴え方が優しいから凄く分かり易くて文句の付けようがないんだけど何でこれにクレームが付くんですか?」

結花はコーラフロートを1口飲んでから三人の顔を見て話を続けた。
「宗教にも色々あってね、サイレンサーが問題になったのは和彦が書いた反原発の記事と、私が書いた女性の権利の記事なの…普通なら問題にならなくてもその宗教は原発増やせ、核兵器万歳で女は男に従って黙れ…という教義なのよ」

「エッ?そう今咲ちゃんが言った男根主義(笑)そのものなの、君たちの考え方は間違っているとノイローゼになるくらいに電話でも粘着質に言われ続けて、要するにサイレンサーを利用して宗教の宣伝を載せたかったのね。最後は和彦が利用されるのはイヤだと強引にサイレンサーを終わらせたわけ」

結花が咲の顔を対面から見ると目に涙を浮かべてうつむいていた。
「咲ちゃん二年も前の話だから気にしなくていいから、あの時の和彦は20歳になったばかりで、あれで精一杯だったんだよ」
「あっそうそう」と結花はバックの中からもう一つ茶封筒を取り出して「これ家に帰ってから開けて見て」と咲にもう一つの茶封筒を渡した。

「もしよかったら、その続きを咲ちゃんが書いてくれたら嬉しいな!! 実は終わらせたサイレンサーを和彦と二人で復活させようと影で静かに動いていたのよ」結花は咲の目を見て微笑んだ。
「私からの咲ちゃんへの伝言はここまでです。昔話だけど久しぶりにこんな話をして凄く楽しかった。今日は付き合ってくれてありがとうね!和彦によろしく言っておいて」
そう言って結花は席を立とうとしたが咲が質問をしたため結花は席に座った。
「すみません、結花さんに質問です。
サイレンサーは誰かの所に集まって編集してたんですか?」
結花はにこやかに質問を聞き言葉を選んで咲に回答した。
「サイレンサーの編集は土曜か日曜日の夜に和彦の部屋に集まってやっていたよ、全員集まる時もあれば一人しか行かない時もある。
和彦の部屋でレコード聞いたり、本を読んだりビデオを見たり編集そっちのけで皆んな好きなように遊んでた、きっと居場所がない人の溜まり場だったんだろうね」

結花は話が長くなるかなと思ったのか、女子高生三人にコーヒー飲む?聞いて「ママ、カフェラテ三つにカプチーノ一つお願い」と注文した。
「結花さんは、和君の部屋に泊まったことがありますか?」咲は聞きたいことを全部聞こうと結花に質問を投げかけた。
「私は特待生だから、シャワー付き夜食付きで毎週土曜日の夜は和彦の部屋に泊まってたよ」

女子高生3人が「エッ」って顔で結花を見たが
「君たちイヤらしい事考えてないか?だから最初に言った通り私は和彦と何もしてない!!」
しばし沈黙がその場を支配したが、結花が言葉を発して「普通なら男の部屋に一人では行かないよ、でも和彦だから部屋に一人でも行けた!
この意味が分かるかな?」
女子高生三人は顔を合せてその意味を話し合い、一人一人が結花に意見を言ってみた。
「答えが知りたい?」結花の問いに女子高生は「はい」と返事を返した。

「答えは信頼だよ、信頼!! 和彦がベッドに誘うために口説いて来たり、突然襲って来るようなクズ男だったら最初から一緒に何かを始めようなんて思わない…そうだよな!!」
女子高生三人は結花の圧力に押されて思わず「はい」と返事をしてしまった。

ここで結花が注文したコーヒーが運ばれて来て喫茶店のママにもっと優しくねと結花は諭された。
「あの時は、和彦よりも私の方が人当たりは数倍キツかったと思うよ…革命家気取りだったのかな?何かをやる以上は結果が出せなきゃダメだと常に思っていたからね」
「和君と結花さんは何でバラバラになったんですか?」
「さすがだ、咲ちゃん偉い!そこを話さなければ皆んな帰れないからね…私と和彦がバラバラになった訳は、情けない事に私が疲れてしまってね…」

「結花さんの話を聞いていると凄い刹那なんですけど…背負う物が重いなと…だけど私とそんなに歳が離れているワケでもない…」
「何か咲ちゃんにインタビュー受けているみたいだな(笑)私は気を張って生きていたから、
崩れる時は一気に崩れた。地下鉄御堂筋事件で半分心が折れて綾瀬コンクリート殺人事件で完全に心が壊れた…和彦には言ってあるから知ったいるけど私は中学時代時代に性被害にあっているのよ…それで物言う女は強姦して黙らせろみたいな男の欲が垣間見えて怖くなったのね。
まあ働いていた美容院もママが店を閉めると決めたので、和彦には何も言わないで一関のお爺ちゃんの家に戻ったのよ」
「それを知らない和君は…」
「美容院に行ってビックリしただろうネ(笑)
和彦には悪いと思ったけど、もう私は限界だった…どんな近い仲でも同志と恋人は全然違う。恋人と違って同志は弱い部分は見せれない…
私が言いたいのは以上です!さぁ帰ろう」
パチパチパチパチパチパチ女子高生だけでなく
店のママも拍手をした。

四人は喫茶店を出てスーパーの駐車場で別れたが、女子高生は授業をサボって課外講演会を受講した気分だった、貴代と優子は咲の彼氏に興味津々で今度は咲が二人からインタビューを受ける番になってしまった。

迷宮 - RAP

夢の中で問いかける
過ぎた矛盾の裏側を
電車の鼓動を聞きながら
毎日 朝に問いかける

ひっつめ髪に心を託して
無気力な人の群れに
身を任せ たった束の間の
自由まで 唄えない

鏡よ鏡 髪をほどき
本当の わたし 映し出して

迷い込んだら出られやしない
意識の奥の迷宮の中
逃げ道の無い叫びと憂鬱
問いかけに答え無し

日常が真実の顔なら
真実など ありはしない
鏡は逆さに世界を映し
何もかも隠される

(次回最終回)

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