見出し画像

古い店のシャッターに貼られた紙と、そこから考える明日のスモールビジネス。

子供の頃から実家の町内にあった「スナック・喫茶 くれよん」が年末を待たずに閉店する。寿司屋のおかみさんが旦那さん亡き後始めた店だが、先日の台風で店の看板が吹っ飛んだのが契機か、あるいは寄る年波のためか。


子供の頃。くれよんの前を通った時、幼い俺の手を引く父に「このかんじはなんてよむの?」と聞いた。母は隣で、生まれたばかりの妹を抱いていた。

読み方を教わった途端、俺の心に広がったのは、父に連れて行ってもらった喫茶店の風景。「きっさてんはクリームソーダがでてくるところで、スナックはおかしのことだ。おとながたくさんいて、おいしそうにタバコをすって、にがいコーヒーをのんで、たのしいおはなしをして、わらうんだな」と、俺は胸をドキドキさせたものだ。

「こんどつれてって」と頼んだが、父も母も笑うばかりであった。

またひとつ、店が消えていく。

***

後継者がいない。それが理由でなくなるスモールビジネスは多い。社会問題になりつつある。家族経営という形自体、今の時代では継承が難しい。小さな工場や店はこれからもどんどん減っていく。景気とは関係のない場所でも、事業はどんどん潰れていく。

人を雇えば、その中から後継者を見出し、育てることができるかもしれない。そうすれば、創業者が引退したり死去した後でも、看板は残る。だが、おべっか上手の面従腹背野郎が事業を乗っ取ったり、血縁だけで継いだ能無し2代目が事業を潰すリスクは変わらない。そして仮に続けられたとしても、後継者らが創業の精神を大切にするとは限らない。名前だけ残っても、中身は別物になる。規模に関わらず、事業の世代間継承は難しいものだ。

ここから先は

1,113字

寄せられたサポートは、ブルボンのお菓子やFUJIYAケーキ、あるいはコーヒー豆の購入に使用され、記事の品質向上に劇的な効果をもたらしています。また、大きな金額のサポートは、ハーミットイン全体の事業運営や新企画への投資に活かされています。