俺のギター道 第1話/全5話

<第一話> デビュー

都内私立大学一年生の篠井久志は、大学生になって初めてギターを手にした。マイペースを地で行く彼について、いくつかのエピソードをお話ししよう。

彼は高校生までは生粋の茶道部で、和を尊ぶ少年だった。外見も、黒髪短髪の地味な少年だった。

特に憧れるミュージシャンがいたわけでもない。ではなぜそんな彼が軽音楽部に入部したのか。

入学式直後、正門前で

「燃やせ青春! バンドやろうぜ☆」

と書かれた新入生歓迎用のチラシを押しつけるように渡された。

ニコニコ営業スマイルの上級生に久志は、無表情で

「あの、茶道部は何処でございましょうか」

一言発し、それがやたら上級生にウケてそのまま、騙される形で軽音楽部のボックス(部室)へ案内されたのだ。

とっ散らかったボックスには、めいめいの好きなミュージシャンのポスターが所狭しと飾られていた。その中でも異彩を放っていたのは、ヴィジュアル系バンド「アークボーイズ」のポスターだ。ヴォーカリストが白衣を着て、メスに見立てたマイクで歌うスタイルが一部の女子に人気らしい。

(よくわからない)

というのが久志の抱いた率直な印象だった。視線の落ち着きどころがないので部屋をキョロキョロしていると、興味を持ってくれたと勘違いした先輩が、自分のギターを出して久志に差し出した。

「どうだ。メンツが揃えばハコでもできるぜ」

「……?」

先輩の言っている意味がよくわからなかった久志だったが、茶道で「花は盛りに月は隈なきを見るものかは」(侘び寂び)を心得ていた久志は恭しくこうべを垂れて、

「そうでございますか」

と言った。それがますます気に入られ、

「お前、おもしれーな。エモノは何にする? 何か経験はあるのか」

「獲物? 狩りの経験は無いっす」

「ああ、あー。カーリーね、あれはちょっとディープなバンドだからな」

「……」

「特技は?」

「……お茶を、少々」

「ならリズム感は心配いらねーな」

この先輩もどこかずれているようだ。

「けどドラマーは今、足りているんだよ。この間ギタリストが一人やめちゃったんで、ギター、どう?」

「ギターどう……。……ギター道?」

「そう、そうそう、ギター道。ヤバいよ。今きてるよ」

何が来ているのかよくわからない久志であったが、「道」と聞いて黙ってはいられない。

「俺にできることなら、やります」

そうしてあっさり承諾、というか宣言したのだった。

サークル活動の衰退の激しい昨今、人気の軽音楽部の新入生は久志を含めてたった3人だった。その3人が初めて顔を合わせたのは、入学式から2週間後の新入生歓迎コンパだった。

「どうもー。中山っていいます。サトシって呼んでくださいー」

一人目は中山聡。一浪して入学しているので久志の一つ年上、見た目はどこにでもいるような、普通の大学生だ。

「好きなバンドはアジカンとかバンプとか。キーボード希望でーす」

どうやら小さいころからピアノを習っていたらしい。どこか軽薄そうだが、悪い奴ではなさそうだ。

「えっと……榎本行宏といいます。よろしくお願いします」

二人目は榎本。黒髪を丁寧に切りそろえている、真面目そうな男子だ。軽音楽という雰囲気ではない。どちらかというと読書が好きそうな外見なのだが、

「レディヘとかクリムゾン好きです……楽器は経験ありません」

意外にもプログレを聴くらしい。後にわかることだが、彼もまた久志同様の手口で部室に案内され、そのまま入部となったクチだった。その時の勧誘も、久志にギター道を勧めた(?)あの先輩だった。

「はじめまして。篠井久志ッス。リズム感は問題ないそうです。ギター道を極めに来ました」

本人はいたって大真面目に挨拶するのだが、それがどこかずれた形で周囲には反響するようで、

「いいねぇ、ロックしてるね!」

先輩達は上機嫌だ。なぜなら、軽音楽部に入ると決めた久志が、その日のうちに髪を金色に染め、ミュージシャンさながらの格好、口調を意識し始めたからだ。

「まぁ、大学デビューね」

と彼の両親(主に母)は喜んだのだが、

「似合わなーい」

と妹には不評だった。

まずは形から入るべしとばかり、久志のファッションは激変した。何を参考にしたらいいのかわからなかったので、本屋でロキノンなどを立ち読みした。特集が偶然にも「ヴィジュアル」だったものだから、彼の方向性はそちらに決まった。ボックスでポスターを見かけた「アークボーイズ」も気になったが、日本を席捲したあるバンドのギタリストと自分の名前が一緒であることに、彼はある種の確信を持った。

(縁があるんだろうな)

その日から自分的に『久志』ではなく『HISASHI』と名乗るようになった。その旨、高校時代の友人にラインしたのだが、

久志「俺、今日からHISASHIだから」

友人「久志、悩みでもあるのか? 相談なら乗るぜ」

久志「いや、今日からHISASHIだから」

友人「HISASHI、相談なら乗るぜ」

彼もいい友人を持ったものである。

#小説 #短編小説 #青春 #ギター


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笹塚 心琴

掌編・短編(こころのかけら)

これまでとこれからを見つめた、掌編や短編たちです。

コメント10件

わぁ青春してますね😉
私も久しぶりに青春18きっぷしたい😄次がワクワクです( 〃▽〃)
nautaさん、ありがとうございます😊青春を思い出しながら昔々に書いたものです。続きをお楽しみに!
こーれーはー!楽しみな彼ですね!ニヤニヤw 音楽絡みの作品てことでも あたし的にはめっちゃここからの展開が気になります!
ちびまゆさん、ありがとうございます😊自分としては珍しい作風の作品のリライトになります。続きをお楽しみに♪
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