シンプル

今どき流行らない煙草をくゆらして、薄ら笑いながら彼は呟く。

「生きることにいちいち意味を求めるから、苦しくなるんでしょ」

日曜の夕方、多くの人に憂鬱が襲いかかる時刻。私もまたそのうちの一人で、何のために生きているのだろう、といった趣旨の発言を漏らしたのを受けての言葉だ。

彼はとても優しい。今日のランチで訪れた映画館横のカフェで、自分たちの近くで店員が皿を割った音がしたとき反射的に「すみません」と謝ってしまうほどだ。しかし、優しさも度を越せば、そこにつけ込む奴がいることを知っている私は半ば怒って、

「なんで、まぁくんは何も悪くないのに謝るの。罪をひっかぶっちゃうよ」

そう言った。彼は「ごめんね」とだけ言って、そのまま映画館に入ったので、その表情を確認することはできなかった。

観たのは、「blank 13」という映画だった。内容には特に触れないでおくが、大切な人のことは可能な限り大切にしなければ、と感じさせる映画だった。

そして、家に帰ってきて突然、明日が月曜日であること、金曜日に仕事を残して帰ってきたこと、記録したデータが消えてないか不安なこと、細かいことを諸々考え出して、ブルーになった。ごく小さな絶望である。その想いのはけ口を求めるようにスマホを取り出して私が詩のような文章を書き始めた時のことだ。

『生きていることに意味が必要ならば』

この一文が、彼には引っかかったらしい。

「要らないよ」
「え」
「生きることにいちいち意味を求めるから、苦しくなるんでしょ」
「……」
「生まれて死ぬまで、生きる。それだけだよ」

それだけ言うと、彼はタバコの人を消した。

「僕はそう思うだけ。心琴にそれを押し付ける気はないけど」
「そう」

彼は優しい。とても優しい。まるで内に閉じ込めた獣をあやすために子守唄を歌うのに必死になっているように、とにかく優しい。

その優しさを責めることは、私には、まだできない。これからも、きっと、できない。

彼の横顔に魅入ってしまう。何かを悟ったような、何かを諦めたような、薄ら笑いのなかにさえ優しさを込めて、今、何を思うのだろう。

生まれて生きて、死ぬだけ。

その言葉が心に深く沈んでいく。私は日曜日の夕方の憂鬱のことなど、すっかり忘れてしまったのだった。

#日記 #シンプル #映画

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笹塚的日常(日記・エッセイ )

日常を綴ります。中の人は相当のんびりな感じです。

コメント2件

生まれて生きて、死ぬだけ。彼の優しさは、気が弱い人の優しさではなくて、常に深い思慮が根底にある人の優しさなんですね。本当に言葉が深く胸に沈んで、沁みます。
やや煮詰まっていマこさん、ありがとうございます。彼をそんな風に言っていただけて嬉しいです。生まれて死んでいく、それだけかもしれないのですが、出会えたことや人には意味があると思いたい自分もいます(^^)
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