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「スポーツの社会的責任」を日本バスケ界で育む~早稲田大学スポーツジャーナリズム論取材特別公開~

去る11月中旬、Her Pivot ディレクターの梶川三枝が、早稲田大学のスポーツジャーナリズム論の授業の一環として、横浜ビーコルセアーズでインターン中の山﨑結依さん(早大3年)から取材を受けました。その内容を、特別に公開させて頂けることになりましたので、本日の国際女性デーを記念し、掲載させて頂きます。

(以下、山﨑さんのレポート内容)
「スポーツの社会的責任」を日本バスケ界で育む
—–社会起業家 梶川三枝が見たNBAとこれからのBリーグ
 
文化構想学部3年 山﨑結依
 
きっかけは高校時代の友人にかけた電話であった。

「ここに行ったらNBAでインターンできるよ」

電話に出たのは友人の母親だったが、梶川にオハイオ大学への留学を勧めてくれた。オハイオ大学は1966年に世界で初めてスポーツ経営学の修士コースを開設した大学であり、アメリカのスポーツビジネス界で活躍するオハイオ大卒の重鎮の方々は非常に多い。そのころ梶川三枝は外資系の証券会社に勤めていたが、思い切った行動に出る。

「NBAでの経験を日本バスケ界に還元する」

その信念を胸に、働いていた証券会社を辞め、オハイオ大学大学院に飛び立った。

そして、日本人女性として初めてNBAビジネス部門で採用される。
 
梶川は優勝翌シーズンのデトロイト・ピストンズのコミュニティー・リレーションズ(CR)部門で半年間インターンとして働いた。コミュニティー・リレーションズの部門では、サインアイテムをチャリティーに送ったり、ハーフタイム中の表彰式に携わったり、と多岐にわたる業務を、NBAから支給される片手では持てない分厚さのマニュアルと共に行った。

コミュニティー・リレーションズでの活動はまさに「社会的責任活動(SR活動)」との出会いであったと振り返る。当時のNBAのコミッショナーDavid Sternは、スポーツの社会的責任活動への積極的な取り組みを推進した。「社会性の高いスポーツをコンテンツにして営むNBAこそが、社会的責任を果たす必要がある」という考えのもと、2005年にはNBA Caresが立ち上げられた。梶川は、NBA Caresの原型が築かれていくその現場にいた。当時は、識字率の低さという社会問題に対してReading Timeoutを実施していたと言う。NBA選手も赴き、子供たちが読書をする習慣を促すイベントを毎月行っていた。

インタビューでの梶川のこんな言葉が印象的だ。

「やはりチャンピオンだとか、選ばれし者、幸運を掴んだ者は、社会に還元する責任がある。」
「NBAの凄いところは各カンファレンスで優勝すると、さらにステップアップしたSR活動を行わなければいけないと義務化されていたこと」

梶川の在籍した2005年、ピストンズはカンファレンスで優勝し、2年連続のNBAファイナルへと進んだ。

さまざまな面で、チームにかかる地域、リーグ全体からの期待感を実際に肌で感じたという。コミュニティ・リレーションズ部門を中心に、ファイナルのホームゲーム時には、Reading Timeoutから一歩踏み込み、ホームゲームでファンから古本を集め、貧しい地区の小学校に図書館を作った。
 
持ち前の行動力で、NBAドラフトやBasketball Without Boardersのイベントなど様々な経験をし、全てを吸収したという梶川。アメリカ留学中に、飛行機に乗った回数はなんと50回以上で、片道7時間の直線ドライブもこなした。
 
そうして日本に戻ってきた梶川は、オリンピック招致委員会勤務を経て、スポーツの社会的責任活動のコンサルティングサービスを提供する株式会社Cheer Blossomを設立した。BリーグのCSR活動「B.League Hope」の立ち上げに関わり、現在は複数のBリーグチームのSR活動コンサルティングを通して、「スポーツの力」を活かした社会的責任活動の方向性を日本バスケ界に示してきた。まさにNBAでの経験を日本のバスケ界に還元しているのだ。
 
しだいに人気が上がってきた日本バスケ界だが、今後どのように進んでいくのだろうか。日本とアメリカ、両バスケリーグを見てきた梶川に、NBAとBリーグの違いについてあらためて訊ねた。

「『ファンを大切にする力』だと思う」

まず、梶川はそう答えた。77周年目になるNBAと8周年のBリーグ、「どれだけファンを大切にできるか」というところに1番の格差を感じるのだと言う。スポーツビジネスとして発展途上であるBリーグは、まだまだスポンサー主義が強い。「ファンファースト、スポンサーセカンドであるべきだ」と梶川は信じている。ファンとの関係性の質の向上に投資をすると、もっと良いビジネス展開が生まれるのではないかと考えている。

「2つ目に『選手を大切にする力』」

Bリーグチームは営業を選手に頼り過ぎていると感じている。試合終わりのファンクラブ会員を対象にしたサイン会や写真撮影会、この選手との近さは発展途上のBリーグならではであろう。しかし、リーグの成長フェーズが上がり、規模感が大きくなるにつれて、ファンと選手の距離感をこのまま保っていくのにも限界がある。少なくとも試合当日は選手を試合に集中させる、この環境づくりもビジネス部門のチームスタッフの仕事の一つであり、ファンに良い試合を提供することにも繋がる。チームスタッフはファンやコミュニティの声を聞き、選手に頼りすぎない魅力づくりも進めていく必要があるという。

 今年のW杯で男子バスケットボール日本代表がパリ五輪進出を決め、日本バスケ界はこれまでにない盛り上がりを見せている。また、2026年から始まる「B革新」によってBリーグは新しくなっていく。

日本バスケ界がNBAに今見習うべき課題は『ファンを大切にする力』『選手を大切にする力』。これらを解決した上で、「次のステップとしてSR活動が重要になってくる」と梶川は言う。SR活動を通して、社会やコミュニティと対話しながら「スポーツの力」を用いて社会をより良いものへと変えていくことを目指している。
 
NBAを体験した梶川が語った「スポーツの力」「選ばれしものは、社会に還元する必要がある」。それは決して、アスリートだけのことを指しているわけではない。梶川が紡いだ言葉は、「スポーツの力」をどのように社会に還元していけるのか、もっと探求していきたいと感じさせてくれるものだった。 

2023年11月13日 筆者のインタビューを受けるために早稲田大学までわざわざ赴いてくださった

【インタビュアー山﨑結依さんコメント】
スポーツ業界でご活躍する梶川さんの取材を通して、社会貢献活動というスポーツビジネスの一面や、NBAでの経験を知ることができ、沢山学びがありました。
特に、「スポーツの力」で社会に与えられるインパクトの大きさに感銘を受けました。インターン生ですが、バスケに関わっている者として、「スポーツの力」で自分がどのようにコミュニティーに還元していくことができるのか考えていきたいと思います。
梶川さん、お忙しい中、取材に協力をしていただき、本当にありがとうございました。

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